表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Criminal  作者: Dr.Cut
81/114

第八十一章:決別

どこをどう走ったのかも分からない。

僕に分かったのは、いくつ目かの扉を閉めたその時に、誰かに床に座らされたというその事実だけだった。



「……─……─?

───…………!!!!」


「──…………─」



――遠い声。



遠くで誰かが話している――。



「……─……?」



おかしいな。

会話は内容も分からないくらい遠くから聞こえてるっていうのに、どうやらその誰かは、身体だけは僕に触れるくらい近くに居るらしい。

右腕の袖を乱暴に捲られて、そこにナニかを縛られる。


座ったのが良かったのかもしれない。

止まりそうな肺を無理矢理動かして酸素を捩じ込むと、ゆっくりと視界に色が戻って来てくれた。



「……、亜希?」


朦朧としていた意識が、ほんの少しだけマシになった時。

最初に僕の目に入ったのは、正面から僕を覗き込んでいる彼女の顔だった。


――ああ、やっぱりコイツ、顔だけはけっこう可愛いんだな。

だから、そんな表情をしてるなよ。

そんな怒っているのか悲しんでいるのかも分からない顔で目に涙を溜めてたら、せっかくの美人が台無しじゃないか。


「……バカ。

アンタ、本当にバカ!! 何であんな事するのよ!!

……何で。何でアンタなの!?」


亜希は爆発させるように感情をぶつけて、頬に涙を伝わらせていた。

目だけは僕の方を見ているが、その瞳には何故か僕が映っていないようにも見える。


「……ゴメン、自分でも無茶だったとは思ってるよ。

確かに、もっと考えて行動するべきだった」


熱病に侵されたような頭で、建前半分に返答する。

だって、確かに直情的な行動は良くなかったけれど、おかげで彼女は怪我をせずに済んだのだ。

その点に関してのみ、僕は後悔してはいない。

……と、いうか。そう思わなきゃバカみたいだ。



「…………」



亜希は何も答えなかった。

彼女は目を伏せて僕を見ようとせずに、ただただ固く拳を握っている。

細い肩は、何故か怯えるように震えているようにも見えた。



「……ねえ、相原」



そして、重い声で言った。

まるで何かを問い正すかのような、普段から脳天気な彼女には、到底似つかわしくもない――、



「アンタ――」


「オイ、もう駄目だ!!

ヤツが次の扉の前まで来てやがる!!」


その時、亜希の声を遮るように船橋が警鐘を鳴らした。

きっと見張りにでも行ってくれていたのだろう。

通路の扉を蹴破って、彼は僕の方に駆け寄ってくる。


「相原、動けるか!?

動けるならさっさと下行くぞ!!」


どうやら、ここは地下一階の踊り場だったらしい。

八畳程度の広さの空間には、四方の壁にそれぞれ一つずつ扉がある。

入ってきた扉を閉めた船橋は、そのまま地下二階へ続く階段の扉へと手を掛けた。


「……うん、なんとか動けそうだよ。

いつまで大丈夫かは分からないけど――」


言いながらなんとなく傷口に手をやると、右腕に簡単な応急処置がされている事に気が付いた。

白い布が包帯のようにキツく巻かれて、毒がこれ以上体内に回らないようにしてある。

なんとなく二人の姿を交互に見ると、亜希の上着の一部が切り取られている事に気が付いた。


「亜希、治療してくれたの?」


「……うん、まあ」


感情が伺えない声で、彼女が答える。

どうやら、亜希は自分のシャツの下半分を使ったみたいだ。

丈が半分になったシャツのお腹からはヘソが見えてしまっている。

それは良いとしても、縛り方自体は僕の目から見てもよく出来ていて、普段の彼女の印象からすると少し意外に感じた。


「……、ありがとう」


心から、僕は礼を言った。

意識が朦朧としていたからよく分からないが、きっとさっき僕に肩を貸してくれたのも彼女だったのだろう。

肩の辺りに少し血が付いているから一目で分かる。


「……て」


対して、亜希は小声で何かを言った。

何故か複雑そうな表情で目を伏せて――、



「――やめて、お礼なんて言わないでよ。

何で、何でアンタはそんななの!?」


「…………?」



――、なんだ?

彼女の言動は、さっきからどうにも違和感がある気がする。

そう。まるで、何か強い感情を押し殺しているような――。



「……、ゴメン、なんでもない。

そろそろアレが来るみたいだし、さっさと行かない?」



一度だけ拳を握りしめて、亜希は抑揚の無い声で、決意するようにそう言う。

――違和感が消えない。

もう身体は大分楽になっている筈なのに、僕の耳に届く彼女の声は、もう手が届かないくらいに遠い物に感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ