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たのしい夕食

 





「よし、じゃあ市場に行こうか!」


 ヒースクリフの弾んだ声を合図に、ニナたちはみんなで家を出た。市場は午前中にたくさんの人が押し寄せるので、混む時間帯を少し避け昼過ぎにのんびり行くことにした。


 市場に着くと、そこにはたくさんの店が立ち並んでいた。美しい模様を織り込んだ布を並べている店、たくさんの瓶や壺を並べている店、帽子や、珍しい飾り物を取り扱っている店もある。


 人が少なくなる時間とはいえ人通りも多く、市場は活気に満ちあふれていた。


 食材が並ぶ一画にさしかかると、そこには様々な種類の食べ物が山と積まれていた。


 木の台に並べられた色とりどりの果物、瑞々しくみるからにしゃっきりとした野菜たち。溢れんばかりに積まれたそれらの向こう側から、店主が威勢のいい声をあげている。


 敷き詰めた氷の上に大きな葉を敷き、その上にはつやつやと光る川魚たちが並んでいる。中でもどんと置かれた大きな魚は見栄えがよく、その隣のザルに盛られた小ぶりな川エビはいかにもおいしそうに見えた。


 肉屋は軒先に塩漬け肉の塊を吊るし、ガラスでできた保冷ケースの中に色々な部位の肉を並べている。店で加工された、生の腸詰めやハーブ塩に漬け込んだ肉もおいしそうだ。


 ニナはネビュラを抱きかかえ、きょろきょろと辺りを見回し続けた。


「さあ、何から買おうか!」


「鶏肉と、ベーコンと、白菜とアスパラ菜と、チーズとバターが欲しいです!それに、胡椒とショウの実も欲しいんです!」


 ニナは、家で作る最初の料理は初めて作った白菜スープにしようとずっと考えていた。それだけではない。もうニナはあの時よりずっとたくさんの料理を作ることができる。鶏肉を塩胡椒で香ばしく焼き上げて、アスパラ菜をバターソテーにして添えるのだ。


 丸くてどっしりしたパンと一緒に温かい料理を食卓に並べたら、きっと「おいしいね」と笑い合って食べられる。それはとても心温まる『幸せ』のかたちをしていた。




 ニナたちは必要なものを求めて市場を歩いた。ヒースクリフは行く先々で声をかけられ、何かを買えば次々に「おまけ」と言って果物やじゃがいも、ソーセージなどを持たされた。街のものは皆、ヒースクリフを心から敬慕しているのだ。


 寄らなかった店からは、「次は来ておくれよ!」と声がかけられる。ヒースクリフはそれに手を上げて答えていた。


 ニナはそれを横で聞きながら、じゃあ次は魚にしようかな、と考えながら歩いた。辺境伯領で流通しているのは川魚で、塩をふって炙るととてもおいしい。ギルドの食堂で出すと、森で自分たちで釣っては焼いて食べているものだからと不評なのだが、ヒースクリフはとても喜ぶ。


 ヒースクリフは魚を捕まえるのと捌くのは上手いが焼くのがとても下手くそで、生焼けか黒焦げにしてしまうのだ。だから自分で焼いて食べたりはしなかった。ニナが食堂で魚を焼いて出すと、とても嬉しそうに頬張って食べる。ニナはそれがいつもうれしかった。


 魚なら塩焼きだけではなく、大きなのを切り身にして小麦粉を振ってソテーにするのもいいし、香味野菜なんかと一緒に蒸し上げてスープのようにしてもいい。


 ニナは、たくさんの料理を思いつくのがうれしくて、楽しかった。


「たくさん買ったね」


「はい!」


 ニナとヒースクリフは買い物を終え、顔を見合わせて笑いあった。ヒースクリフは抱えるほどたくさんの野菜や果物を持っていたし、ニナの保冷カバンには肉とチーズ、ソーセージが詰まっていた。




 たくさんの材料を抱えて家に帰り、ニナは早速料理を作り始めた。


 白菜のスープをコトコト煮込みながら、鶏肉やアスパラ菜を焼く。聖域の家の中はおいしそうな匂いでいっぱいになって、ヒースクリフはネビュラと寄り添いながら、その光景を眺めて幸せそうに微笑んでいた。


 仕上げだ、とチーズを取り出したその時になっておろし金がないことに気付き、ニナは大慌てで「おろし金がありません……!」と叫んだ。


 ヒースクリフはおろおろするニナに、「俺がナイフで削るよ」と声をかけ、キッチンでニナの隣に立ちチーズを削り始めた。


 すりおろすほども細かくできないが、それはそれでおいしくて、些細な失敗と、協力してどうにかした成功がまたたのしくて、ニナとヒースクリフははしゃぎながら夕食を摂った。


 聖域の家は、おいしい匂いとたのしそうな笑い声で満ちあふれていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] (あれ、いつ結婚したのかな?)
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