あなたがいい
「ヒースさん」
ニナは立ち止まり、優しくニナの手を引くヒースクリフの後ろ姿に声をかけた。ヒースクリフは「うん?」と返事をして、優しい顔でニナを振り返った。
「私は、ヒースさんが好きです」
ニナは振り返ったヒースクリフの笑顔に向かって、今気付いたばかりの、大切な気持ちを告げた。
ニナには、ヒースクリフがどう思うかも、誰を選ぶのかもわからない。でもニナは、ヒースクリフがよかったから。だから今、気付いた想いを言葉にしたいとそう思った。
ニナはもう、ぼんやりと心を鈍くしていた『オイ』でも、心に蓋をして絶望を押し込めていた『ニエ』でもない。ニナの心は解き放たれて自由だったし、1番柔らかいところは、今、差し出している。
だからきっと、ヒースクリフに断られたら、ニナの心は真っ向から傷付くだろう。でも、それでも。
「ジェシカさんと話をして、ケヴィンくんを見て、ずっと考えていました。もし私がこの先、たくさんの未来の中から、進みたい道を選ぶことができるなら」
しんと澄み切った冬の空に、降りそうなほど星が瞬いている。さあと風が抜け、足元ではまるで絨毯を敷き詰めたように咲き誇る花が揺れ、淡く光を散らした。
「もしこの先、私に何かが起こるなら、何かを分け合えるなら、何かが与えられるのなら」
――たとえそれが、痛みでも。
「私はぜんぶ、あなたがいい」
ニナは、白い吐息に想いを乗せ、ヒースクリフを見つめた。ヒースクリフは驚くあまり口をぽかんと開けて目をまん丸く開いて、固まっていた。
硬直したヒースクリフの手がふっと動いたかと思うと、ニナは信じられないほど素早くヒースクリフの胸に掻き抱かれていた。
「結婚しよう!!」
静謐な聖域の花畑に、ヒースクリフの声がこだました。今度はニナがびっくりして、目を見開いてヒースクリフの腕の中にぴたりと収まった。
「――――俺は、ニナが好きだよ」
落ちた吐息は熱くて、頬から伝わる鼓動はどくどくと早鐘を打っていて、上から、ニナの額にぽつりと温かな雫が落とされて。ニナが見上げると、ヒースクリフの目から零れ落ちた涙が、ニナの頬に落ちて伝った。
ニナがそっと手を伸ばし、次から次へと溢れ出す温かな涙を拭うと、ヒースクリフは目元を赤く染めてへにゃりと笑った。
「好きだよ、ニナ」
「はい、私も、ヒースさんが好きです」
信じられないくらい幸せで、心が溢れ出しそうだった。声は震え、視界が滲んだ。ニナは涙を浮かべてとけるように微笑み、ヒースクリフをぎゅっと抱きしめた。
ヒースクリフはニナの額にこつりと額をあてて、真っ赤な目元を緩ませた。
「うれしい、すごくうれしい。ニナ、好きだよ」
「はい」
「ぜったいに、一生大事にする」
ぽつぽつと、ときおりニナの頬に落ちて伝う涙は、もうどちらのものかわからなくて、ふたりは額をくっつけて微笑みあった。
しんしんと澄み渡る冬空の下、星あかりに照らされて、奇跡のような互いの存在をただ抱きしめた。
ニナはもう、これ以上ないと思うほど、幸せだった。








