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第八十五章 王妃の矜持

 この章も少し長めです。

 過去回想が多いです!


 国王と側妃とヴェオリア公爵の話が、胸くそ悪い(下品でスミマセン)かも知れません。



 王妃はこの時母国へ帰っても良かった。両親や兄達はきっと受け入れてくれるだろうと思った。

 

 だが娘達はどうする? 生まれたばかりの第二王女はともかく、第一王女を溺愛してる国王は彼女を絶対に手放さないだろう。

 王妃には娘を置いて出て行く選択肢は無かった。あの考え無しの国王とあのしたたかな女の元に娘を残したら、娘は無事に成長出来ないだろう。

 

 それに、この国の為に何かしたいと思って嫁いできたのだ。それなのにこのまま何も出来ずに帰ったのでは、王妃としての矜持が許さない。そう彼女は思った。

 このままただ泣き寝入りをする気なんて王妃にはさらさらなかった。

 

 王妃は国王にこう言った。

 

「陛下。現在ヴェオリア公爵閣下が宰相の地位におられますが、これは前宰相様が急死なさった為の臨時の措置でございますよね? 

 公爵家が宰相の地位をこのまま就いでいたのでは、いずれ王家の力が削がれる事になるでしょう。

 前国王陛下は次の宰相は陛下の幼馴染みでご親友であるマークス=タイラー侯爵様とお決めになっておりましたよね。

 そろそろ、よい潮時かと存じますが、いかかでしょうか?

 すべき時に代替えしませんと、いつまで経っても実行出来ません。貴方が理想とする国造りには若いお力が必要だとは思われませんか?」

 

「確かにマークスは優秀だよ。しかし、まだヴェオリア公爵には及ばない。

 公爵はまだまだお若いし、頼りになる人物だ。私には彼の力が必要だ」

 

「ただ助言を必要とされるならば、別に公爵様が宰相でなくても構わないのではないですか? それに私では頼りにはなりませんか?」

 

「いや、そういうわけでは・・・」

 

 口籠った国王に王妃は静かにこう言った。

 

「私を必要とされないのでしたら、私がこの国に嫁いで来た意味はございません。離縁させて頂きます。

 その際、私に一切のご相談無しに側妃を迎えられたのは契約違反ですので、間違いなく陛下が有責の離縁となります。それなりの慰謝料を頂きます。もちろん娘も連れて帰ります」

 

 国王は慌てた。国王は側妃に入れあげてはいたが、王妃を嫌っていたわけではなく、彼女にも情は持っていた。

 それに第一姫を溺愛していた国王は、娘から母親を取り上げるつもりも、自分が娘と離れる事も考えられなかった。

 その上彼女は非常に優秀で、国内の社交だけでなく、外交でも彼女がいなくてはやって行けない。

 彼女を追い出し、その原因になった側妃のシシリアなどをもし連れて行ったら、諸国からどう見られるか火を見るよりも明らかだった。

 

 しかし、十年前に結んだ婚約の契約書には確かにこう書かれてあったのだ。


・・・側室と愛妾は事情に納得出来る理由が認められる場合に限り容認する。ただし側妃は認めない。もし側妃を持つ場合は結婚を解消し、定められた慰謝料を支払うこと・・・

 

 国王はそれを思い出して真っ青になった。そして王妃に言われるままヴェオリア公爵を宰相の地位から降ろし、新たにマークス=タイラー侯爵を宰相に任命したのだった。

 

 この時、ヴェオリア公爵家の家督の方も当主交代が出来ていれば、もしかしたら、こうやって彼らが後ろ手に縛られる事は無かったかも知れない……

 いや、やはり絞首台に乗らずに済んだたけで、やはり犯罪者になっていたかも知れないが……結局は神のみぞ知る!である。

 

 それはともかく、宰相の座を降ろされたヴェオリア公爵の怒りは凄まじいものだった。

 国王と側妃の間に王子が生まれたら、自分は王太子の外祖父である宰相として、この国の政権を握ってやろうと思っていたからだ。

 

 とは言え、側室ならともかく側妃を迎えたら離婚の際に多額の慰謝料を支払わされ、その上国際問題になってしまうとは彼も思ってもみなかった。

 この契約を結んだ時は、ヴェオリア公爵はまだ宰相になっていなかったので、それを知り得る立場ではなかったのだ。

 

「何故国王はそれを最初に言わなかったのだ。こちらは別に側室でも構わなかったのに」

 

 彼は一人臍を噛んだのだった。

 

 公爵は初めての挫折に怒りを覚えながらもそれを腹にしまい込んで王妃と接した。

 公爵としても外交問題を起こすつもりはさらさらなかったし、娘が王妃になれる器だとは思っていなかったのだ。

 だから優秀なこの王妃殿下を、利用出来るだけ利用してやろうと思ったのだった。

 

 ところが、ヴェオリア公爵の娘のシシリアは、父親が思っているよりも頭の悪い女だった。自分や他人の能力を見抜く力が全くなかった。

 シシリアは王妃をその座から引きずり下ろして、自分がその後釜に就こうとした。

 


 その当時王妃は、突然側妃になったシシリアについてほとんど何も知らなかった。話をした事もなかったし、噂を聞いた事もなかったので。

 それでも勘とでも言うのだろうか、ずる賢いとか性悪とかいうレベルではない恐ろしさを彼女に感じていた。

 

 そう、人が目の前でのたうち回って亡くなっても平気でいられそうな、そんな冷酷さのようなものを……

 そしてそれは正しかった。王妃は何度も毒を飲まされたり、怪しい匂いを嗅がされたりした。

 

 ただし王妃は王族の生まれだったので、毒の耐性を持っていたし、解毒剤も常備していたので大事には至らずに済んだ。北の隣国は医学がこの国より遥かに進んでいたのである。

 

 国王は王妃暗殺未遂が起きる度に怒りを露わにし、直属の近衛第一騎士団に犯人探しを命じたのだが、見つかる筈がない。

 第一の騎士の約半分は最初から犯人を見つける気など無かったのだから。

 

 ただし第一騎士団長自身は立派な人物であったので、ヴェオリア公爵派ではない騎士と共に調査をし、知り得た情報は第二や第三騎士団長、そして宰相らと共有した。

 そして、王妃と姫殿下の包囲網を作って彼女達を守ってくれるようになった。

 

 こうして何度も王妃暗殺が失敗に終わると、さすがに側妃も王妃や王女を狙うのを諦めた。

 それに、王妃は国王と仕事以外のプライベートでは一定の距離をとるようになっていたので、シシリアは国王に一番寵愛されている妻は自分だと満足したらしい。

 その上生まれてきた子供は国王に瓜二つの元気な男の子だったので、王妃に勝ったと彼女はまさしく有頂天になった。

 

 ところが王子が三歳になった頃、


「ローバートが私の後継者になるかどうかはまだわからないが、きちんと王族になる教育を施さなければならない。故に王妃にその教育を任せる事にする」


 シシリアは国王からこう言い渡された。いくら公爵家の生まれだとしても、彼女では王族のための教育など息子にはしてやれない。それは絶対的権力を手にしつつある父親も同じだった。

 

 側妃は歯ぎしりをして悔しがった。とは言え、別に息子を取り上げられたわけではなかったので、一旦落ち着いた。

 ところがである。幸か不幸か、ローバート王子は大変優秀な子供だった。実の母親と育ての義母のどちらに懐いたかは想像に難くないだろう。

 ただ甘やかすだけの母親と、厳しく接しながらも本当に自分の為に考えてくれている母親……どちらが本当の愛情なのかを。

 

 皮肉な事に側妃が産んだ第一王子と第三王女は、共に実母ではなくて義母の王妃に懐き、二人の姉王女とも仲睦まじかった。

 そして王妃が産んだ第二王子だけが甘やかしてくれる側妃に懐くという捻じれが生じた。

 王妃は第二王子を当然自分の手元に取り戻したかったが、国王が子供達は家族皆で育てれば良いではないかと、それを取り合わなかった。

 

 国王は側妃の本質、思惑に気付かなかった。そしてその結果がこの有様だ。

 

 国王は王妃の言う事を全く聞かずにヴェオリア公爵や側妃の言いなりだった。その為、結婚前に子を堕ろして子の出来なくなった事を知らずに、側妃の弟の娘を王太子妃にした。

 そしてその王太子妃は、たとえ子が出来なくても他にするべき事はあっただろうに、彼女は王太子妃の役目をほとんど何もしなかった。

 その上初恋の相手と密会を繰り返したその挙げ句、今回の騒動である。夫の留守中に宿直当番だった妻子持ちの男と、夫婦の寝室で情を交わしているところを大勢の目に晒した。前代未聞のスキャンダルだ。

 

 そして第二王子は不出来な問題児となり、王妃の息子でありながら、とても国王の跡継ぎにはなれないと誰からも分かる人間になり、王太子の地位を兄に奪われた。

 

 王妃自身はローバートの能力や人格を買っていたので、それに異存はなかったのだが、王妃の実家である北の隣国は烈火の如く怒りを露わにした。

 自国の王女を散々蔑ろにした挙げ句、王女の生んだ王子を後継者にしないとは!と……

 

 国王はこれに慌てて、第二王子に子が出来れば、その子が男女どちらだったとしても王位継承権を与えると約束し、隣国と契約書を交わしたのだった。

 

 しかしこれも後々の火種となった。第二王子はヴェオリア公爵家に操られ、妻と恋人だった男爵令嬢を振り回し、命の危険に晒した。いや、実際にラナキュラス嬢は亡くなっているのだから。

 

 第二王子がザクリーム侯爵を巻き込んで愛人隠しをしていると知った時、国王はショックに打ち震えた。

 そして『王家の影』から真実を聞き出し、ようやく自分の過ちを悟った。しかし、それは全て後の祭りだった。

 

 彼に今出来る事は王位継承権を持つ事になった大切な孫と、その母親である第二王子妃を守る事だと王妃に諭され、彼は頷く事しか出来なかった。

 

 そして国王は近衛第一騎士団の団長にこう命じたのだ。

 

「突然の話だが、明日王妃と第二王子妃、そして大切な孫と共に離宮に向かう。君達にも同行を頼みたい。

 しかし、我々の身の安全と秘密保持のため、ヴェオリア公爵家一派及び、信頼のおけないと思う者は全員秘密裏に地下牢獄へ収監しろ!」

 

 と・・・・・

 

 つまりこれが、今回の改革の狼煙を上げる三週間ほど前に秘密裏に行われた捕縛劇だった。

 教会関係者の貴族と、王太子妃と浮気相手の公爵、ヴェオリア公爵家側の騎士や使用人達、彼らが地下牢獄に連れて来られた時には、既に近衛第一騎士団の半数近くの騎士達がそこに収監されていたのだ。

 余計な言葉を漏らさないように薬を飲まされ、厳しく監視されながら・・・・・

 

 今頃になって宰相の名前か判明しました。マークス=タイラー侯爵です!


 読んで下さってありがとうございました!

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