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13話 巫女まほアイドル2

「見てくださいまし、このシンプルかつ華麗な飾り付けを。他の道よりも格段に完成度が高いですわ」


 放射状に広がる大通りの中心点となっている広場で一度足を止め、ルシエラは振り返って自らの飾り付けを見て欲しいとミアに促す。


「ん。道路、改めて見るとどの通りも綺麗に一直線なんだね。飾り付け映えるね」


 ミアは広場から車輪のように伸びる大通りをぐるりと見回し、最後にルシエラが飾り付けた通りを眺めて小さく頷く。


「ですの。昔は今ほど魔法が効率化されておらず、大地を走る魔脈や自然由来の魔力が今以上に重要な資源だったのですわ。故に古都と言うのは得てして魔力の流れを潤滑にする工夫が随所に施されておりますの。

 町全体が魔脈という大河から魔力を引っ張って来やすいように整備された用水路みたいなものですわね」


 ルシエラはミアの同意が得られたことで満足し、自慢げにうんちくを語っていく。

 ミアの同意が得られれば怖くない。やっぱりあの魔石飾りは不要で、自分の美的センスは間違っていなかったのだ。


「なるほどねぇ。魔法協会の一件以来、街の魔力濃度も高くなってるってシルミィがぼやいてたけど、そう言うことだったのね」

「更に言えば魔脈の魔力が集うのは奉納舞を行う神殿近辺だと思いますの。神殿に質の良い魔石を展示するのも、昔はそうして魔石に魔力を集めていた名残かもしれませんわね」


 上機嫌なルシエラが説明を付け足し、三人は再び大神殿へと歩き出す。

 到着した大神殿ではバルコニーを拡張するように特設ステージが設営され、その周りで機材や荷物を持った人々が準備に奔走していた。

 白くそびえる大神殿は歴史的建造物であり、普段から多くの観光客が訪れる人気スポットであるが、今日は祭典準備の影響なのか人の密度がいつもより更に高い。


「ん、フローレンスさん。このまま舞台の近くを警備すればいいの?」

「ええ、アンタ達はここで見物でもしててくれればいいわ。私は魔石を届けて、その後リハーサルの準備をして、ついでにアンタ達のことも責任者の人に説明してくるから」


 ようやく厄介事が一つ片付くとフローレンスが胸を撫で下ろす。


「わかりましたわ」

「後、私が他の人より情けない踊りしてても笑わないでいてちょうだい」

「勿論、笑わないよ」

「絶対ですからね!」


 フローレンスは入念にそう釘を刺すと、足早に神殿の中へと消えていく。


「それにしても……奉納舞と言うから格式ばった演舞を想像しておりましたけれど、思ったよりもイマドキ感がありますわね」


 その場に残されたルシエラは、大神殿から突き出した特設ステージをまじまじ眺め感想を呟く。

 ステージは明るくポップな色使いで飾り付けられ、大通りからでもよく目立つ。ここで踊れば人々の目を引くのは間違いない。

 ただ、ルシエラの知っている奉納舞はクラシカルで厳かな雰囲気なもの、こんな明るくポップなステージで踊るのには違和感がある。


「ルシエラさん、イマドキ感わかるんだ」

「う……実はわかりませんの。わたくしの比較対象は女王時代に公務で見たものですし」

「お祭りで学生がするものだし、こんなものなのかも?」

「そう言われてしまうと否定できませんわ。そもそも、わたくしの故郷とは別世界ですものね」


 今やすっかり馴染んでしまって忘れがちだが、そもそもここは魔法の国とは違う世界なのだ。

 そう考えれば、この世界ではこれが普通なのかもしれない。


 ──同じ世界に住んでいても信じられない伝統は沢山ありますものね。


「取り合えずリハーサル見て、後で由来とかフローレンスさんに聞けばいいね」

「そうですわね。今日は警備ついでに見物客にでもなるといたしましょうか」


 二人でそんなことを話しているうちに、ステージの辺りがにわかに騒がしくなってくる。


「あ、なにかはじまるね」


 ステージ脇の音響装置から大音量でアップテンポなミュージックが流れ始め、準備をしていた人々の視線が次々と舞台に向けられる。

 それを待っていたと言わんばかりにスモークが炊かれ、ネコミミとメイド服に似たステージ衣装を着た少女が勢いよくステージに登場してきた。


「にゃにゃーん! 今日はセラにゃんのライブに来てくれてありがとうにゃん!」


 街灯のようにリボンと魔石飾りでデコレーションされたマイクを手にした少女が登場し、舞台を眺める人々に向けて明るい笑顔で手を振った。


 ──ほ、本当に想像していたのと全く別の奴が始まりましたの。この世界の文化に来て初めてカルチャーショックを受けましたわ。


 雅楽に合わせてゆったり厳かに舞い踊るようなものをイメージしていたルシエラは、想像と全く違う展開に面食らって目をしばたたかせる。

 確かにこんな奉納舞ならばこのポップな色調の舞台が似合うだろう。奉納舞と言う言葉に騙されていた。


「ん、アイドルのコンサートみたい。これが奉納舞なんて、やっぱりここは地球と違うんだね」


 どうやらミアもルシエラと同じ感想を抱いているらしく、物珍しそうにステージを見物していた。


「それでは今日のナンバー! マジカル☆大暴力装置! いっくにゃ~ん!」


 セラと言うらしい栗色の髪をした少女が歌いだし、その歌声に引き寄せられるように通りの人々が続々と見物にやって来る。


「思ったより人目を惹くイベントですわね。でも……」

「フローレンスさん、居ないね」


 ステージで歌うセラの後ろには同じ衣装を着て踊るバックダンサーの姿がある。だが、その中にフローレンスの姿は見当たらない。


「そうですわね。でも次のグループがあるのかもしれませんし」


 小首を傾げる二人の前、セラが歌い終え、地面が脈打つようにバクンと揺れた。

 ルシエラは自らが立ち眩みを起こしたのかと思ったが、周囲の人々も何人か体勢を崩していることから違うと判断する。


「ミアさん! 地面、揺れました!?」

「ん、揺れたと思う」


 慌てて確認するルシエラにミアが首肯する。

 原因を探るべく魔力の流れを注視すれば、セラの手にしてるマイクへと魔力が流れ込み、魔力を蓄えた魔石が僅かに輝いているのがわかった。

 周囲には揺れで体勢を崩した者も、それに気づいた者も居るが、セラが喋ると引き寄せられるようにステージへ視線を戻し、一心不乱にセラを見守っている。


 ──あまりに不自然過ぎますわ。さては歌に軽い洗脳魔法の類が混ざっておりますわね。


 奉納舞に不信感を抱くルシエラ。それを裏付けるようにステージ上に怪しげな連中がやって来る。


「はーい、皆さんちょっとお時間いいですかー。私達は偉大なるアルマ様を誰よりも崇拝する者です。過酷で残酷なこの時代、皆も偉大なるアルマ様に助けを求めましょう。皆の祈りで裏神殿に眠るアルマ様は目覚めるのです」


 白い頭巾に白装束と言う怪し過ぎる格好の面々は、セラの後ろで何かを掲げるようなポーズを取った。


「さあ、次の曲に合わせて皆もアルマママのコールをするにゃ!」

「皆さん! 信仰の始まりです!」


 それに合わせてセラが歌い始め、人々が「アルマママ!」と一糸乱れぬコールを決める。


 ──お、おぞましいですわ。ステージが一気に邪教の魔宴と化しましたの。


 異様な熱気に包まれる周囲。

 血走った目でママコールを繰り返す様子は明らかに異常、正気の沙汰とは思えない。否、正気でこれをしているのなら余計に怖い。


「……ミアさん。これ、本物の奉納舞ではない気がしますわ」

「そうだね、流石に違うと思う」

「ですわよね……確かめに参りましょう」


 確かめた結果、ルシエラの早とちりだったのならばそれでいい。悪くてこってり絞られる程度、安いものだ。

 そもそも、この異様な雰囲気の中に長居はしたくない。


「ん、私もそう思ってた」


 次々とステージ前へと集結する観客をかき分け、二人は神殿の中へと急いだ。

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