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第十七話「向き不向き」

 


【春臣視点】


 それにしてもさくらさんは本当に秋葉さんを追い返したのだろうか。


 いや、追い返しはしないだろう。

 昨日会ったばかりだとは言え、そんな事をするような人ではないのはわかる。


『春臣、これで良くわかっただろ?

 女はお前が思っているような生き物じゃないんだ』


 あの日の雅也の言葉が蘇る。


 まさか………。


 いやいや、さくらさんに限ってそんなはずはない。


『またそんな事言ってんのか? あの時だって同じような事言ってて俺の言う通りになっただろ? いい加減学習しろよ春臣』


 耳元で雅也の声が聞こえた気がした。

 確かに雅也の言葉は尽く当たっていた。

 実際には結果を見ていないから、みんながみんな当たっていた訳ではないと思うけど、これまで雅也の言う通りにして来たお陰で平穏に暮らせている。


 さくらさんを値踏みするようで心苦しいが、やはり雅也に見てもらった方が良いのだろう。


「コーヒーです。少し休憩しません?」

「ああ。ありがとう……」


 いつの間にか池谷さんはコーヒーを淹れて来てくれたようだ。

 今度は集中してた訳ではなく、要らない事を考えてて気がつかなかった……。

 見ると部分縫いも出来上がっている。

 パタンナーに頼んだは良いが、今は忙しくて今夜中にやってくれるとの事だった。

 それでもいいのだが、池谷さんは早く帰る為に自分で縫うと言ってミシン室へ行っていたのだった。

 ブレードやリボンテープ関係の付属も横に置いてあり、部屋の隅にはトワルまでトルソーに着せてある。

 それにボタンやファスナー、芯地などのサンプル帳の用意もされている……。

 僕はどのくらいの間、ぼーっと考えていたのだろう……。


「やっぱり、嫌ですよね……」

「な、何が?」

「いや、浮気ですよ浮気。野咲さん、さっきからその事ばかり考えてたんですよね?」

「い、いや、だからこう言う話は……」

「今は休憩中ですよ? それに仕事中ずっと違う事を考えてたのは野咲さんですからね?」

「…………」


 確かにそう言われると何も言えない。

 ましてや池谷さんは凄く頑張ってここまで用意してくれたのだ。


「もしかして何か確認する事あって声かけてくれてた?」

「え? トワルはどの形を着せとくか聞いた時、指差して応えてくれましたけど、もしかしてそれも覚えてないんですか?」

「いや、そ、そんな事はないよ……」


 思い出した。

 なんかハンガーに吊られて並んでる服の片方を指差した。

 ただ、何の為に指差したか全く覚えていない。

 咄嗟に気になる方を指差したと言っていい……。


「もしかして山峰さんの女性関係の噂、初耳でした?」

「い、いや、なんとなく耳にはしてたけど……。やっぱり人から言われるとねぇ……」


 これは嘘ではない。

 雅也とは本当に付き合っている訳ではないけど、やはり人から言われるとどうも心が騒ついてしまう。

 長年付き合っている事にしていると、こうした嫉妬に似た感情も生まれて来るのだろうか?

 雅也もだから僕の事となると煩いくらいに干渉してくるのだろうか?


 それはそれで怖いものがあるな?


 まあ、ありがたいとも言えるけど。


 しかし雅也とはもう人生の半分を共に過ごしている事になる。

 本気で付き合ってもいいほどの愛情に似た友情がそこにある。

 何度も言うが、雅也と本気に付き合うなんて有り得ないけど。


 まあ、雅也とは腐れ縁でもあるし、運命的な縁とも呼べる仲である。

 何より雅也は僕の気持ちを一度も裏切った事がない。

 それはお互い様だけど、だからこそ僕達は親友と呼べるだけの仲なのだ。


「あ、また山峰さんの事考えてますよね?」

「…………」


 図星を突かれるとなんでこうも恥ずかしいのだろう。

 一回り以上離れた子に言われると尚更だ。

 顔が赤くなっているのが自分でもわかる……。


「とにかく、今夜二人だけでゆっくり聞いてあげますから?」

「いや、結局雅也も来るから二人じゃないよ?」

「えーっ!」

「えーって。でももうハウスキーパーさんに人数増えたって連絡しちゃったし……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。何ですかその雑な飲み会の幹事みたいな仕切りーっ」


 確かにそうかも知れない。

 でも雑と言われようが決まったからには雑で通すしかない。

 来たくなければ来なければいい。

 さくらさんには悪いけど、半分くらいそんな期待もしてたし……。


「雅也との約束は譲れないんだよ。もし都合悪ければまたの機会にしようよ?」

「いえ、行きます。野咲さんのまたの機会っていつになるか分かりませんし、それに私、野咲さんのおウチには行ってみたいですからっ!」


 完全にムキになってるよ、池谷さん。

 なんか逆に火を着けてしまったみたいだな……。

 まあ、それならそれで雅也に鎮火してもらって、雅也は雅也で池谷さんにとっちめられればいいんだけど。

 池谷さんには悪いが雅也はそれくらいされた方がいい。


「じゃ、じゃあ頑張って終わらせよっか。コーヒーありがとね」


 妙な休憩時間を終え、僕は今度こそ仕事に集中する事にした。


 しかし池谷さんの言う通りで、確かに今回は雑な仕切りだよな。

 我ながら呆れるくらいだ。


 ん?


 だから今まで飲み会の幹事を頼まれた事が無かったのか?



 いずれにせよ僕が飲み会の幹事をする事はないだろう……。



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