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第八十八章 それぞれの復讐

 これで一応大きな断罪劇は終わります。

 


 あれほど他人には平気で残虐な行為をしていたくせに、シシリアはノアのちょっとした脅しに即落ちた。

 しかしサインをし終わった彼女は、憎々しげな物凄い形相をして喚いた。

 

「まさか()()()が生きていたなんて。さすが平民のどぶ鼠はしぶといわね!」

 

 シシリアが顎を蹴り上げられて大きく後ろへ吹っ飛んだ。

 

「シシリア!!」

 

 ヴェオリア公爵が叫んだ。

 

 ゴホッ!

 シシリアは口から血を吐きながらも身を起こした。そして蹴り上げた国王ではなく、侍女に向かって叫んだ。

 

「たとえ陛下と離縁したって私は王太子の母親よ。そして次期国王の母親なのよ。こんな真似していいと思っているの? お前なんか絞首台に乗せてやるわ」

 

「私を絞首台にですか?」

 

 侍女が笑った。

 その顔を見てシシリアはハッとした。国王は子煩悩だ。母親が誰であろうと等しく子供達を溺愛している。

 つまりこの娘を自分の娘と知った以上、国王はこの娘を溺愛すると言う事だ。しかも、真実の愛で結ばれた相手との娘で、辛い思いをさせてしまった負い目を感じていれば尚更……まさか……

 

「何で今頃現れたのよ。王座を狙っているの? 女のお前が国王になんかなれない! 大体お前は本当に陛下の子なの? 確かにエメランダに瓜二つだけれど、陛下には少しも似てないじゃないの!」

 

 それを聞いた侍女は茶色のかつらをと眼鏡を外した。そこに現れたのは美しい銀色の髪とエメラルドの瞳だった。

 

「残念ながら私は本当に国王陛下の子供のようなんですよ。それに娘ではなくて息子なので、今の法でも国王になる資格はありますよ(なる気はないけどね……)」

 

 ノアの言葉にシシリアは限界まで目を見開いた。そしてそれからノアの首を絞めようと両手を伸ばして触れた瞬間に、騎士達に取り押さえられて、再び両手を後ろ手に縛られた。


「殺人未遂及び不敬罪で逮捕する」

 

 騎士二人がシシリアを取り押さえた。

 

「この女は国王の目の前でノア王子殿下を襲おうとした。傷害未遂の現行犯だ。離宮の地下室に幽閉しろ」

 

 近衛第一騎士団長の命令で、シシリアは騎士二人に両腕を取られた。そんな彼女に向かって国王が言った。

 

「ここまで愚かな女だったとは……

 お前が罪を重ねたら、王太子の立場がますます悪くなるというのが何故分からないのか!

 ただでさえ、叔父や元妻、そして親族達が大罪を犯して白い目で見られているというのに……」

 

「元妻や一族とはどういう事ですか?」

 

 ヴェオリア公爵が真っ青な顔でこう尋ねた。すると国王は言った。

 

「王太子妃だったお前の孫娘は、以前から王太子の目を盗んで妻子持ちの男と関係を繰り返していたが、その現場を今回は多くの者達に目撃され、その場で捕縛されて地下牢獄行きになった。

 

 お前の嫡男一家は関所の荷物検査で違法魔薬物所持と不敬罪で現行犯逮捕だ。

 

 その他、脱税、違法賭博、収賄罪、脅迫、暴行罪、密輸・・・

 ありとあらゆる罪状でお前達の親族は牢獄送りになった。そのせいで城の地下牢獄だけでは収容しきれなくなって、別に何か所も新たに設ける羽目になって難儀したぞ。

 まあ、それを差配したのは私ではなくて王太子であるローバートだがね」

 

 ヴェオリア公爵はようやく理解した。自分達一族が領地へ帰っているうちに王都では粛清が行われたのだと。そして全ては終わっていたのだと……

 しかもそれを計画し実行したのは自分の孫であると。つまり、彼は母親にも祖父にも何の忖度する気もないのだという事を……

 

「一応教えてやるけど、教会の連中も既に捕まっているからな。人身売買、聖水の横流し、麻薬売買、全部バレてるからな。もちろんお前達との関連も。

 だからお前達は王侯貴族だけでなく、全国民に恨まれているんだって事を覚悟しておけよ!」

 

 地下への階段を下りて行くヴェオリア公爵父娘に向かって、ノアがこう言い放った。二人は一瞬足を止め、肩を震わせた。自分達の結末が想像出来たのであろう。

 

 

「嫌な思いをさせてしまって、本当にごめんなさいね」

 

 ノアが先ほどの部屋に戻ると、王妃がスッとノアの側に寄ってきて、両手でノアの頬を包んだ。

 その手は温かかった。ノアの顔をこんな風に触れてくれたのは、幼い頃に亡くなった母だけだった。

 ノアの瞳から涙が一筋流れた。

 

 

 ノアが離宮の建物から出てくると、ザクリーム侯爵家の馬車が停まっていた。そして中から侯爵夫妻が降りてきた。

 

「迎えに来たよ」

 

 レオナルドが言った。

 

「忙しいから私に一人で行けと言ったのは旦那様でしょう? どうしてここにいらっしゃるのですか?」

 

 ノアが皮肉を込めてこう言った。

 王太子も宰相もスチュワート公爵も、そして自分も忙しくて立ち会えないから、王妃やカートン伯爵と共に最後の断罪の場面を見届けてくれ……

 今朝になって突然ノアにそう命じたのはレオナルドではないかと。

 

 二日前、国王に状況説明をする為に王太子や宰相が離宮に向かう際、国王に最後の決断をさせる為に一緒に行って欲しいと、ノアは彼ら全員から頼まれた。

 国王になんか会いたくは無かったが、

 

『現実を見て自分の思いを昇華させろ!でなければ、いつまでも過去を引きずってしまう』

 

 そうレオナルドに言われたのだ。

 

「君は(こだわ)りが強過ぎる。拘りを持っていなければ生きて来られなかったのだろう。それは理解出来る。

 しかし、拘りが強過ぎると生きづらくなる。一度その拘りを全て取払って、まっさらな心で君には人や物事を見て欲しい。

 僕は君にもっと楽に生きて行って欲しい……」

 

 ノアは思わず笑ってしまった。楽に生きろだと? 一人で何十人分の重い責務を背負っているのは君の方だろうと……

 

 そして国王に会った後、ノアはレオナルドが自分に何を教えたかったのかを悟った。それは国王が自分達をどう思っていたのかという事だった。

 彼は『真実の愛』などいうおためごかしの大きな間違いをした。しかしそれでも母との間には曲がりなりにも愛があり、自分の誕生を本当に望んでいた・・・

 

 そして今日は、自分の手で憎い相手に思い切り復讐をしてやれと言われたのだ。

 本当は二度と国王なんかに会うつもりのなかったノアだったが、これからたとえ裁判が開かれても、大衆の中で自分の心情を吐露する訳にもいかないだろうからと。

 ただし、この国は一応法治国家だからあくまでも合法的に、手を出さず、心理的に攻撃してくれ!と無茶振りをされた。その結果が先ほどの結末だった。

 

 しかしあの女に罵倒され、首元に汚れた女の手が触れそうになった瞬間に、ノアは思わず攻撃態勢をとろうとして焦った。危険に対して無意識で体が反応するように彼は訓練されていたからである。


「お疲れ様でした、ノア。

 ねぇ、これから三人で、久しぶりに王都の図書館へ行って、その後で昔は入れなかったカフェで、コーヒーなるものを飲んでみない? それとケーキ! 生クリームたっぷりの甘いやつ……」

  

 ミラージュジュがニコニコしながら言った。

 子供の頃、お金の無かった彼らは図書館の帰りに商店街のカフェを眺めながら、いつかコーヒーというものを飲んで、甘いケーキを食べよう!と話をしていたのだ。

 

 そう言えばミラージュジュはいつもとは違い、清楚でかわいいミモレ丈のワンピース姿だった。

 

「それ、いいですね!行きましょう」

 

 ノアがそう答えると、その前に着替えてからな、とレオナルドが言った。そう。ノアは侍女姿のままだったのだ。

 

「着替えなら二人分馬車の中に用意してあるから、それを着てね」

 

 ミラージュジュの言葉に二人は頭を傾げた。何故二人分なんだと。すると、彼女は呆れた顔で言った。

 

「私のこの格好を見てよ。ノアだけじゃなくレオ様も釣り合わないでしょう? ザ・お貴族の服を着ていたら」

 

 レオ様・・・初めて妻から愛称呼びされたレオナルドはパアッと顔を綻ばせた。

 

 しかしその数分後、二人は、自分達が今頃になって幼馴染みからプチ復讐をされる事になったのを悟った。

 馬車の中に用意されていたのはカツラと、女性用の街着だった。ただしさすがにミモレ丈や膝下丈では無理だろうという配慮からか、それは丈が足のくるぶしまであるマキシワンピースだったが・・・

 

 後は裁判です!


 読んで下さってありがとうございました!

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