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フーシュのお礼の準備


 私の名はフーシュ。


 コーリン教の大司祭。


 神に与えられた恩恵により、回復の魔法が使えます。


 といっても、自分の息子の病気を治せない程度ですが……


 しかし、奇跡はありました。


 薬学で世界有数、いえ一番と言われる吸血鬼、ルールーシー様と出会うことができたのです。


 さらに幸運なことに、息子の治療のための薬の材料も揃っているとのこと。


 これも創造神様のお導き。


 ありがとうございます。


 作っていただいた薬で、息子の病気は治りました。




 さて、今日の私はその奇跡のお礼を準備しています。


 創造神様に感謝はしますが、実際に薬を作ってくれたのはルールーシー様とフローラ様。


 さらに協力してくれたあの村の方々に何か報いねば。


 許されるなら、立場を捨ててあの村に一家で移住し村のために尽くしたいのですが……


 残念ながらそれはできません。


 これまでコーリン教には多大な恩を受けました。


 まだ返せていないのです。


 しかし、いつかきっと。



 ごほん。


 話を戻して、お礼はこちらの感謝の気持ちですが、相手に喜んでいただかないと意味がありません。


 押し付けではよろしくないのです。


 ですが、私はルールーシー様やフローラ様、あの村の方々のことをよく知らないので、どうすれば喜ばれるか解りません。


 なので素直に聞きました。


 お礼がしたいのでなんでも仰ってくださいと。


 幸いなことに私の家はそれなりに裕福です。


 多少の無茶でもなんとかなるでしょう。


 その気になれば、爵位だって……いけないいけない。


 望んでもいないのに爵位なんて貰っても迷惑ですよね。


 前に一度、失敗しているのに……



 話を聞いた結果、ルールーシー様をはじめとした村の方々が欲しがっているのは人のようです。


 一瞬、生贄と思ってしまいましたが、詳しい話を聞けば新たな住人、移住者が欲しいとのこと。


 移住者には家と耕す畑を無償で貸し、当面の生活の面倒は見ると。


 さらには畑作業が嫌なら別の仕事してくれても構わない。


 なるほど。


 好条件のようです。


 間違えてはいけないのは、欲しいのは新たな住民となってくれる人であって、労働力ではないということですね。


 いえ、もちろん労働力としても期待しているのでしょう。


 ただ、新たな住民を増やさないと次世代が困るという切実な事情があるようです。


 つまり……




「奴隷では駄目ですか?」


「駄目ですね」


 部下の提案を却下します。


 好きで奴隷になる者はいないでしょうが、奴隷となった理由を持っているハズです。


 そしてその理由の大半が犯罪と借金。


 そんな理由で奴隷になった者を移住させる?


 嫌がらせですね。


 あの温和な村にトラブルを持ち込むことになるでしょう。


 認められません。



 理想は村で生活をしている家族をそのまま移住させること。


 ただ、これはなかなか難しい。


 すでにその場で生活ができており、ワザワザ移住する理由がないのだから。


 一応、駄目元で話を持ちかけましたがやっぱり駄目でした。


 丁寧に説明しているのですが、なぜでしょう。


「やはり、移住先を隠さないと無理じゃないですか?」


「死の森に移住って、死刑宣告と同じですからね」


 死の森。


 確かに恐ろしい場所の代名詞です。


 なのですが、私が行ってみたところ、それほど悪い場所とは思いませんでしたが……


「それはフーシュ様が強いからですよ」


「私たちだと、一時間も生きてられませんよ」


「第一、そんな森の真ん中に村があるというお話も……失礼ですが、どこか別の場所だったのでは?」


 移住者を探すことは難航しています。


 私一人ではどうしようもないので腹心ともいえる部下たちにも手伝ってもらっていますが……それでも上手くいっていません。


 ですが、諦めません。


 息子の薬を探す苦労を思えば、これぐらいは楽なものです。


 優良な移住者を探し出してみせましょう!




 人間、断られ続けると心が挫けるものです。


 かなりの絶望感。


 いっそ、お礼は別の物にした方がと心によぎります。


 むうっ。


 お礼ですから、あまりお待たせするわけにはいきません。


 宗主様とも相談しましたが、来年の春ぐらいがリミットでしょう。


 今現在は秋。


 どうしたものか……


 悩んでいると、部下の一人が私に提案しました。


「移住者ですが、街の少年たちではどうでしょう?」


 ……


 街の少年たち。


 解りやすい表現で言えば……孤児です。


 コーリン教は、孤児を受け入れる孤児院をいくつも運営していますが、どこも一杯で溢れてしまっています。


 そこでコーリン教は、孤児院に入れなかった子供たちだけで組織を作らせ、生活をさせています。


 その者たちを、街の少年たちとやんわりと言っているのですが……


「家と畑を与えられるのです。

 移住を希望する者も現れると思いますが?」


 そうかもしれませんが……


 街の少年たちを馬鹿にする気はありませんが、彼らは農作業の経験どころか一般常識も怪しい者たちですよ。


 移住者としては、問題があるのではないでしょうか?


「ご心配の点に関しては、これから教育すれば良いと思うのです」


 これから……


「はい。

 春までの短い期間ですが、我らの総力をもってすれば可能かと」


 なるほど。





 さっそく、集めました。


 条件はカップル、つまり決まったパートナーがいること。


 目の前には男女カップルが十組、計二十人がいます。


 年齢は大半が十代半ば。


 全員、みすぼらしい姿と……怯えた目。


 ……


 なぜ怯えた目を?


「あ、あんたフーシュだろ。

 子供の治療のために、若い子供の肝を求めているって……」


 リーダー格の男の子が、他の子たちを庇うように前に出て言います。


「お、お、俺は、どうなっても良いから、他の奴らは許してやってくれ」


 ……


 悪い噂が立っているとは聞いていましたが……


「失礼な。

 肝など求めません。

 移住者を探していると説明したと思いますが?」


 部下たちもそう説明するように厳命しましたよね。


「その話を聞いて、ここに来たのではないですか?」


「逃げたら街の連中を皆殺しにするって……」


「フーシュの人狩りには逆らっちゃ駄目って……」


 リーダー格の後ろにいる者たちが泣きそうな声で言います。


 ……


 その噂を最初に言った人を見つけ出し、私の前に連れてきなさい。


 部下にそう命じた後、目の前の者たちに笑顔で言います。


「本当に普通の移住話です」


「じゃあ、なんで……お、女と一緒のヤツばっかり集めたんだよ。

 う、生まれたての赤ちゃんを材料に魔術を使うからだろ」


 一応、貴方の目の前にいるのはコーリン教の大司祭なのですが……




 移住話を本当だと信じさせることに、五日ほど掛かりました。


 心残りは、移住先を秘密にしたことです。


 部下たちが、絶対に言わないようにと強く言うのでそうしましたが……


 本当にそんなに悪い場所じゃないんですよ。


 ともあれ、教育開始です。


 一般常識に読み書き、職業訓練も行います。


 その間の衣食住は、全て私が面倒を見ます。


 悩み相談にも乗りましょう。


 そうこうしていると、彼らも私に心を開いてくれたようです。


 少なくとも、最初の頃の怯えた目では見られなくなりました。


 このまま問題なく春まで頑張れば、優れた移住者になるでしょう。





 問題発覚です。


「その話は本当ですか?」


「はい。

 間違いありません。

 右腕に証がありました」


 ……


 二十人の中の一人が、貴族の隠し子だったようです。


 黙っていれば……いえ、お礼として渡す移住者にトラブルの種を仕込むのは良くありません。


 わかってしまったからには対処です。


 まずは、当人……子供の方ですよ。


 彼を呼んで面談。


「貴方が貴族の血縁者だと判明しました。

 どうしたいですか?

 貴方が希望するなら貴族の家に戻ることを支援しますが?」


「……僕がお貴族様の息子だってのは知っていました。

 死んだ母から教えてもらってたので……

 でも、興味がありません。

 それに、貴族の家に戻ったらその……彼女と……」


 確かに貴族の家に、彼女を連れて帰るわけにはいきませんね。


「では、貴族の家は?」


「興味がありません。

 このまま移住させてください」


「わかりました。

 貴方は今日から、ただの一般人です。

 いいですね?」


「わかりました。

 でも、僕は前から一般人ですよ」


 良かった。


 これで障害はありません。


 私は部下に命じます。


 その貴族を潰せと。


 幸い、その貴族の評判は最悪。


 そうですよね。


 自分の子供が街の少年たち、孤児になっていたのに手を差し伸べないのですから。


 禍根は断ちます。


 これで名実共に一般人。


 ああ、その貴族の家に仕えていたまともな人には再就職先をお世話してあげるのを忘れないように。


 ……


 あと二人、貴族の息子と娘がいる?


 証拠も?


 ……


 わかりました。


 面談しましょう。



 問題ある下級貴族の家が数件潰れましたが、些細なことです。







 問題発覚です。


 また貴族の子息と判明したのでしょうかと思ったら違いました。


 娘の一人が、隣国の王の血統であることがわかりました。


 なぜ、そんな子がと思っていたら、どうやら十数年前に継承戦争の時に逃れた一族とのこと。


 確かに記録があります。


 記録にある髪の色、目の色、ホクロの位置……でもってお尻にある王家の紋章。


 でもって覚えている王家に伝わる秘密の言葉。


 パーフェクトッ!


 完璧です。


 ……


 ああ、もう。


 どうしてこう問題ばかりが……


 しかも、一番優秀だと思っていた娘が……


 隣国。


 潰せるかしら?


 駄目ね。


 春までには厳しい。


 ならば……


 短期間で王家の血筋を総取替え。


 クーデターを起こさせ、王家の血を今の血にしなければ……いけるんじゃないかな?


 彼女が問題なのは、現王の実妹という点なのだから。


 いけるわよね。


 うん。


 不幸中の幸いとして、隣国の国王は暴君として迷惑がられている存在。


 ……


 よし、やりなさい。


 ……


 え?


 血筋が変わると、別の子に問題が出てくる?


 しかも複数?


 隣国は、我が国を子捨て山かなにかに利用しているのでしょうか……


 禍根は断つべきですね。


 いいでしょう。


 やってやろうではないですか。


 春までに潰せば全て問題無しです。




 途中でもう一国関わってくるトラブルがありましたが、なんとかなりました。


 現在、隣国が二つ、新たな王国として生まれ変わっていますが……


 些細なことです。


 コーリン教は、民衆の生活支援を全力で行います。







 春になりました。


 私は目の前の十組二十名に、正式な結婚の祝福も与えました。


 今日まで頑張ったご褒美です。


 涙を流して感謝されました。


 私も涙します。


 ここまで、本当に大変でした。


 王族の血縁問題を解決している最中。


 今度は伝説の盗賊の子孫だなんだで盗賊集団に狙われました。


 伝説の盗賊の財宝の在処に関しての情報を持っていると思われたのでしょうね。


 盗賊集団を潰し、お宝を探し出しました。


 もちろん、全額教団に寄付です。



 それが終わった後、今度はその身に聖剣を宿しているからと、怪しい宗教団体が攻めてきました。


 弱小泡沫集団でしたが、よくコーリン教の本部を攻め込めたものです。


 その度胸は認めましょう。


 認めるのはそこだけですけどね。


 現在、その怪しい宗教団体に所属している者たちを全て捕縛、改宗をお願いしています。



 その他、色々ありました。


 ボンボン貴族が、一目惚れしたから寄越せと言ってきたのが可愛く見えるぐらいでした。


 ああ、もちろんそのボンボン貴族には世間の厳しさを知ってもらっています。


 なに、無一文になってもなんとかなるものですよ。


 これまでの行いがよければ。




 改めて、私は男女十組、二十人を見ます。


 貴族の血縁者が三名。


 王族の血縁者が六名。


 伝説の盗賊の血縁者が一名。


 その身に聖剣を宿す者が一名。


 裏社会のボスの血縁者が一名。


 妖精と人間のハーフが一名。


 獣人族と人間のハーフが二名。


 そこそこ良い家からの家出した者が二名。


 ドラゴンの鱗が背中にある者が一名。


 怪しい紋様が胸にある者が一名。


 何も無い者が一名。



 最後の何も無い者が一番怪しい気がしますが、調べに調べても何もありませんでした。


 普通の一般人。


 リーダー格の男の子です。



 ともあれ、現在は全員が一般人です。


 胸を張って言えます。


 一切の問題は無いと。




 では、向かいましょうか。


 貴方たちの生活する場所に。


 目的地?


 あ、えっと……到着してからのお楽しみということで。


 大丈夫です。


 ここでのしがらみが影響するような場所ではありませんから。


 頑張ってくださいね。



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― 新着の感想 ―
フーシュ( ゜д゜)<ヒャッハー、新鮮なカップルじゃァ!囲め囲めェ!!逃しませんよォ!!! 流石は悪辣フーシュ様w
まあ、大樹の村に移住となれば、それぐらい何かないと生きていけないよね…
[良い点] 問題解決したから問題なし。ヨシ! 大樹の村を子捨て山かなにかに利用してないですか?w
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