婚約者にプレゼントした物を何故か彼女の妹が持っている
ずっと続きが書けなくて放置してあったのが無事解決策が出来たので完成
ああ。まただ。
「コリンヌ嬢」
呼びかけるとコリンヌ嬢………本当はそんな丁寧な呼び方をしたくないのだが、それを行うとますます付け上がるから我慢しておく。
「まあ、イルヴァさま♡ そんな他人行儀な♡ で、わたくしに何の用でしょうか♡」
くねくねと近付いて腕を絡ませようとするのを不自然にならない程度に避けて、
「貴方の髪に着けているその飾りは私が婚約者のパールシルクに送った物です。なぜ貴女が持っているのですか?」
婚約者というのを強調して告げるのだが、この馬鹿女の耳は性能が悪いらしく。
「まあ、イルヴァさまの選んだ物だったんですね。ふふっ、とっても素敵♡ イルヴァさまの趣味はわたくしの好みと同じ。気が合いますね♡」
こちらの問い掛けに全く答えず、好き勝手なことを言っている。
「コリンヌ嬢」
「お姉さまが快くくださったんです。だって、お姉さまに全く相応しくありませんし」
悪気もなくいってくる様に吐き気がする。
どうせ、渡さないと食事を抜くと父親に嘘泣きでもして実行したのだろう。
喉まで出かかった本音を押し殺して、無理やりでも笑う。
「そう。なんですね」
「ええ。そうだわ。これから一緒に食事でも」
「今から用事があるので。では失礼します」
良い考えだと手を打つ馬鹿の言葉をこれ以上聞きたくないので、無理やり話を断ち切ってその場を後にする。
ああ、殴りたい。殴って、パールシルクを自分の手元で大事に守りたい。悪意しかない毒家族から救い出したい。
これもすべてあの悪法のせいで!!
苛立ちながらもそれを必死に押し隠し、長居は禁物と目的の場所に向かった。
我が国にはある悪法がある。
子供の権利は親にある。成人する前にそれを奪うのは罪人だ。
たとえ、その親が子供を虐待していても、虐待された子供を助け出した人間は罪人として処刑され、子供は無理やり親元に戻される。
それによって子供が殺されてもお構いなしだ。
そもそも当初は悪法ではなかった。
と言うか、逆だった。
借金とかの法とか罪をでっち上げて、子供を連れ攫う権力者から子供を守るために作られた法律だったが、見事にひっくり返ってしまったのだ。
「パールシルク……」
愛する婚約者は母親を亡くし、数日もたたないうちに父親が不倫相手とその間に生まれた子供を家に入れた。
新しい母親と妹だと紹介して。
「さっさとあの法律を何とかしろっ!!」
怒鳴り込んだ先は王城。そこには我が国の王太子と宰相子息がいるのだが、はっきり言えば、あんな悪法を野放しにしている時点で敬う価値が無いと思っている。
「イルヴァ……」
「表向きでも敬ってくれないか。頼むから」
「――人はその人物に敬意を持ったら自然に敬うものだ。つまり、敬っていないのは……」
「分かった!! 分かったからそれ以上言うなっ!!」
表向きでも敬えと言われたので敬えない理由を説明しようとしたらダメージを受けたように言葉を切られた。
「父上(陛下)にも打診しているが法律を変えるというのもいろいろ大変だと言葉を濁しては……」
「つまり、そのための準備が面倒だと言うことだな」
「そうなんだけど、それを言うなよ……」
王太子の言葉にはっきりきっぱり告げると王太子が落ち込んでいった。落ち込む必要などないだろう。お前ひとり落ち込んでもパールシルクは救えないんだから。
「……いっそ反乱でも起こすか」
「「頼むから早まるな!!」」
その方が手っ取り早いと呟くと王太子と宰相子息が異口同音で叫んできた。
「将軍子息。剣聖の異名を持つお前がそれを言わないでくれ」
「ドラゴンスレイヤーに謀反を起こされたらたまったものじゃない」
頭が痛いとばかりに言ってくるが、将軍子息は事実だが、剣聖とかドラゴンスレイヤーと言われてもパールシルクを助けることのできない異名など無意味、無価値に過ぎない。
「ならば、何とかしろ。俺がパールシルクを保護しても許されるように!!」
実力行使に出ようと何度もあった。だけど、こいつらが実力行使しようとすれば、犯罪者だとか牢屋に入れられるとかパールシルクが悲しむだけだとか言ってしたくても出来ない日々でイライラしていたのだ。
「さっさとあの盗人。どうにかしろ!!」
こっちは死刑上等で私刑したいのを耐えているんだぞ。と脅していくと。
「分かってるよ。私だってあの悪法をどうにかしたいと思っているのだから」
だから待ってくれと言われるが、待てば待つだけパールシルクの苦しみが長引くだけだと思っているから待てないと怒鳴ってやりたい。
「必ず何とかする」
そのためには早まるなと言われて、
「………その言葉今は信じる。だけど、限界が来たらもう待たずに動くからな!!」
叫ぶように告げて、今は何も出来ない自分がもどかしかった。
婚約者だからと言う理由でデートに誘う日々。だけど、
「お姉さまは体調がすぐれないからわたくしに代わりに行ってほしいと……」
いつものように媚びるように告げてくる。上目遣いで自分が可愛らしいと思っているのか。
殴りたい気持ちを無理やり抑え込んで、
「なら、お見舞いさせてもらいます」
と無理やり上がり込む。
「お姉さまは病気が移るから会うのはやめてほしいと……」
「パールシルクに会わない方が病気になりそうだから聞けないな」
ふざけるような言葉を返して、パールシルクの部屋に向かう。
「パールシルク!!」
かつてパールシルクの部屋だった場所。だけど、今では違うのを理解しているがあえてそこの部屋のドアを開ける。
「パールシルクはどこだ?」
子供っぽさと見た目派手なモノばかりを集めた一室。しまう場所が無いくらいドレスもあふれているが、どれもパールシルクのサイズではないのはすぐに分かる。
「お姉さまはわたくしにこの部屋を好きに使っていいと告げて、屋根裏部屋に暮らしているんです。ほんと変わり者ですよね」
あくまでパールシルクが変わり者だというのに腹立つ。
「そうか。じゃあ、この部屋の扉が開かないように物を置いてあるのは?」
「お姉さまがしてほしいって、ホントおかしいですよね」
くすくすと笑うが、そんなことをしても【変わり者】で済まそうとしているなどこちらを馬鹿にしているしか思えない。
それを信じると思われているのか。
「パールシルク」
物を退かしてドアを開ける時に舌打ちする声が聞こえたのをこっちが聞こえていないと思っているのかと言いたくなったが、言っても何も変わらない。
パールシルクはぼろぼろの服に身を包んで針仕事をしていた。
「やっと完成したよ~!!」
ノックもなくいきなりドアが開かれて、魔法教会の天才魔法使いが楽しげに現れる。
「ネオン」
その天才魔法使いの名前を呼ぶとそいつはくるくるとダンスをするように回りながら。
「イルヴァがだ~い好きな♡パールシルク嬢にあげた物を何故か甘やかされて全く常識のない妹君に奪われているんだよね。それを解決するものを発明したよ~」
などと言いだして、大量の羊皮紙に書かれたものを差し出してきたが、
「悪い。悪筆過ぎて読めない」
ただでさえ、頭が良くない自覚があるイルヴァだったが、それに加えて悪筆のネオンの研究書を読む気力がなかった。
……………まあ、それでも頑張って読んだが、内容は理解できず結局口頭で説明された。
その数か月後。
愛する貴方のためだけにというキャッチフレーズの商品が販売されて、王太子が婚約者にその商品を贈ったことでブームが起きた。
「パールシルク。これを……」
すぐさまイルヴァはそれを手に入れて、久々に会えたパールシルクに渡す。
「イルヴァさま……」
ああ、久しぶりだ。いつもあのパールシルクと血が繋がっているとは思えない毒妹に邪魔されて会えなかったのにやっと会えた。
(まあ、会えた理由は、パールシルク本人にプレゼントを贈るからと手紙や小包を止めていたからだろう)
パールシルクから直接奪うために。
「イルヴァさま。気持ちは嬉しいですが……」
また一段と痩せた。指先も荒れている。その痛々しさにあの毒家族に対して殺意が湧きそうになるが、愛するパールシルクの前だからと必死に耐える。
「大丈夫。これは貴方だけのものです」
自分の目の色と同じ宝石の嵌っているイヤリングを耳にそっと着ける。
「嬉しい」
目に涙を浮かべながらもそのプレゼントに喜んでくれるパールシルクの微笑み。
「パールシルク。もう君を悲しませないから」
そっと抱きしめる。華奢を通り過ぎて壊れそうになるまで痩せ細ってしまった体を壊さないように気を付けて抱きしめつつ、湧き上がる怒りを抑える。
罠の準備は完了した。
我が国の建国記念式典。このような特別な式典こそあの毒家族が目立とうと躍起になるのは目に見えていた。
宰相の息子の尻を叩いて、ひっそりとこのような式典に毎回素行が悪いという謎理論で幽閉されているパールシルクを救出させるように手を回させて……本当は自分が直々に救出したいが、囮としての役割をするので我慢する。
本当なら式典でエスコートをするはずなのに、家族で参加すると押し切られ、当日になって体調を崩して欠席という連絡が来た。しかも代わりにコリンヌをエスコートしてほしいというふざけた一文が来たので、証拠として提出しておいた。
式典では王太子の護衛という名目で……パールシルクが参加していれば彼女の傍にいる予定だったのだが、手持無沙汰だったのでそばに控えていると王太子と親しくなりたいという思惑もあるのだろう毒妹がこちらに近付いてくるのが見える。
「イルヴァさま。良かった会えて♪」
馬に声を掛けて将と近付く作戦か。王太子を使って、イルヴァと自分を公式な関係に持ち込もうとしているのか。どちらにしても不愉快に感じて、眉を顰める。
「あっ、殿下も居たのですね」
王太子がいるのに気づいた時点で近付かない選択肢も王太子に挨拶をしないで軽々しく声を掛ける様にも不愉快だと思ったが、それは自分だけではなく、周りに控えていた貴族らも同じ気持ちだったのか不快気に扇で口元を隠す者も眉を顰める者。文句をいう者もしっかりいるが当の本人は全く気付いていない。
王太子の反応が返ってこないのに無礼にも自分のしゃべりたいことをしゃべり続ける愚か者に、わざわざ仕上げをするのを決めて動いたのは王太子だった。
「その耳飾り……」
最後まで言わなかった。いう必要性を感じなかったのだ。
だけど、綺麗だと褒められたと勘違いをした愚者は罠にはまる。
「似合いますか。イルヴァさまがくださったのです」
決定的な言葉を告げた途端。毒妹の身体が光り、どんどん老いぼれていく。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その様を見ていた者から悲鳴が上がる。
「はっ、なんで……」
歯が抜け落ち老婆になったコリンヌがしわだらけになった自分の手を信じられないように見つめている。いや、案外、急に眼が悪くなった状況で現実がまだ分からないかもしれないが。
ここまでの効果があるとは思わなかったなと王太子の心の声が聞こえるような気がしたが、王太子は疑問を投げかける態で罠にかかった獲物をしとめる。
「その耳飾り。わたしも婚約者に贈ったことがある愛しい相手しか着けることが出来ない魔法オプションの付いている装飾品だね」
にこやかに周りに聞かせるように、
「盗難防止にその人以外が着けたら呪われる仕様の」
王太子の言葉にざわざわとさざ波のような騒ぎが起こる。
「なっ、なんてことを」
騒ぐが歯の抜けた状態でもごもご言っていても伝わらない。
「あれは、イルヴァの贈り物か?」
「ええ。愛するパールシルクに贈った耳飾りですね。別人が偽りを述べると老化する呪いをオプションに付けさせてもらいました」
その言葉でよりざわめく式場。そこに、宰相子息の部下が現れて、
「今、パールシルクの家で納屋に幽閉されていたご令嬢を見付けました」
とパールシルクを連れてくる。
まあ、実際は屋根裏部屋だったが、そんな違いは些細なことだろう。
一応名目は宰相子息が不穏な書類を見付けたのでノベリア家に内々に報告に行ったというものだったが、そこで偶然幽閉されている令嬢を見付けても不思議ではない。
ちなみに内々の報告は明らかに筆跡の違う書類が紛れ込んでいたというもので、パールシルクに今まで仕事をさせていたのが分かったというものだ。
そこからが痛快……というにはパールシルクに対してされていた所業が許せないが、彼女に対しての虐待の数々が見つかり、家族が問題あっても虐待されている者を保護できなかった法律は悪法として無くす方針になったのだ。
「お手柄だな」
まさか、正規の持ち主以外が持つと呪われるアイテムなんて。
ネオンを褒めるとネオンは、
「呪いのアイテムに条件付けると面白いなんて思わなかったよ。まあ、遺産相続の際には渡せる仕組みはこれからおいおい考えるとして」
とこれからのことに想いを馳せている。
「ああ。ちなみに真実をすべて白状すれば呪いはある程度解けるものだから」
その言葉に誘われるようにすべてをコリンヌは語りだすか。それとも、知られてはいけないことを言わないように娘の口を封じるか。
そんな醜い争いが起きたがまあ些細なことだろう。
大事なのは、
「やっと、助けられた」
愛する人がもう苦しめられない日々を過ごせるかどうかなのだから。
呪いもやり方を変えれば誰かを助けられる




