第百十四話 京都旅行⑦
(責任・・・・・・か)
何かを成そうとするなら必ず付き纏うものだ。
(取れますと断言するべきだろうけど・・・・・・)
脳裏にちらつくのは春野のことだった。
(春野が自殺をした時、僕は相手が満足いく責任を取れるとは断言できない)
罰を受け入れることも、償いも自分の命が尽きるまでする覚悟はある。
しかし、失われた命は戻ってこない。
被害者にとっては永遠に消えない傷だ。
完全に償いきれるなんてできないと、現実は非常なことを僕は知っている。
(交渉において、曖昧な答えは悪手だ)
何かを成し得た主人公のような人物なら断言できただろう。
責任を取ることができると。
(だけど、僕はそんな人物ではない)
なんでも叶えてしまうほどの能力なんてない。
誰かを安心させるほどの力はない。
僕はいつだって綱渡りだった。
(僕ができることは泥臭く粘ることだけ)
それが僕の出来ることだ。
「勝家様が完全に納得いくような責任を取れるほどの実力は、私にはありません」
必ず守り切れると言い張る実力は僕にはない。
「私は責任を取り切ることはできません。私が誓えることは、最後の最後まで責任を負い続けることです」
僕は正直に話した。諦めないこと、逃げないことそれだけが僕が誓えることだ。
愚策かもしれない。けれど、これは僕だけの問題ではない。
この場で最高は全員が納得行くことだ。
僕はただ待つ。
「・・・・・・まさか、このような返しをまた聞くことになるとはな」
どこか考え深そうな声が聞こえてくる。
一体何を思っているのか分からないが、僕には待つことしかできない。
「分かった。孫の件は君たちに任せることにしよう」
「ありがとうございます」
どうなるか分からなかったが、今回も綱渡りはなんとか成功した。
「それでは細かい打ち合わせをしたいのだがいいかな?」
「はい」
そうして、僕は勝家さんと今後の予定などについて話し合った。
「それでは孫をよろしく頼む」
「はい、こちらこそ提案をお聞きいただきありがとうございます」
今後のことを決めた僕は、春野たちの方に向かう。
(思いのほか、長くなってしまった。これは昼ごはんは無しかな)
最優先はクリス君達だ。
一回ぐらいご飯を抜いても問題はない。
そうして春野たちのところに向かうとそこにはご飯を食べることなくクリス君の相手をしている春野の姿があった。
「随分と遅かったわね」
「あはは・・・・・・ごめん。先に食べても良かったのに」
僕がそう言うと、春野はため息をする。
「一緒に食べた方が美味しいことぐらい、クリスでも分かっていることですよ」
「うん!一緒に食べよ」
「・・・・・・うん。そうだね」
今まで見てきた春野からでは決して出てこない言葉が出てきたことに驚きながらも春野が作ってくれたサンドイッチを3人で食べる。
「それでこれから何をすることになったの」
春野はこちらを見ることなく、クリス君に聞こえない程度の声で聞いてくる。
「京都の観光名所をいくつかクリス君と回りながら藤田旅館まで送り届けることになった。相談なくこんなことになってごめん。」
全てが終わったとに春野に相談していないことに気がついた僕は謝罪する。
あの空間を壊したくないと相談もなしで、進めてしまったことは僕の失態だった。
どんな状況であっても相談して進めるべきだった。
「別に謝る必要はないわ。私は椿君の自由にしてほしいといったのよ」
「それもそうだね」
春野の淡々とした言葉から、この旅はその言葉から始まったのだと思い出し苦笑いする。
(春野なりの気遣いかな)
本来ならば気遣うべきなのに、逆に気遣われてしまった。
(二つ以上のことを同時にできるようにしたいな)
自分の至らないところを感じることが多く、改めて自分の力のなさを痛感する。
「そう言ってくれてありがとう」
僕の言葉に春野は何も反応することはなかった。
(いつものといった感じがするな)
僕は春野が作ってくれたサンドイッチを手にする。
「・・・・・・こうなることぐらい分かっていたから」
春野が小さく口にした言葉を聞き取ることなく、僕はサンドイッチをいただくのであった。
ここまでご愛読していただきありがとうございます。
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今後とも椿君達の応援、よろしくお願いします。
なお、このあとがきはキリがいい所か、最新話しか書かない予定です。
よって、最新話のあとがきが無くなったらそろそろ投稿されるんだなと思ってください。
また『』の内容は毎回変える予定なので、常に追ってくれている人は些細な楽しみとして頂けると嬉しいです。
また、登場人物一覧を七十八話のあとがきにまとめておきました。簡易的なものなので、分からないところがあれば連絡よろしくお願いします。




