第九十一章:姉妹
「――――っ!!!!」
咄嗟に身体が反応した。
何が起きたのかなんて分からない。
なのに条件反射だけで身体は動いて、皮一枚のタイミングで床に転がって鉈を躱す。
――何かの破片が頬を掠めた。
元居た場所では木製のロッキングチェアがバラバラに砕け散って、ゴトリと床に転がっている。
「亜……、希……?
なん……で…………」
それだけを言うのがやっとだった。
――彼女は、何をしている?
――彼女は、何をしている?
――死んでいた。
あんなの、当たっていたら死んでいたじゃないか――。
「…………っ!!!!」
僕の問に答えるように、彼女は無言で鉈を振り回す。
僕は転がるように床を滑ってそれを躱して、咄嗟に片膝を使って身体を起こして、警備室の入り口で身構えた。
「……、“何で”?
分からない?
アンタ、本当に分からないの!!??」
ヒステリックな声で亜希は叫ぶ。
反論する気も、怒鳴り返す気も起きなかった。
だって僕を見据える彼女の瞳は、一目で分かるくらい深い悲しみの色を湛えて、止めどなく溢れる涙で真っ赤になっていたのだから――。
――、なんだ?
――彼女は、なんでこんな顔をしている?
「アンタは……」
やがて、彼女は口を開いて――。
「アンタは、お姉ちゃんを……!!」
――僕を殺すに足る、その理由を口にした。




