ユーノデンナ王国
国紹介
●ゴズラン王国。
滅びた。
第三王女を中心とした文官たちが内政を頑張っていたけど、逃亡中。
●ジドエン王国。
拡大中の征服王の国。
ゴズラン王国を攻め落とした。
●イジー王国。
ゴズラン王国に泣きつかれた大国。
●ユーノデンナ王国。
今回の語り部である王がいる大国。
私は人族が統治するユーノデンナ王国の王。
少し語らせてほしい。
我がユーノデンナ王国は大国なんだが、その隣に四十ほどの小国が乱立する地域があるんだ。
正直、その地域の小国は国と言うのもおこがましいぐらいの小さな小さな国なんだが、どれだけ領地が狭くとも王がいたら国だ。
この地域にある国々、基本的に仲が悪い。
かなり昔から争っている。
人族ならば魔王国に備えて団結するところを、欠片も団結しない。
そんな地域ならば隙だらけ。
周辺国に潰されるのではないか?
そう思うかもしれないが、周辺国はこの地域に手を出さない。
手を出すと殴り返してくるからだ。
まあ、手を出されたところは殴り返して当然なんだが、関係のないところも殴り返してくる。
いや、殴ってくるというべきか。
一国と敵対すると、全てが敵にまわる感じだ。
だから一つ二つの国を潰しても、止まらない。
損得を無視して攻め込んでくる。
常に争っているから、あの地域の兵は強い。
結局、手を出した国は滅ぼした国の領地を手放し、なにも得ぬまま撤退するしかない。
手を出した国が撤退したら、また地域の国同士で争いだす。
なんだここ?
怖い。
触らんとこ。
昔から周辺国にそう危険視されている地域。
この地域。
争い続けているのだから、最終的にどこかの国が勝ち抜いて統一する……ことはなかった。
この地域の者たちは統治能力が低いからだ。
なにせ、小さな小さな国だからな。
統治能力を向上させる手段がない。
それゆえ、どこかの国が領地を広げても、少したてば分裂して元通り。
こんなことを繰り返していては駄目だと私は思うし、この地域のなかにもそう思う者はいるらしい。
いまから三十年ぐらい前の、ゴズラン王国という小さな国の王がそうだった。
その王は地域外の大国……イジー王国に泣きついた。
統治ができる人をくださいと。
本来なら泣きつかれても迷惑なのだが、幸いなことにイジー王国はちょうど後継者問題で困っていた。
凡庸な第一王子と優秀な第二王子、という悩ましい状況。
このまま放置すれば内乱になるかもしれない。
それを恐れたイジー王国の当時の王は決断した。
後継者は優秀な第二王子。
凡庸な第一王子はゴズラン王国に送られた。
名目はなんだったかな。
流刑とかそういったのではなく、援軍とか視察とかそんな感じだったはず。
だから第一王子派閥の家臣団もそれなりに同行していた。
このゴズラン王国に送られた凡庸な第一王子、その内心はわからないがゴズラン王国に求められるがままに統治を手伝った。
家臣団も。
将来的に乗っ取ろうと考えたのか、それともただ人がよかったのか。
わかるのはイジー王国にいたときよりも、生き生きとしていたらしい。
文献にそう残っている。
そして、統治方法を学んだゴズラン王国は徐々に大きくなっていった。
三十年をかけて、もとの三倍ぐらいだな。
あと百年もすれば、あの小国が乱立する地域を統一するかもしれない。
そう思われていた。
実情は違った。
ゴズラン王国は統治方法を学んでいなかった。
やってきた第一王子とその家臣団に放り投げていた。
乗っ取られる?
どうぞどうぞというスタイルだったそうだ。
実際に第一王子が乗っ取らなかったのはなぜだろうか?
無理だと思ったのかな?
それとも争いを避けたかったのか。
そのイジー王国の第一王子は、ゴズラン王国の庶民の娘と結婚して娘を儲けていた。
その娘は、泣きついた王の息子の後妻として嫁いだ。
その後妻として嫁いだ娘が産んだのがゴズラン王国の第三王女。
彼女は五歳ぐらいから領地経営を手伝っていた。
もちろん、イジー王国の第一王子についてゴズラン王国にやって来た家臣団やその子たちが補佐していたのもあるだろう。
それでも、こちらに伝わるぐらいには優秀だった。
……
正直に言おう。
私は最近になるまで知らなかったが、ここ数年のゴズラン王国はこの第三王女とその家臣団が統治している状態だった。
ある意味、乗っ取っている。
このことをイジー王国の第一王子はどう思うだろう?
もうイジー王国の第一王子もその娘も亡くなっているので、聞けないのが残念だ。
さて。
長くなっているが、ここからが話の本題だ。
小国が乱立する地域で、領地を拡大し続ける国が出てきた。
ジドエン王国。
ジドエン王国の王は征服王を名乗り、ここ十年で領地を四倍以上だ。
すごい。
素直に感心する。
よく国を維持しているなと。
内政向きの者が運よく生まれたのだろう。
もしくは、どこかから連れてきたか。
だが、そろそろ限界だ。
いつも通り、領地を広げた国は統治できずに崩壊する。
そう予想していた。
が、どこかの馬鹿がジドエン王国を唆した。
ゴズラン王国の第三王女は統治能力が高いぞ。
そう情報を流したのだ。
ジドエン王国には運良く、ゴズラン王国には運悪く、拡大したジドエン王国とゴズラン王国は領地が隣接していた。
ジドエン王国は交渉で第三王女を手に入れようとしたが、ゴズラン王国がそれを受け入れるはずもなく……というか受け入れたらここ三十年で大きくなったゴズラン王国が崩壊する。
なにより、ゴズラン王国の王にすれば第三王女は老いてからできた娘。
かわいがっていた。
それを奪われてなるものかと構えた。
いや、ジドエン王国に殴りかかった。
結果、ジドエン王国とゴズラン王国は全面戦争となり、征服王が率いるジドエン王国が勝利。
ゴズラン王国はジドエン王国に吸収され、消滅した。
ここでジドエン王国の目論見通りに第三王女を手に入れられたら、私は長々と語らなかっただろう。
ジドエン王国があのやっかいな地域を統一する。
もしくは、また適当なところで崩壊する。
それを見守るだけでよかった。
残念なことに、ジドエン王国は第三王女を手に入れられなかった。
ゴズラン王国の王は、戦の前に第三王女を逃がしていた。
血縁のあるイジー王国に逃げたのか、それともほかの場所か……
どこに逃げたかはまだわかっていない。
ただ、それなりの数の家臣が同行したそうだ。
この第三王女。
無事なのかどうか気になるが……まあ、あと回しでいい。
問題は、第三王女を手に入れられなかったジドエン王国だ。
領地は大きくなった。
戦力は十分。
征服王の統率力は抜群。
統治だけが駄目で、時間が経てば崩壊する。
絶対に無理。
倒れる。
誰がどう考えても無理。
静かに倒れてくれるなら問題はないのだが……
その国で生きる者からすれば、倒れるものかと全力で抵抗する。
その抵抗が、こちらの手紙。
「ユーノデンナ王国。
ジドエン王国は貴国に降伏する。
それが嫌なら、統治を手伝える人をください」
ちなみに、この手紙は要約していない。
内容はこれだけだ。
国同士の手紙とは思えない簡潔な内容だ。
個人的には好ましいが、内容は最悪だ。
降伏する?
経緯はどうあれ、我が国があの地域に手を出したということになる。
つまり、ジドエン王国以外と敵対してしまう。
やめて!
いや、我が国は大国!
戦ったら勝てるよ。
あの地域を全て領地にできるよ。
でもそれだけ。
あの地域、小国が四十も入れるんだぞ。
全部を合わせたら、我が国の領地の倍以上。
無理。
統治できるわけがない。
征服したところで素直にこっちの言うことを聞かないだろうし。
我が国が倒れる。
だいたい国の領地なんて、何十年とかけてゆっくり増やすもの。
急には無理なの。
それがジドエン王国もわかっているから、統治を手伝える人をくださいと書いてある。
悪辣な!
あいつら、天使族か!
大国だからって人材が余っているわけじゃないぞ!
大国だからこそ、人材不足で悩んでいるんだ!
学園を作ったりして頑張っている。
それでも足りない!
それに加え、魔王国との戦いに備えるという名目で、文武の人材を最前線の国に送り込んでいる。
こっちだって統治を手伝える人がほしいわっ!
ああ、もう……どうすればいいんだ。
虐殺?
ジドエン王国ごと全滅させる?
駄目。
それをやっちゃうと、我が国は人族の敵になっちゃうの。
なにせ人族を守るためという名目で、魔王国と戦う大連合を組んでいるのだから。
くそう。
最近は六竜神国なるわけのわからん国が出て、いろいろと混乱しているのに。
どうすればいいんだ。
わかっている。
時間が経つと、あいつら本気で降伏してくる。
統治を手伝える者……
いや、渡せん。
国内での利害調整とか任せているんだ。
渡したら内乱が起きる。
となると……
読み、書き、計算ができる者を渡せば、許してもらえたり?
……
さ、さすがに舐めすぎか?
読み、書き、計算ができる者を二十人、送ってみた。
これでもかと感謝された。
そっか……
それぐらいかー……
……
過去の大国の指導者は間違っていなかった。
あの地域には手を出さない。
利用もしない。
絶対に。
そう心に刻み込みつつ、私は今日も政務を励むことにした。
大臣「あの地域が統一……隣国に大国ができたら怖くないですか?」
王 「あの大きさを統一したら、五十年は身動きとれなくなるから大丈夫」
大臣「身動き取れる五十年後はどうするんです?」
王 「そのときの王は私じゃないから」
大臣「……」
王 「睨むな。五十年のあいだに手を打つに決まっているだろう」
今回も村長が出てこない。
すみません。
次は、大樹か五村の話になります。




