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第五十三章 トムことトーマスの回顧

 しばらく第三者の視線で国王陛下の事が語られていきますが、イタイ、イタイ……です。


 トムによると、今から三年前にレオナルドが宰相閣下へ手紙を送るまで、教会及び孤児院が人身売買をしている事実を王妃殿下は全く気付かなかったという。

 まさか母国の公安組織がこの国から売られた者達を人道的に買い取って保護してくれていたとは思いもせず、酷く恥じ入ったという。

 隣国は王妃殿下が意見を言えない立場だという現状を理解していたので、あえて伝えなかったらしい。

 

 

 第一王子が王太子に選ばれて以降、王妃殿下と宰相は王太子の側近になり得る人物を探していた。

 この国を改革してくれる能力があり、しかもヴェオリア公爵一派からも異論が出ない人材を……

 

 ところが、王太子の同年代には残念ながらそんな人物はいなかった。

 唯一いたとすればそれは、保守派でありながら親達とは一線を引いているザクリーム侯爵家のスージーとカレン姉妹だったが、彼女達を側に置こうとするならば、どちらかとの結婚を前提にしなければならなかった。

 

 しかし、ザクリーム家が王家と縁を結ぶとは到底考えられなかった。

 そこで目が行ったのは才色兼備のあの姉妹の弟レオナルドだった。

 とは言え、彼の能力を測ろうにも『王家の影』を使えるのは国王だけで、しかもその影は侯爵だけを見ている。

 そこで王妃は直属の部下のうちで、もっとも信頼しているトムことトーマス=カートンにレオナルドの事を調べさせた。

 

 すると、レオナルドは彼らの想像以上に優秀だった。

 強固な保守派である両親の圧力を受けながらも、しっかりと己のアイデンティティを守り、かつ将来に向かって既に行動を起こしていた。

 

 トーマスから報告を受けた王妃と宰相は、彼を将来の宰相の後継者として育てたいと思った。

 しかし、如何せん彼はまだ幼いので、それまでのつなぎになる人物がいないかと探した。

 そしてようやく見つけ出したのが、ベネディクトの兄チャールズ=カイン=ローマンシェードだった。

 

 彼は大変優秀な青年だった。頭脳明晰で性格も良く、周りからの人望も厚かった。

 王妃と宰相は彼にいずれは王太子の側近として国のために働いて欲しいと思って指導をしていった。

 

 ところがチャールズは純粋過ぎた。財政的に恵まれ、良い家庭環境で育った彼は、苦労をした事がなかった。

 人間の奥深くにある悪意や醜悪さを知らなかった。

 先を急ぎ、待つ事や耐え忍ぶ事を知らなかった。

 年長者の意見に耳を傾けず、新しい思想だけに敬意を払った。

 

 その結果、彼はヴェオリア公爵に嵌められ、政治思想犯として捕まり、裁判で有罪となってしまった。

 

 王妃が政治思想犯などの家族を国外へ逃亡させる決断をしたのは、この事件がきっかけだった。

 そもそも政治思想犯などというものは、時の政権の指導者が逆らう者を陥れるために認定したに過ぎない。

 

 そんな冤罪で捕まった者の家族まで、謂れのない不利益を被るのはおかしいし、それによってせっかくの人材を失うなんて言語道断だ。

 そこで王妃は、事実無根の犯罪者の身内の引き受けを母国に依頼した。

 その際に王妃と隣国の近衛部隊との橋渡し役として、交渉や調整を行なったのがトーマスだったのだ。

 

 ベネディクトがトーマスによって隣国へ逃亡したのは兄の事件が起きてから二年後の事だった。

 そしてその半年前にレオナルドによって、近衛部隊と公安部が別々にこの国の民を保護していた事実が判明していたので、二つの組織は互いに協力し合うようになっていた。

 それ故に公安部の方に保護されていたノア達が先輩として、ベネディクト達の生活支援をしていたのだ。

 

 レオナルドの功績を聞いて、その場にいた者達は改めて自分達の主に対して敬意の念を抱いた。

 特にミラージュジュは心酔するように夫を見つめて、頬を紅潮させていた。

 

 トーマスは話を続けた。

 

「王妃殿下も宰相閣下も侯爵様の手腕に驚き、大変感謝されていました。

 ですから王妃殿下は、アダムズ殿下と前侯爵様の契約の事をお知りになった時には、息子が申し訳ない事をしてしまったとそれはそれは心を痛めておられました。

 現侯爵様には婚約者がおられて、その方を熱愛されている事もご存知でしたから。

 

 そもそも例の婚約破棄騒動でアダムズ殿下に下された処分については、軽過ぎだと前々から懸念を抱かれていたのです。

 アダムズ殿下があれくらいの罰で、本当に心を入れ替える事が出来るとはとても思えないと……

 

 しかしその事が、お子様達を溺愛し、甘やかし気味の陛下の逆鱗に触れてしまい、王妃殿下は遠ざけられ、重要な国の情報が入らなくなってしまったのです。

 私も王妃殿下一派とみなされ、周りから敬遠されて動きにくくなりました。

 

 ですからアダムズ殿下の契約の事がわかったのは、前ザクリーム侯爵がお倒れになって現侯爵様がご帰国されてからです。

 

 まずはマリア王子妃殿下が最初にアダムズ殿下のご様子の変化に気が付かれ、それをお父上であるスチュアート公爵様にご相談なされました。

 そしてすぐに公爵様がお調べになってその真実が明るみになったのです。その元凶がヴェオリア公爵だという事も。

 

 公爵様はそれはそれは腹を立てられました。一度ならず二度までもマリア様を裏切ったのですから。

 しかし、それらを王妃殿下だけにお話し、陛下にはお伝えにはなりませんでした」

 

「陛下が感情的になって余計な行動を起こさないようにでしょうね。

 スチュアート公爵は本当に感情の抑制がとれる立派な御仁で頭が下がります。

 本当は腸が煮えくり返るような思いだったのでしょうに……」

 

「全くです。私なら、二度も娘を傷付けた男など、容赦しないですがね。

 国のため、改革の為に堪えられたのですね」

 

 主に続いてパークスも眉間に皺を寄せながら言った。

 すると、ミラージュジュがトーマスにこう尋ねた。

 

「それでは、どうやって陛下はアダムズ殿下の事をお知りになったのでしょうか?」

 

「スチュアート公爵様と王妃殿下は陛下には何もお話しにはなりませんでした。

 話をしても無駄だという事を前回の事でご存知だったからです。

 

 ですからその後お二人は、全てにおいて陛下をスルーされました。

 そして、マリア様の護衛に全力を注がれました。

 それはヴェオリア公爵の目的がわかっていたからです。

 

 あの男の事だから、王位継承権を持つお子様をマリア様に産ませないようにするだろうと。

 もっとも既にマリア様は懐妊されていましたしたが。

 王妃様も今回の事ではさすがに堪忍袋の緒が切れたご様子でした。

 

『自分の事ならいくらでも我慢が出来る。

 しかし、マリアやザクリーム侯爵の事に対しての行いは絶対に容認出来ないし、許せない。

 アダムズもヴェオリア公爵も、そして陛下も……』

 

 今まで泰然自若として感情を一切お出しにならなかった王妃殿下でしたが、今回の一連の陛下の有り様には、それまで溜め込んできた怒りがこみ上げてきて許せないと思われたそうです。

 陛下は何故こまめに『王家の影』から情報を受け取り、それを国政のために活用されなかったのかと」 

 

 トーマスの話にみんなはため息を漏らした。

 正妃殿下はベネディクトの言う通り立派な方だった。記憶を失くしているレオナルドでさえ、王妃殿下ではないと思うと言っていたくらいだし。

 恐らく記憶を失う以前の夫は、王妃殿下のお人柄をある程度は把握していたのだろう、とミラージュジュは思った。

 

「以前はどんなに陛下に冷淡な対応をされて煙たがれても、王妃殿下はご自分が把握した情報を細かに陛下に申し上げていらっしゃいました。

 しかしそのうちにそれは無駄だと悟られて、陛下には一切関わりにならなくなりました。普通に考えればそれは当たり前の事でしょう。

 

 ところが妻の態度が変わったのは男が出来たせいに違いないと、陛下はそう思われたようです。

 そしてそれを確認する為に『王家の影』に妻の行動とスチュアート公爵、そして宰相について、今まで見てきた事を全て報告しろと命じられたようです」

 

「その流れでアダムズ殿下の事をお知りになったのですね?」


「そうです。陛下は息子が自分との約束を破った事にショックを受けられました。

 その上、その息子を操っているのが自分が叔父か兄のように慕っていたヴェオリア公爵だと知って茫然自失したそうです」

 

「「「・・・・・」」」

 

「最初陛下は王妃殿下と、ご自分の幼馴染みで側近だった宰相閣下との仲を疑っていらしたようだよ」

 

 こうレオナルドが言うと、

 

「あのクズ野郎!」

 

 とノアが吐き捨てた。しかしその言葉は、

 

「酷い! 最低だわ」

 

 というミラージュジュの言葉で打ち消された。

 

「今まで陛下のため国のためにと、一番尽くしてくれていた妻と友人を疑うなんて信じられない!」

 

 ミラージュジュは先程とはまた違う意味で怒りを表していた。

 彼女にとって配偶者と友人の存在はもっとも大切で尊いものなのだ。

 

 読んで下さってありがとうございました!

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