#24 シーナ=レイラン Sina_Reiran
出来たら今日また更新したいです。
「え……シーナ……?」
そんな言葉が口から溢れた。目を覚ましたら突然友達が自分に跨っていた事への驚きの所為か、それとも桃色の髪の少女――シーナ=レイランの姿があまりにも綺麗で艶めかしかったからか、その言葉は若干震えていた。
どうしてシーナがここに?
どうやって入った?
僕は確か自分の家の自分の部屋で寝ていたはずだ。
チラリと視線を横に向ける。北條の瞳には半開きになった窓が映っていた。その窓の先には、雲一つ無い夜空に輝く月や星も見える。
(あの窓から入ってきたのか……?)
そんな事を少しづつ醒めてきた脳で考えた。
全く理解できない。どうしてシーナがこんな所にいるのかも、もう少し明るかったら透けて見えてしまう程薄いキャミソール姿の理由も。
完璧に冴えていない思考回路が渋滞する。
「イツキ君」
窓から吹く涼しい風が、現状を理解するにつれて熱くなっていく身体を冷やす。
シーナの名を呼ぶ声が耳に届いた直後、下手すれば唇が触れ合ってしまうんではないかと思うくらいの距離まで彼女の顔が北條の顔に接近した。
「な、んで……シーナがここに、いるんだ?」
震える声で問う。
僅か一センチメートル程の場所にあるシーナの顔は、微笑んでいるのにも関わらず、何処か哀しみを感じられた。
北條の言葉を受け取ったシーナは、その右手を肩の紐まで持っていき、それをゆっくりと下ろした。動けないでいる北條の目の前で、薄い白色のキャミソールを完全に脱ぎ終える。
「どう、して……」
彼女が脱衣行為を始めたのは目に止まっていた。それでも北條は、彼女の顔から目を離す事が出来なかった。
どうして――
「どうしてそんな、顔してるんだよ……」
「お願い」
北條の質問には答えず、シーナが言った。その声は北條と同様に少し震えていた。
「今から、あたしを抱いて」
「え……?」
現状を理解できない。
今シーナは何て言ったのか、それは鮮明に聞こえていたはずなのに、頭はその言葉の意味を把握しようと働く事の出来ないくらい混乱していた。
ショッピングモールの帰り道からシーナの様子がおかしくなった事は気が付いていた。
そして今の様子も、明らかにおかしい。
抱く……と言うのはつまり、そういう事なのだろう。
でもどうして?
なぜ急にシーナは北條の家まで押しかけ、窓から侵入するような真似までしてこんな事をしているのだ?
どうして、このタイミングなのか?
別に北條は、自分が誰かに好かれているだなんて微塵も思っていない。そのため、タイミングという言葉は多少の語弊を感じられるかもしれないが、それでも考えずにはいられなかった。
北條とシーナはまだ出会って日が浅い。なにせ等級検査の際に初めて顔を合わせたのだ。実に一ヶ月ちょっとしか経過していない。
もし仮にシーナが北條に好意を抱いていたとしても、いくらなんでも早すぎる。
それ以前に、二人は付き合っているわけでも何でもない。こう言った行為に及ぶような関係ではないはずなのだ。
となると。
何かがあったに違いないのだ。
「お願い。今日、この場所で、これから。あたしの事を抱いてください」
シーナの手が、北條が身に纏っていたシャツに伸びていき、それをゆっくりと捲り上げる。もう片方の手は北條の下半身へと。
そして、彼女の白い手が北條の履く短パンのウエストに触れたところで、彼はその手を掴んだ。
「………………ダメだよ」
シーナの目を見て北條は呟く。
ピクリと震えた彼女の手は、北條の短パンに触れたままその動きを止めた。もう片方の手も同様に、シャツを捲り上げるのをやめている。
どうしてこんな事をするのかは分からない。
どうしてこんなタイミングなのかは分からない。
どうしてそんな哀しそうな顔をしているのかは分からない。
それでも。
「ダメだよ、シーナ。君がそんな顔をしている間は、僕は何も出来無い。教えてよ。今日の帰り道で何があったのかを。君は明らかに、帰り道のあの時、突然様子を変えたよ。何があったんだ?」
「……そっか、ダメか」
やはり北條の質問には答えてくれないシーナは、彼から手を離してベッドから降りた。キャミソールを着直し、床に落ちていたコートを羽織る。そして窓の側まで歩み寄ると、半開きだったソレを完全に開く。
「ゴメンねイツキ君。夜中に押しかけたりして。迷惑だったよね」
「い、や……それは……ッ」
「もう帰るから。じゃあね、また明日」
こちら側を見ないでそう言ったシーナは窓からその身を乗り出し、跳んでいった。
何も答えてくれなかった。
何も聞けなかった。
北條はただ、シーナが跳んでいった窓の外を見つめたまま、朝まで眠れずに起きていた。
次の日。
シーナは欠席した。
安い展開で申し訳ない。
さて、シーナに何があったのか。
霊獣狩り編も終盤に突入していきます!




