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契約神霊と霊術師  作者: 瀬乃そそぎ
第三章 霊獣狩り Sacra_Venatione_Bestiam,
37/43

#27 少女の想い Quae_In_Puellari

少ないです。※あとがきあり。


 ドロイトがそう言い放ち、片手に握った霊獣殺しを薙ごうとした時。

 リアが超至近距離までドロイトと接近したシーナに向かって風の刃――鎌鼬カマイタチを放とうとした時。



 既にシーナは次の行動を開始していた。

 先程の攻撃は確実に止められる。そう確信していた故の、次の一手。演算したのは風属性魔術。基本的にどの属性も難なく使いこなすシーナの、中でも最も得意とする属性が風だ。



 魔術属性の得意不得意は、術者の精神面や願望等と言った心情が関係してくる。例えば、普通の人間ならば確実に無理な所業ではあるが、『空を飛んでみたい』と子供の頃から強く願っていた者は『風属性』を得意とするケースが多い。逆に極端な例ではあるが、『子供の頃火事にあった』と言う経験を持つ者は『炎属性』を不得意とする事がある。



 魔術というのは、簡単に言えば『魔力に願いを込めて扱うもの』なのだ。願いというのは大げさかもしれないが、術式演算の際に、属性があるのならばどんな属性かをイメージし、更に具体的な現象を想像する。それを魔力に込めて術式を構築するのだ。



 彼女は子供の頃――七年前、村が魔物に襲われた時に強く願った。

 父と母を連れて、ずっと速く遠くに逃げたい、と。

 ある意味ではあの出来事はトラウマに近い所があった。それでも彼女は、そう言った負の感情すらも押し返すほどに家族との日々を願った。


 そしてその想いが、彼女の術式演算を、魔術に対する技術面を支えている。


「――シッ!」



 術式を構築しながらも、カチリと音を鳴らした霊獣殺しの刀身の腹を蹴った。上に跳ね上がる刀を確認したシーナは、演算していた術式を解き放つ。

 轟! と。

 凄まじい狂飆きょうひょうが巻き起こった。彼女の左の掌を展開点とした黒い風が、至近距離でドロイトに向かって殺到した。



 流石の彼もその目を見開いて驚いていた。術式の展開を感じとった時にはもう、その魔術の威力が凄まじいと察し、防御障壁を築く程に。

 鋒の鋭い槍の様に、刺突の属性を持った狂飆は、しかし強力な防御性能を持った障壁に防がれてドロイトを後方に吹き飛ばすだけに終わった。間近にいたリアも同じように物凄い勢いで吹き飛んでいる。



「ふィー、今の術は流石だなあ。魔力量から術式の威力は並程度かと思っていたが、普通に強力なのも使えるんじゃねえか。術式演算の精度、だな」



 確かにシーナの術式威力は一等級の魔術師の中で見れば並みかもしれないが、この世界に生きるすべての魔術師の中では高位である。元々一等級魔術師と言うのは沢山いるわけではない。そんな中で彼女は、魔力量に大きく頼ることをせず、術式演算の精密さを極めてその領域にまでやってきた。もし彼女に北條壱騎程の霊力(魔力)があったとしたら、神の子とも呼ばれる『神徒』の術でさえ上回るかもしれない。



「やっぱりダメ、か。そう簡単に攻撃は通らないよね。霊獣殺し……だっけ? その刀はきっと霊獣やその契約者が持つ霊力に反応するようだから、遠距離攻撃はまずほぼ通用しない」


「ほォ、そこまで思い至ったか」


「だったら魔力のみを扱った魔術で攻撃すればいいワケだけど、元々霊力の方が多いあたしなら、術式演算の精度で補える威力もたかが知れている。ならやっぱり――接近戦しかないって事か」


 シーナは言いながら舌打ちする。



(そうは言うけど、ドロイトに攻撃を通すためには奴の反射神経をも上回るスピードで術を行使しなければいけない。いくら接近できたとしても、奴が何重にも防御障壁を展開しておく、なんて荒業が出来る様ならば確実に防がれるし、リアって言う精霊もいる……)



 実力は元々、更には手数さえ相手に負けている状況。

 ハッキリ言って、これは勝算の薄い負け試合の様なものだった。

 


(魔力〈霊力〉が元々少ないあたしは、奴と持久戦に入ったら確実に負ける。勝てる気がしない。とは言えこのまま通用しない術を展開し続けてもジリ貧……)


 こうなってしまえば、奴がちょっとした隙を作るタイミングを探し、そこを的確に、しかし全力で突くしかない。

 彼女は元より、この戦いを安易に勝てるものだとは考えていなかった。

 更に言えば、"勝てる"と言う可能性すら薄いモノだと考えていた。


『奇跡が起こればドロイトを殺すことができるかもしれない』


 これ以上の犠牲を出さずに済むかもしれない。

 北條壱騎やイヴに迷惑を掛ける事なく終わらせる事が出来るかもしれない。

 可能性は薄い。

 それでも彼女は戦う道を選んだ。


(巻き込まないって決めたんだ。あの二人に迷惑は掛けない――ッ!)


 ドロイトがこの街に来ている事を知ったあの時から。

 何故か彼女は、彼がこの街に来た事を自分のせいだと勘違いしていた。

 明らかに、どう考えても北條壱騎と言う黒い少年と、神霊の中で第四位に君臨するイヴの方が、ドロイトに勝ち得る可能性は高かったというのに。


 でもそれはきっと、彼女のちっぽけな勇気と正義感。

 そして、先日北條壱騎の口から聞いた『イヴにメリアン、シーナにも出会えたしね』と言うあの言葉。その言葉が嬉しくて、自分と会えて良かったと言ってくれた、不思議な黒い少年の日々を守ってあげたくて。

 彼女は一人で戦う事を選んだ。


 ――自分が死んでしまえば、自分と会えて良かったと言ってくれた、不思議で、強くて、そして愛おしい黒い少年の日々を壊してしまうと言う事に気がつかずに。

シーナの心情をうまく書けている自信があまりないので、何か思う点があったらご報告ください。

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