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実習三日目……だったはずなんだが……

誤字見かけたらお知らせオナシャス!

 実習三日目である。

 今日は五人全員で狩りをする予定だ。

 野営道具やテントなどを一度片付けて、皆で分担して荷物を持ったまま山に入る。

 野営につぐ野営の旅の移動をイメージしての練習だ。

 グラスボードは使わずに、一度山の上の方に拠点を作り、狩りが終わったら回収して戻るというのが今日の行程だ。


「みんな、荷物の準備は出来た?」

「めんどくさいなぁー」

「アル、そう言うな。三人で旅に出てからも似たような事がきっとある。練習しとけばその時の自信になるさ」

「バーニーは真面目さんだぁ。僕はそれでもめんどくさいよぉー」

「アル、あんまりぐちぐち言ってると、年下の二人の分を持たせるわよ」

「ひぃー。クリスぅ、それじゃあ僕潰れてうごけないよぉ」

「俺達は準備終わったぞー」

「そう。それじゃあ出発しましょう!」



 草原を抜けて山に入る。

 拠点を高い位置に置くのは、ウサギ狩りがメインだからだ。

 ウサギは後ろ足が発達してるため、下方向から追いかけると登りの上手い彼らは狩りづらい。上方向から追いかけると前足の小さなウサギは進みづらく、狩りやすいのだ。


 前二日である程度目星をつけ、他の班と行動範囲が被らないような場所を選んだ。傾斜がなだらかで、背の高い木が囲むように生えていて、少し広くなっている。

 恐らく、普段山に入る狩人達が野営に使っているのだろ。背の低い草などは生えておらず、所々土が黒い。焚き火の後だろう。

 山に入る事一時間。

 ようやく拠点設置場所に着いた。


「そんじゃあ、真ん中に食料を置いて他の荷物で囲もう。布を被せたら周りで獣よけのクラミア草を焚くと、動物に荒らされないと思うけど、なんかある?」

「あー重かったぁー。僕は特にないなぁ」

「ククルス君は北部の子だから何回か山に入ってるんでしょう? 経験者にしたがうわ。」

「俺も特にない」

「僕は念の為に荷物番を一人置いた方が良いと思うよ。実際の旅なら盗賊とかも出るかも知れないし。あくまでも獣よけだから、人からしたらそこに何か有るって言っているようなものだと思うんだ」

「あー。それは失念してたわ。さすがドヴァン」

「それじゃあ荷物番を決めましょう? アルは疲れてるなら荷物番の方がいい?」

「うん。僕は残るよ。 一人だと熊とか出ると対応出来ないからもう一人欲しいなぁ」

「それじゃあ俺が残ろう。クリスには三日間狩りをさせて申し訳ないが、遠距離攻撃の手段が乏しくてな。ウサギは斧だと潰れてしまうだろうし」

「あら、申し訳ないと思うなら帰りは私の分の荷物を少し分けてあげるわ、バーニー」

「お手やわかに頼むよ」

「決まりか? なら、クラミア草を焚くぞ、ドヴァン、クリス、火を頼む」


 ニンニク臭さが辺りを漂う。

 このままだと狩りの最中匂いで獣が逃げるな。


「はーい、狩りチーム集合。 服とか髪に臭が結構ついたから、このままだと獣が逃げるんで、匂い消しの魔法使うぞー」

「匂い消しの魔法? ひゃっ!? つめたっ!?」

「ククルス、これは何がどうなってるの?」

「匂いはな、風の中を漂う小さな粒なんだ。それを全身に薄く水を張って絡めとる。そんで、凍らせてボロボロ落とした訳だ」

「説明してから使ってよ!! びっくりしたじゃない!!」

「すまん。まーこれでウサギも逃げにくくなったと思って許してくれ」

「ククルスはもう少し気を使う事をしようね」


 ぐちぐちと文句を言われながらウサギを探す。

 お、二匹見っけ。


「そこまでだ。あそこにウサギが二匹いる。今日はこの場で血抜きが出来るから捕まえなくていい。魔法で遠距離からやろう」

「まったく。私が風の魔法で左を仕留めるわ。右は?」

「僕がやるよ。地面から石の杭を出す」

「あんまりデカイので攻撃すんなよ? 毛皮もいいお小遣いだ」

「「了解」」


 クリスが風の魔法陣を目の前に展開する。

 見えない何かが吸い込まれるようにウサギの首にあたり、血を吹き出す。

 ビックリしたもう一匹が逃げ出そうと一度跳ねて前足が地面に着いた瞬間、石の杭が顎の辺りから首を掠めるように突き刺した。


「お見事」

「ククルスだったら傷すら付けずに凍らせるのかな?」

「いんや、食うことが目的だからな。やり方はたいして変わらないよ。毛皮目的でもどっちみち裂くしな」

「それじゃあ、血抜きしちゃいましょう? ククルス君教えて」

「あいよ。まずは、動かないように首を持って地面に……」


 そうしてこの日も五匹仕留めた。

 捕りすぎても山の生態系を崩すだけだ。何事も適当が肝要だ。

 そうして拠点に向かっていると、またあの嫌な匂いが流れてくる。

 拠点の方に焚き火じゃありえない黒い煙が上がっている!!


「なんかあったみたいだ!」

「急ぎましょう!!」


 急ぎ拠点に向かうとアルがバーニーを抱えて座り込んでいる!


「嘘だぁ! 返事をしてよぉ!! バーニー! バーニィー!!」

「どうしたアル!! バーニーに何があった!!!」

「ククルスぅ!! バーニーを助けて!!! 魔獣を従えた人族が襲って来たんだ!!」

「ヨトゥン! 俺は傷口の消毒と外側を治す! お前は内側を頼む!! ドヴァン、クリス!! 辺りを警戒しろ!!」

「了解ですククルス殿」

「わかったククルス。バーニーを頼んだよ!」

「そ、そんな……バーニーが……」


 俺は水魔法でバーニーの傷口を洗い、血に干渉して治癒力を無理やり上げて傷口を塞ぐ。ヨトゥンも処置を終えたようだ。ヨトゥンも時間が経ちすぎると回復しきれないのだ、分担して正解か。しかし、大分血を流したようだ、俺もヨトゥンも増血は出来ない。たしか、キラ先生は命属性が使えたはずだ。早急に山から下ろした方がいいだろう。

 クリスはオロオロとして役に立ちそうにない。ドヴァンが戻るまで待機するしかないか。


「クリス、アル。バーニーはなんとか大丈夫だ。 ただ、このままだと少しまずい。ドヴァンが戻ったら四人で山を下りるんだ」

「わ、わかったわ」

「うぅ……バァーニィー……」


 少ししてドヴァンが戻る。


「ククルス。どうやら、奴隷狩りだ。 船から岸壁を登って来たらしい。他の生徒も何人か攫われてる。どうする?」

「ドヴァン、三人を連れて山を下りてくれ。バーニーがこのままだと危ない。先生に治療を頼んでくれ。 それが終わったら急いでギルじいとアサヒさんを呼んでくれ」

「ククルスはどうするんだ?」

「決まってるだろ。奴らを氷漬けにして沈めてやる!」

「ダメだよククルス。人数も多いし、魔獣を従えてる。一緒に下りて師匠を呼ぼう」

「だめだ。バーニーみたいな奴を増やすわけには行かない。 頼んだぞ!!」

「ククルス!!! あーもう!」


 俺は駆け出した。身体が熱い。ジリジリと怒りが頭を支配する。


「ヨトゥン! 空を飛んで船を止める!! 乗せてくれ!!!」

「行きましょうククルス殿」


 ヨトゥンの姿が変わる。普段の愛くるしい姿から、威厳のある帝号に相応しい姿に。

 冠羽は伸び、目つきは鋭く、黒くツルツルとした翼から風を捉えるための羽が浮き出る。

 俺はヨトゥンに乗り込み山を越える。断崖に何個か縄梯子がかかり、そこから人族が背中に大きな麻袋を背負って下りているのが見える。梯子の下には船が二隻留まっている。


 断崖の上で草原の民を鎖に繋ぎ口元を愉快そうに歪める人族が見えた。

 許せない。額が熱い。許せない。手のひらに爪が食い込む。許せない。許せない。


 ジュブリ……


 肉を裂く嫌な音がした。額の熱が急速に冷める。

 何かが顔を伝うが気する事すら忘れてしまった。


「……ヨトゥン、ニブルヘイムだ。海ごと船を留める」

「ククルス殿? わかりました。やってみましょう」


 イメージが精霊契約の紋章から流れ出ていく。

 海すら凍る死者の国。

 凍てつく地獄。


『『死者闊歩する氷の世界』』


 発した言葉から魔力が急速に奪われる。

 空気中の水分が凍り、日の光をキラキラと反射する。ダイアモンドダストだ。

 その光る極小の粒が海に落ちる度に海面がバキリ、バキリと凍っていく。

 船は固定した。次は中身をやろう。

 ヨトゥンから飛び降りる。ヨトゥンが何か言っているようだがよく分からない。

 魔法陣を展開してないのに俺はふわりと氷の海に立った。


 歩く。船へ向けて。ああ、剣を忘れていた。そう思った瞬間に右手に剣がどこからか現れる。

 歩く。何やら魔法陣が見える。発射する前に人間を氷で突き刺した。

 歩く。剣を振りかぶる人が来たので息を吹きかけて凍らせた。

 歩く。船から砲弾が向かってくる。手をかざすと砲弾は止まった。そのまま撃った大砲に撃ち返す。

 歩く。船に着いた。入口がない。船体に剣で穴を空ける。

 歩く。船の中に同級生の首に剣を添えてこちらを睨む人間がいる。

 止まる。どうしたものか、あの子を家に帰したい。そう考えたら同級生はフッと消えてしまった。

 歩く、剣を向ける人間に口を開く。


「輩よ、迎えに来たぞ。さぁ、その首を差し出せ、地獄で飽くなき欲望にゆだねようぞ。(おかしい。身体が動かない)」

「な、何を言ってやがるんだこのガキ!!?」

「餓鬼? 餓鬼だと? それはお前の事であろう。己の欲望に負けて人様の子供を売り払う心算だったのだろう? 殺身(せっしん)羅刹(らせつ)神通(じんつう)針口(しんこう)まだまだあるな、おや? 食火炭(じきかたん)の生まれ変わりではないか。勤めだけでは飽き足らず、人の身に生まれ落ちても欲を成すとは誠、餓鬼の鏡であるな。主様も地獄でお喜びだろうよ。さぁ、帰ろうぞ。(何を言っているんだ?)」

「な、何を言って!? ひぃっ!! 赤目に黒い角!! お、鬼族!? あいつらは島から出ない筈だろう!!!」

「如何にも鬼であるが、そう怯えるな。なに、お前もすぐに鬼になる。(何をするつもりだ!?)」


 俺の身体は持っている黒い刀を振って首をはねた。

 トントンと右足で床を叩くと、人族の死体の下から穴が出て、見えないナニカが死体から穴に落ちる。


「これで、地獄も少しは広くなるだろうさ」










「やっぱりか、この有様はそういう事だろうと思ってたわ。俺の孫を返して貰うぞ」


 俺が紅い瞳を向けるとそこにはギルじいが大剣を構えている。


 俺の額に向けて、目にも止まらない速度で振り下ろす。


 カキンッと音がして、俺の意識は途切れた。

 ギルじいが悲しそうに顔をしかめているのだけが最後に見えた。







後半のククルス君の言っている良く分からない単語はウィキペの餓鬼を参照!

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