第七十五章:追跡
そして、映像は現在の光景と一致する。
目の前で起きた惨劇が信じられずに、僕たちは皆一様に言葉を失っていた。
「何だよ……。
何なんだよ!! アレは!?」
初めにその沈黙を破ったのは船橋だった。
その声色は酷く動転していて、僕たちの気持ちを代表しているようですらある。
「……分からないよ。
あんなおぞましいモノ、誰が何の為に造ったのか――」
言いながらも、僕の頭は間抜けにも結論を弾き出してしまっていた。
この施設で造られていたからには、おそらくは動物兵器の一種なのだろう。
単体でも相応の脅威には見えるが、腹いっぱいに詰め込まれたあの仔蜘蛛を見る限り、細菌兵器の媒体として使う意図もあったのかもしれない。
――自発的に人間を襲い、腹を破けば病原菌を持った仔蜘蛛がウジャウジャと溢れ出てくる散布媒体。
仮定にしても、恐ろしい性能だ。
「!? な、なあ、ちょっと待てよ!!
コレって、過去の映像なんだよな!?
じゃああの化け物は、今どこにいるってんだ!?」
船橋のその一言を聞いた瞬間。
僕は、全身の血が凍り付いたような錯覚を覚えた
「マズい――!!」
僕はナニをしていたのか。呆けている時間なんかどこにある――。
失った時間に心の中で毒づき、僕は慌てて二十個のモニターで施設の中を確認する。
――地下三階。
僕が悪寒を覚えたあの扉の前に、巨大な虫食い穴を発見した。
アレはここから出てきたみたいだ。
――地下二階。
氷室が空っぽになってしまったあの部屋以外には、殆ど穴の空いた扉が見当たらない。
どうやら、アレは生贄の居ないところには興味が無いみたいだ。
――地下一階の階段前。
六桁の暗証番号が必要だったあの扉には、大きな穴が空いてしまっている。
つまり、アレが今居る階は――、
そこまで考えた時だった。
背後から、キチキチキチキチ……というイヤな音が鳴り響いた――。




