試験の終わりと職業決定なんだが
はぁ……
浮いてる……浮いてるよぉ……
まぁいいや、ヨトゥンと契約した辺りでなんかこんな扱いになる気はしていたし。
「はぁ……では、続いて戦闘技術の試験官です。皆さんにはこちらの木できた訓練用の武器を貸出します。好きなものを取ってきてください」
皆、往々に様々な形の木製武器を手に取る。
俺はもちろんちょっと反った剣型、それとナイフ型だ。ドヴァンは槍と盾。ニーナはレイピアっぽいのを選んでいる。
「取りましたね? では皆さんにはあちらの円の中で魔法無しの模擬戦をしてもらいます。円の中から出ると負けです。また、自分が死んだと思える攻撃を受けたら降参してください。そのような攻撃を受けても降参せず、継続して戦うようなら私が止めます。勝敗自体は評価に関係ありません。ではククルス君とドヴァン君から始めましょう」
おう。いきなりドヴァンか。近づくの大変なんだよなぁー。
ドヴァンも嫌そうな顔してやがる。
二人向かい合って円の中で構えを取る。
「準備はよろしいですか? では、はじめ!」
いつも一緒に修行してるから解るが、ドヴァンは完全な「待ちタイプ」だ。
普通の攻撃は簡単に盾でいなされるし、隙でも見せようものなら直ぐに槍が飛んでくる。
今だってそうだ。開始の地点から動かず俺を見据えてただ構えている。
俺はあの盾と槍を掻い潜って首を断たなければならない。
ぎるじいと修行してるんだ。盾の死角や横のフェイントなんて通じない。
ゴリ押しだ。それしかない。
俺はゆっくりと槍の間合いのギリギリ外へと歩き出す。
ドヴァンは槍を短く持ちかえた。俺が突っ込むのが分かってるんだろう。
俺は倒れるように一歩目を踏み出す!!
二歩目の足を上げた瞬間、槍が俺に放たれる!!
でもそれは分かってる。ぎるじいに口を酸っぱくして言われてたもんな!!動き出しの避けられないところを狙えってよぉ!!!
だが、俺の踏み出した足はまだ伸びきっていない!そのまま片足のバネと両腕を上げて跳ぶ!!
だけどドヴァンも甘くはない。槍を突き出した腕は伸びきっていない。直ぐに槍を引く!!
俺は振り上げた腕を下ろし、剣をドヴァンの顔に向かって投げた!!
回転しながら迫る剣に驚くが直ぐ様盾を構え剣を防ぐ!!!
その隙に槍側に回り込み俺はナイフを首に突き出した。
ドヴァンは距離を取るが、ため息を一つ吐いて試験官を見る。
「降参です」
「いいんですか?」
「今のは致命傷だと思います」
「解りました。では、ククルス君の勝利です。二人共お疲れ様でした。円から出てください。次の二人は……」
その後は何度か模擬戦を観察。一巡したところで今度は別の相手だ。
俺はニーナと当たったが、先に攻撃をしてきたニーナの武器をナイフで思いっきり下に叩き、その間に首に剣を突きつけた。
ドヴァンはロビンという弓を使う男の子と当たったが、矢がなくなるまで完璧に防いだ後に槍で胸を突いて勝利。
「はい。皆さんお疲れでした。これから午前中に試験を受けた部屋に戻ります。おやつを用意しているので寛いでください。試験の結果はその部屋で発表しますので、それまでお喋りでもしながら待っていて下さい。では移動します」
部屋に戻ってきた。
「では、こちらの果物とお茶は好きにしてください。あと、この他大陸のお菓子は皆さん頑張りましたので一人一つ差し上げます。発表があるまでこの部屋で好きにして構いません。では私はこれで」
俺は小躍りしたい気持ちでおやつが置かれているテーブルに歩いた。
他大陸のお菓子だってさ! リリーおばあちゃんも飴玉くれたしやっぱり他大陸は砂糖が有るんだなぁ〜。
俺は他大陸のお菓子が入った袋と果物、それにお茶を持って窓際の席に座った。
ドヴァンも確保したようで俺の隣に座る。
「ドヴァン! 他大陸のお菓子だってよ! 楽しみだなぁ」
「ククルス、試験の事は気にならないの?」
「食いもんの他に優先するもんはほとんど無い。袋開けようぜ!」
「ホントにククルスは食べるの好きだね」
「ちょっと……」
「うおっ! 小麦粉系だな! 焼き菓子だ!」
「小麦粉で作れるの?」
「ちょっと」
「おう! 砂糖が作れる植物が草原で育つなら、ここでも作れるぞ。 くぉー! このガツンとくる甘さとサクサク感!! ヨトゥンも食うか?」
「いただきます主様」
「お茶と合うね。 種とかも売って貰えるなら植えてみたいなぁ…」
「ちょっと貴方達!!!」
「……なんだよ」
「試験の結果で勝負しなさい!!」
「やだ」
「なんで受けてくださらないの!?」
「なードヴァンどうしたらいい?」
「僕に振らないでよククルス」
「……そちらが勝ったら砂糖を売って差し上げますわ」
「まじか!? 受ける!!!」
「ククルス、こういうのは相手が勝った時の条件も聞かないと」
「わたくしが勝ちましたら、この学び舎に通う間、わたくしの言う事を聞いていただきます」
「よし、じゃあその条件なら俺が勝ったら砂糖を俺に売るのと、ドヴァンに砂糖の原料の種を商人に融通して貰うようにしてくれ。それくらいなら釣り合うと思うぞ」
「それで、いいですわ。貴方達は戦闘や魔法は優れているようですが、一般知識は直ぐに諦めた様ですし、魔法知識ずいぶんと悩んでいたようですもの。わたくしが知識で負ける訳がありませんわ」
「やったなドヴァン。種もくれるってよ」
「気候が合うといいけどねぇ」
「よ、余裕ぶっていられるのも今の内ですわ!」
「はーい、結果を持ってきましたよー。席についてください」
結果が良い順から発表するようだ。ニーナが三年分飛び級で、それを初めに段々名前が呼ばれる。どうやらここにいる「全員」が飛び級のようだ。
「はい、じゃあ最後に、ククルス君とドヴァン君は今まで居なかった四年分飛び級です。一年だけだけどよろしくね。この後、聖剣教会の司祭さんが来ます。詳しい説明は司祭さんがしますので、また少し待っていて下さい。おやつの続きとお喋りでもしながらゆっくり待ってね」
「ど、ど、どういう事ですの!?」
「一般知識は簡単すぎて早く終わったし、魔法知識は魔法陣を端から端まで書くのに手間取っただけだ。ところで砂糖はいくら?」
「砂糖ってどの大陸から来るの?」
「う……」
「「う?」」
「嘘ですわあぁ!? ズル!! ズルをしたに決まってますわ!!」
「じゃあ試験官さんに聞いてくれば? 俺たちは風の神に誓ってズルなんかしてないから」
「流石に四年分も飛び級するとは思ってなかったけど、ズルしたと言われるのは心外だね。僕たちだって努力したんだから」
「そんな……そんな……こんな迂闊な事をしたなんてお婆様に知れたら怒られますわ……」
「砂糖は市場に出てなかったから助かったぜ」
「ククルス……流石に可哀想になってきたんだけど……」
パンパン!!
「皆さん、こちらに注目してください。これから貴方達の職業決定の儀を務めさせていただきます、聖剣教会の司祭ラビアです。貴方達の未来に大きく関わる事なので真面目に聞いてくださいね。では……」
ニーナは俯いたまま別の席に座った。
職業についてはリリーおばあちゃんに教わった事なので聞き流す。
別の子供達から職業決定は始まったが、その内容はよく分からない。
司祭さんが頭に手を置くとボウっと体が光り出すが、特にどうなりたいかとか、どんな職業とか聞かれる訳じゃない。なんか司祭さんが囁いてるけどこちらまで聞こえない。
そうこう観察していると俺の番が来た。
「では、力を抜いて下さい。今から職業決定の儀を始めます。頭の中に色々と出ますが、私の声を聞いて、焦らないで、きっちりやりましょう」
司祭さんが俺の頭に手を置いてしばらくすると、頭の中に文字の羅列が現れる。
「貴方が今なりたいものを選んで下さい。二つ選べますが今は一つで良いでしょう」
「二つ今選びたいんですけどいいですか?」
「説明は聞いていましたか? 二つ選ぶとやり直しは効きませんよ?」
「大丈夫です」
「本当に?」
「大丈夫です」
「解りました。頭の中にある職業を二つ、意識して強く念じて下さい」
俺は料理人と暗殺者を迷わず意識して念じる。
心臓がドクンドクンと二度ほど大きく跳ねた。
「これでお終いです。お疲れでした。「ステータス」と念じると今の貴方の状態がいつでも解るようになりました。職業にそった経験を積むと色々な恩恵を受けられます。……夕飯を食べた後この学び舎の前に来てください。聖剣に適合するか確認を行います。」
「……解りました。ありがとうございました」
この後ドヴァンと一緒に学び舎を出て、そこで解散。
ドヴァンも二つ選んだらしい。
想像通り「農夫」と「騎士」。
帰り道、ステータスと念じてみた。
ステータス
名前……ククルス・アーヴィング
年齢……5歳
種族……草原の民
職業……料理人・暗殺者
加護……狩猟神の加護(異)・遊楽と風の神の愛子・豊穣と食の神の熱望・輪廻と時空の神の戯れ
固有スキル
魔力炉(水)・鑑定・食材断定・平々凡々・風の血統
職業スキル
料理人……包丁術(上級Lv.30)・目利き(中級Lv.25)・解体術(中級Lv.38)・調理術(上級Lv.11)・味覚強化(下級Lv.1)
暗殺者……暗器術(下級Lv.1)・隠密術(中級Lv.18)・気配察知(中級Lv.21)・必殺の極意(下級Lv.41)
統合スキル……毒耐性(下級Lv.4)
覚得スキル
剣術(中級Lv.25)・奇策(下級Lv.3)・斬鉄(下級Lv.8)・属性融合・反射展開・摂食回復
うん。ぎるじいとかに聞こう。
左肩痛い。




