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贄と呼ばれた少女の、幸せ【書籍化進行中】  作者: 紬夏乃
第3章 できるように、なりたいこと
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さて、じゃあどうやって

 





 ひとしきりネビュラをなで回した後、ヒースクリフはテーブルの上いっぱいにジルが持たせてくれた料理を広げた。一度落としてしまい少し崩れてしまった料理は、それを思わせないほどに美しかった。


 まるで宝石のように琥珀色に輝くジュレが乗った色とりどりの野菜とスモークサーモンのサラダ。表面にだけ火の通された肉厚のホタテはスライスされ、レモンと蕪、ラディッシュと共にオリーブオイルのソースで和えられ美しく並んできらきらと輝いていた。


 脱皮直後に水揚げされたソフトシェルクラブはスパイスと薄い衣をまとって香ばしく揚げられ、美しい桃色の断面をしたローストビーフにはオニオンとホースラディッシュの効いたツンと辛く爽快なソースがかかっている。


 その他にも、バゲットやハニーバター、タルタルソースに茹でたエビ、オイルで煮た牡蠣、豆のペーストなんかも詰められていた。


 辺境で流通しにくい新鮮な海の幸をメインに、心を込めて用意されたそれらは目にも楽しく、頬が落ちるほどおいしかった。


 ヒースクリフとニナは一品口に運ぶたびにおいしいと声を上げ、違う品を食べてはこっちもおいしいと勧めあった。バゲットに色々なものを乗せ、お互いのために最高の組み合わせを考えて渡し合うのも楽しかった。


「おいしくて夢中で食べちゃってたけどさ、ネビュラが小さくなれたからどうやってニナが街に行くか話し合わないとだよね」


 すっかりお腹がくちくなったころ、ハッと気付いたようにヒースクリフがそういうまで、ふたりは久しぶりに一緒にとる食事を心から楽しんだ。




「やはりまずはギルドの食堂がいいであろう」


 ネビュラを抱いて街を歩いてみる、プティ・ブティへ行く、昼間に噴水広場まで散歩をして帰る……色々な案が出たが、最終的にネビュラはそう結論を出した。


「でもさ、あんなむさ苦しいところ……」


「ニナが家のことを終わらせて、夕方に主を迎えついでに食堂に行けばよい。まずは少しの時間から始めるのに丁度いいだろう」


「夕方からなら、家のこともできます。ヒースさんをお迎えに行けるのはうれしいです」


 ニナもにこにことしてネビュラに同意した。


「俺もニナとネビュラが迎えに来てくれるのは嬉しいけど……」


「食堂のものによくよく頼み、店主の目が届くところに座ればいい。主はニナがどこに行っても心配するのだから、まずは主の馴染みがある場所から始めるのが一番だ。ギルドであれば主の身内にそれと知ってちょっかいをかけるものなどおらぬ」


「それは……まあそっかあ……」


 ヒースクリフは反論が思いつかずようやく頷いた。ニナがどこに行っても心配するのは全くその通りだったし、あの食堂の親父さん(マスター)が目を光らせてくれたら、たとえニナがヒースクリフの身内だと知らないものが絡もうとしても一喝してニナを守ってくれるだろう。


 そう思えば、依頼を終えたらニナとネビュラが迎えに来てくれているというのはとても嬉しいことだとヒースクリフの心は浮き立った。仕事終わりにみんなで街を歩いてもいいし、そのまま食堂で夕食をとってもいい。温かく出来たての料理をニナと食べて――その後で光の灯された噴水を見に行ったっていい。


「うん、楽しそうだ」


 ヒースクリフは深く頷いて、楽しい計画をたくさん作ろうと決意した。


「ギルドに行けば、ライノさんにもジェシカさんにも会えるかもしれません。お話ができたらうれしいです」


「そうだね。そう思ったらニナの知ってる人がいるんだ。話ができる人が増えたらいいって、話したもんね」


「はい!」


 話がまとまり、緩んだ空気の中ふたりは目を合わせて微笑みあった。


「…………いや、しっかしかわいいな」


「かわいいですね」


 ネビュラはネビュラなのでいつもの通りに振る舞っているが、ころころと小さなネビュラはニナの膝の上からテーブルに2本の前足を乗せてぴょこりと頭をのぞかせていた。


 ヒースクリフはそんなネビュラに手を伸ばし、鼻をくすぐりながら気になっていたことを確認することにした。


「声は変わらないんだな」


「我はヒトのように声帯を震わせてしゃべっているわけではない。声は変わらぬ」


「小さいけどさ、いつでも元に戻れるんだよな?」


「当然だ。我の存在を引き上げるなど造作もない」


 ころころと小さなネビュラは、いつでも一瞬で星の神狼ネビュラ様に戻れるのだ。


「うん、これ以上なく頼れる護衛だなあ……」


 万が一ニナがしつこく絡まれ、マスターの手に負えない事態が起こったとしても、一瞬でネビュラが本来の姿をあらわにするのだ。


 それは護衛として過剰すぎる戦力で、いっそ絡んだ人間が哀れになるほどだった。


「親父さんに、本当によく頼み込んでおかないとなあ」


「それがよい」


 ネビュラとヒースクリフの考えていることは少しずれていたが、結論は同じだった。






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