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幼い頃に大切な約束をした幼馴染に振られた俺は、思い出を忘れて友達と仲良くしたい。女友達を絶対応援したくなるラブコメ  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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流されそうな自分


「あっ、今日はバイトだからすぐに帰るよ! じゃあね、みんな!」


 放課後になると、理央はすぐさま教室を駆け出した。

 俺は追おうとしたが、すでに廊下にはいなかった。メッセージを送ろうとスマホを開いた時、篠原が俺に声をかけてきた。

 悪いが今は誰かと話したい気分じゃない。


「……羽柴、気持ちは分かるが……少し時間を置いたらどうだ?」

「わりい、篠原、ちょっと理央を追いかけたい」

「あいつはバイトに行くんだろ? なら迷惑になるだけだ。明日も会えるんだし、メッセージでも送ってどんと構えなよ。……羽柴はもっと落ち着いた男だろ」


 俺は深呼吸をした。

 確かに篠原の言うとおりだ。理央との間に壁があるけど、全く話さないわけじゃない。昨夜だって俺の家で一緒にゲームをしていたんだ。

 なら話す機会はある。バイト帰りでもいい。


「……ああ、あんがと。少し頭が冷えたわ」

「そっか、良かった。……ねえ、変な事言うけどさ、今までの早川さんとの距離感は……友達として考えると……」


 篠原は言い淀む。こいつは常に俺にちょっかいを掛けてきた。

 同じクラスなのにクラスメイトがいない時を狙って、俺に説教をしてきた。

 時任さんの件もそうだが、悪い子じゃない。

 それは分かっている。独善的なところもあるが、基本的に友達思いだ。

 きっと俺の事を心配してくれているのだろう。


「構わない。俺は……、理央しか友達がいなかったからな。篠原の意見を聞いてみたい」


「そう、ならストレートにいうね。……あんたたちは友達同士っていうには距離感がバグってたのよ。本当に二人だけの世界で……、あんたが片桐さんに告白したのだってなんかの冗談だと思っていたわ」


「そ、そうなのか?」


 確かに俺と理央との距離は近かった。それこそ、二人だけの世界で完結していただろう。

 だけど、俺達にとってそれが当たり前であった。


「うん、あれで友達っていうのは……正直、気持ち悪いわよ。あっ、言い方悪くてごめん。でもね、普通は友達同士でそんなにいちゃいちゃしない」


「……手も繋がないのか? ハグもしないのか?」


「はぁ……、めったにしないわよ。あんた、それ、片桐さんとできるわけ?」


「……む、無理だ」


「でしょ? あんたは片桐さんと友達。でも早川さんと同じような距離感は無理。……傍から見ていると、今の距離感が正常っちゃ正常かもね」


「今の距離感が正常……」


 俺は馬鹿みたいに篠原の言葉を繰り返した。

 確かに、教室では理央とは話さなかったが、それは理央以外の生徒がいたからだ。

 きっとあの中に入っていったら普通に会話することはできるだろう。

 ……俺と渚と似ている距離感だ。


 普通に話すけど……近づきすぎない。

 いや、今は何故か渚が俺に近づいて来ている。

 何にせよ一度理央と話さないとな。


「篠原、改めてあんがとな! お前やっぱいいやつだな!」


 俺はそう言ってこの場を後にした。

 後ろから篠原の声が聞こえてきた。


「はぁ……、羽柴優作らしくないのよ……、馬鹿」




 *********




 理央はバイトだが俺はボランティア部の依頼をしなければならない。

 今日も祭りの準備だ。

 俺たちは江ノ電が目の前に通るお寺へと向かう事にした。


 今回の祭りはこの寺を中心に行われる。

 寺の境内から商店街にかけて出店が並ぶ。祭りはこの地域のガキにとっては一大イベントだ。

 そういや、この寺ってアニメに出たこともあるんだよな。

 寺の裏山は子供たちの遊び場だ。大きな公園にもなっており、小学校のマラソンコースでもある。……ヤンキーのたまり場でもあるけどな。何度絡まれたかわからん。

 絡んでくるやつは、大抵別地区の人間だ。この地区のガキ同士が喧嘩する事はめったに無い。


 ……不思議なもんだな。俺帯の高校はここから歩いて二十分ほどの距離にある。江ノ電が走る海沿いを歩き、大きな坂を上がる。

 場所が少し変わるだけで雰囲気が別物だ。


 渚たちの家は高台の高級住宅街にある。

 俺と理央の家は……漁港街のさらに奥まったところにある小さな住宅が集まった所だ。

 地域で格差が恐ろしくある。同じ学校に別々の常識を持つガキが一緒になる。だから、ここいら辺の中学はいざこざが起こるんだ。



 俺の横を歩いている渚を見ると、少し鼻息が荒い。なんだか気合を入れているようだ。

 伊集院はそんな渚を温かい目で見ている。

 ……お前はお父さんか?


「渚ちゃん、頑張れ……」


 おい、声が漏れてんぞ? ったく、俺は伊集院の体力が持つか心配してんのに。

 そんな事を考えていたら渚は俺を距離を縮めた。


 俺の手を渚の手がくっつく距離である。

 渚は俺を見上げた。


「ゆーさく、子供の頃みたいに手を繋ぎたい。……いや?」


 その顔は子供の頃のままであった。眉毛を少し潜め首をかしげて聞いてくる仕草。

 俺が大好きだった渚。


「あ、ああ、別に構わねえよ。……ほ、ほらよ」


 俺は渚と手を繋いだ。

 渚は嬉しそうに微笑む。俺の心に安堵感が生まれる。

 あの時の情景が懐かしさを感じさせる。


 そうか、これでいいんだ。何も考えずに……、子供の頃の約束を守ればいいんだ。

 俺がしっかり勉強して、国立大を目指して、奨学金をもらって……、今の成績なら問題ない。なら、俺は渚のために――


 俺のために帰国した渚のために――


 俺は心の中の何かを押し殺して、渚と手を繋いで歩き始めた。


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