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冬の村と五村の新しい娯楽


 冬。


 村の屋敷の片隅で、ルーがお湯を張ったたらいで大量の小皿や小鉢こばちを洗っていた。


 ニコニコとやっている。


 ルーが洗っているのは薬草などを研究するときに使っている私物だ。


 それを洗っているということは、研究が終わったということだろうか?


 否である。


 研究が終わったなら、成果のほうを重視するのがルーだ。


 私物などの洗浄は、鬼人族メイドに任せる。


 なのに自分で洗っているということは、研究の方向が間違っていた。


 もしくは、大きく後退した。


 そういうことだ。


 だから、いまのルーには近づいてはいけない。


 手伝おうとするのも間違い。


 魔法で洗ったら? とか言うのはもっとも駄目。


 ルーは洗いながら、一人で反省会をやっているからだ。


 そして、次の研究のことを考えている。


 なので、放っておくのが最適だ。


 俺は近くにいた鬼人族メイドと目を合わせ、頷きあった。


 そして、二人して小走りでルーのところに駆け寄り、手伝おうかと言う。


 放っておくのが最適だが、正解ではない。


 ちゃんとルーが頑張っているのを見ているアピールをしないといけないのだ。


 普段のルーなら大丈夫なんだけどな。


 研究者モードのルーはちょっぴり面倒……いや、そういうところもかわいいと思います。




 ティアとルィンシァがテーブルを囲んでお茶をしていた。


 会話はない。


 いつもの翼での会話だ。


 遠くから観察するに、それなりに会話が弾んでいるようだ。


 内容は欠片もわからないけど。


 娘のティゼルがいれば、もう少し言葉になるんだけどな。


 もう一人の娘のオーロラは……マルビットのところにいるな。


 マルビットは自分の娘のキアービットが帰ってこないので、その寂しさをオーロラで癒しているようだ。


 オーロラが嫌がっていたら取り上げるが、オーロラもマルビットを嫌ってはいない。


 ティアやルィンシァより、わかりやすく甘やかしてくれるからだろう。


 だけど、そこに天使族の長老であるレギンレイヴがやってきて、マルビットからオーロラを連れ出した。


 レギンレイヴの周囲には、ラナノーンたち。


 遊ぶ約束をしていたようだ。


 オーロラを失ったマルビットが、わかりやすく落ち込んだ。


 あ、ティアとルィンシァのテーブルに行くのね。


 …………


 マルビットも翼で会話できるんだな。


 知らなかった。




 リアたちハイエルフの大半は、村にいない。


 五村で弓の教師役をしている。


 五村には剣の教師役は多くいるのだけど、弓の教師役は不足しているので頼られたのだ。


 五村の近くに弓王を名乗るエルフが治める里があるのだけど、そっちは弓や矢を量産するほうに人手をとられている。


 そして、頼られたリアたちだが、悪い気はしないものの当初は難色を示した。


 冬のあいだだけと言われても、中途半端に教えられた者が事故を起こしても困ると。


 しかし、ヨウコから教師役はちゃんと用意する。


 リアたちはその手伝い。


 軽く手ほどきをする程度で十分と言われ、引き受けてくれた。


 五村のヨウコのところで訓練というか、社会勉強をしているリアたちの息子であるリリウス、リグル、ラテの三人が弓を習いたいと言ったことも影響している。


 まあ、そのせいで三人は、やる気になったリアたちによる厳しい弓の訓練を受けることになったけど。


 これは親子のコミュニケーション。


 口は出さない。


 いや、俺は父親だから口は出せるんだけど、弓が扱えたほうが将来の役に立つとリアたちからあらかじめ言われているので口を出さない。


 リアたちを信じて任せる。


 俺が口を出すのは弓の訓練場の横に作られた、新しい射場に関して。


 新しい射場は、弓に触れ合う機会を増やそうという試みで建設された。


 個室に入り、開けた一面から設置された的を狙って矢を射る。


 ただの的ではない。


 的は飛び出したり、移動したりする。


 野生動物や魔獣、魔物の動きを模しており、かなり実践的な動きだ。


 その的には得点が定められており、合計得点で競う。


 ゲームセンターにある銃のゲームの弓版だな。


 残念なのは、それなりに大きい射場なのに、一人しか挑戦できないこと。


 まあ、同時にやると誰が射たかわからなくなるからな。


 この射場、管理は五村の村議会。


 製作は山エルフ。


 協力ハイエルフ、五村で弓を習いたい有志一同となっている。


 昼は子供向けの難易度になっており、なかなかの人気だ。


 ただ、挑戦する前に軽く弓を学習することを求められる。


 弓は武器だからな。


 軽く扱ってはいけない。


 あと、装備というか服装なども気をつけないと、弓のつるが引っかかったりして危ない。


 女性の場合は、胸当ての装備も推奨される。


 胸に弦が当たると、かなり痛いらしいので。



 射場を見守っている山エルフに話しかける。


「見ていた感じですが、なかなか当たらないようですね」


 まあ、そうだろうな。


 的の動きがそれなりに複雑だ。


「ほかの人が射ているところを見れば、攻略できると思うのですが」


 的の動きは予想できても、矢を狙ったところに射れないだろ。


「あー……やはり、もう少し簡単にする必要がありますか」


 そうだな。


 あとは混雑対策。


「そちらに関しては、ボウリング場のように細長いレーンで区切った射場を企画中です」


 ああ、いいんじゃないか。


 予算のほうは問題ないんだろ?


「ええ。

 新しい娯楽として、村議会が頑張ってくれていますので」


 俺も期待しているよ。


「頑張ります。

 あ、村長もやっていかれますか?」


 ありがとう。


 でも、並ぶには厳しい列だ。


「村長なら最優先で」


 順番を抜かすのは駄目だろ。


 恨まれてしまう。


「残念です」


 ははは、機会があったらな。


 ところで、あちらのボードに名前が並んでいるが……


「成績表です。

 こういった形で示すと、競ってくれますので」


 だな。


 上位にリリウスたち三人の名が並んでいるのは、リアたちによる訓練の結果だろうか。


「接待モードはありますが、使っていませんよ」


 接待モード、あるんだ。


「貴族用に用意しておいたほうがいいと、各所から」


 なるほど。


 ところで、成績表に昼の部ってあるけど、これは?


「夜の部がありますので」


 昼の部とは別扱いなのか?


「はい、別扱いです」


 ?



 夜。


 夜の部を見に行った。


 あー、的の動きが昼とは大違いだ。


 的が射手の視界に入るの、ほぼ一瞬。


 逆に、存在をアピールして射手に迫る的もある。


 かなり速い。


 魔法を使って、目くらましやフェイントなどしている。


 俺だと一点も取れなさそうだ。


 そして、夜の部の成績表の上位には、リアたちハイエルフの名が並んでいた。


 クロトユキの店長をやっているキネスタの名もあるな。


 彼女は元エルフ帝国の皇女だから、弓は扱えても不思議はない。


 おっと、成績表が書き換えられた。


 一位に書かれたのは……リアの母であるリグネのようだ。


「この程度で満点とは……もう少し難しくしないと実践で困りますよ」


 山エルフたちは、大いに悔しがっていた。






久しぶりの更新になってすみません。

大きな山は乗り越え、あとは小さな山が連なっているだけなので、更新頻度は徐々に回復すると思います。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
リグネは問題児3人がいなくなって暇なのかな笑
ある程度、自分で弓の調整やメンテナンスも出来るようにした方が良いかも。
リアさんは弓も得意です 95話 武闘会 騎士の部 一回戦 その一  192話 第三回武闘会 騎士の部
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