冬の村でのなになぜ
前話のレギンレイヴの口調、修正変更しております。
クロの子供たちがコタツを占拠していた。
俺の部屋のコタツだけでなく、ほかの部屋のコタツでも。
今日はとくに寒いからなぁ。
仕方がないところだ。
ただ、俺もコタツに入りたいのだけど……ああ、いいんだいいんだ。
無理に場所を作らなくても。
けっこう、ぎっちり詰まっているからな。
俺は靴を脱ぎ、コタツ用に高くされている床に上がり、適当な場所に座って毛布を膝にかける。
うん、これで十分。
コタツのテーブルだけ、ちょっと使わせてもらうぞ。
ん?
クロの子供の一頭がコタツから出て、俺の膝の毛布のなかに入ってきた。
ははは、よしよし。
…………
みんな来るよな。
知ってた。
えー、順番だ。
仲よく交代するように。
魔王がやってきた。
出迎えたのは、いつもの妹猫四匹……だけでなく、姉猫四匹も。
珍しいな。
姉猫たちは虎のソウゲツにべったりだと思っていたが……そうか、今日はソウゲツの休憩日だったな。
ソウゲツの休憩日とは、ソウゲツの心身の健康のためにソウゲツが一頭でのんびりする日だ。
姉猫たちはめちゃくちゃ反対したが、ソウゲツ本人の希望や姉猫たちの母親であるジュエルの説得もあり、数ヵ月に一日の頻度で設けられることになった。
いまごろ、ソウゲツは自室でのんびりしているだろう。
そして、久しぶりに姉猫たちに迎えられた魔王は、かなりご満悦。
もちろん、魔王は妹猫たちもしっかりとかわいがる。
うーん。
俺よりも懐かれているなぁ。
嫉妬の炎を燃やしたら、フェニックスの雛のアイギスが遠慮なくかわいがっていいぞとやってきた。
アイギスの保護者である鷲は……ブラシ持参だ。
えーっと、ありがとうでいいのかな。
俺は鷲の持ってきたブラシで、アイギスと鷲をかわいがった。
子供用のメニュー。
各店舗の店長代理に確認したら、問題なく出せるし、すでに出しているとの話だった。
あれ?
子供用のメニューが求められているという話じゃなかったか?
五村のクロトユキに行き、詳しく話を聞くと……メニューにはないのだけど、量を多くや少なくと言われても大丈夫なようにしているとのこと。
値段は……臨機応変?
量をどうこう言って来るのは、基本的に貴族だから?
あ、あー……
魔王国は貴族社会だった。
貴族の要望に柔軟に応えられるようにしていないと、トラブルの元と。
値段が臨機応変なのは、値段を下げるとプライドがどうこうと言ってくるし、でも量を変えたのに同じ値段では商売として困る。
そこで店長の判断で値段を決める。
クロトユキの場合だと、相手が偉そうだと量を少なくしても一人前と同じ値段。
量を増やしたら、増やしただけ値を高くしているそうだ。
相手が普通だったり、明らかに一般人の要望の場合は提供した量に合わせると。
なるほど。
いや、やり方を変える必要はない。
これまで通りで頼む。
調査した文官娘衆たちは、メニューを見て子供用のメニューがないと判断したのかな。
大樹の村に戻り、文官娘衆に確認。
「貴族用に量が調整できるのは知っています。
ただ、一般の者は頼みにくいというか、普通のお店では量にあれこれ言うのは駄目なようです」
そうなのか?
「はい。
文句があるなら食べなくていいので、帰ってくれとなります」
な、なるほど。
売り手と買い手がイーブンだから、そうなるのか。
いや、量の多い少ないの話を聞くようになると、普通の量でも少ないと言う者が出たりするか。
トラブルが増えるな。
「五村では大丈夫でしょう。
ですが、量の調整を注文できるようにメニューにあるのは住人の助けになるかなと思ったのです」
わかった。
とりあえず……俺としては子供用のメニューを一品、加えるようにするのが無難かなと考えた。
あのときはそう考えたのだが、変な方向に進んだ。
家族レストラン。
いろいろな料理を提供する店を建てるようだ。
あ、他人事みたいになったが、計画の資本は俺だ。
計画は文官娘衆たち。
まずは五村で一号店を建設し、運営とスタッフ育成に注力。
余力がでたら、シャシャートの街、王都、王都の西にある要塞近くの街に出店する計画だ。
すでに関係各所に話を通し、土地確保に動いている。
五村では麓の洋菓子店フェアリーフェアリの近く。
まあ、いろいろな料理を提供すると言っても、最初は品数を少なくする。
ただ、当初の目的である子供用のメニューはしっかりと入れる。
あと、お子さまランチ。
これは看板メニューにしたいと、担当する文官娘衆が意気込んでいた。
頑張ってほしい。
大樹の村に、アルフレートが帰ってきた。
しかし、様子がおかしい。
雪が積もる冬なのに、外の社で祈っている。
そんなに信心深かったっけ?
あと、なにやら反省というか後悔みたいな感じがあるが……
大丈夫だろうか?
声をかけるべきだろうか?
声をかけるとして、どのように?
悩んでいたらアルフレートはルーに相談して、解決したようだ。
元気になって始祖さんと一緒に出発した。
よかったが、少し寂しい。
「まあまあ」
ルーが慰めてくれるが、アルフレートの相談内容は教えてくれなかった。
「恋愛関係ではないわよ」
ぬうん。
アルフレートの相談内容をなんとか知ることができた。
情報源は、フーシュの息子さんから話を聞いた始祖さん。
なんでも、アルフレートが街歩きをしているときに、屈強な男性三人に絡まれたらしい。
「金、貸してくんね。
困ってんだよね」
カツアゲみたいな感じだったそうだ。
これに対し、アルフレートは鼻で笑い……
小銭入れから硬貨を一掴みし、地面に撒いた。
「欲しければ拾え」
そう言ったそうだ。
なるほど、絡んできた男性三人を挑発してしまったか。
それを反省したのかなと思ったら違った。
じゃあ、お金を地面に撒いたこと?
それも違うそうだ。
小銭入れに入っていた硬貨も、アルフレートが稼いだもの。
大樹の村の資産を放ったとかを後悔したとかではなかった。
じゃあ、あまり聞きたくないけど……その男性三人と喧嘩になって、やりすぎてしまったとか?
それも違うと。
え?
じゃあ、なんだ?
相談内容は、反省とか後悔じゃなかったのか?
始祖さんが、ちょっと言いにくそうに教えてくれた。
アルフレートが硬貨を撒くと、男性三人が感謝の言葉を述べて拾ったそうだ。
……
拾ったの?
拾ったらしい。
かなりお金に困っていたというか、空腹の弟や妹がいたらしい。
久しぶりにまともな食事をさせられると、男三人は泣いて感謝したそうだ。
……………………
アルフレートはそういった者に対し、自分のことしか考えずに硬貨を撒いたことを後悔し、深く深く反省していたと。
な、なるほど。
えーっと、なんだろう。
同情詐欺じゃないことは確認している?
疑ってないよ。
アルフレートにどう言ったものかなと。
いや、相談されたわけじゃないから、俺からなにか言うのもよくないか。
知らないふりが一番か。
うーん。
アルフレートが一つ、学んだことを喜んでおこう。
ジュエル 「押しっぱなしは駄目です。たまには引いてみるのです」
姉猫たち 「えー」
妹猫たち 「勉強になる」
男三人 「俺たちの心の負担にならないように、硬貨を捨ててくださった……感謝だ」
アルフレート「…………」




