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第五十六章:混乱
――視界が真っ白になった。
「……、バカな」
グチャグチャになった頭をフル回転させて、この資料を説明し得る仮説を練り上げる。
……、…………。
そう、例えばの話だ。
氷室椿樹は、人体実験をやっていた研究者だという。
彼を捕まえた犯人は、優秀な研究者である彼に、自らの研究の手伝いをするように取引きを持ちかけた。
「――違うっ!!
船橋は学者どころか暴走族じゃないか!!
二階堂は殺人犯だし、僕と亜希は学生だっ!!!!」
――なんだ?
――どういう事だ?
どうして彼らの名前が、僕の名前がここにある?
記憶が無い間、僕たちはナニをさせられていた?
「…………」
あってはならない。
こんな資料は、こんな事実は、絶対にこの世に存在してはならない。
「……、奈菜」
知らず、彼女の名前を呟いていた。
僕の唯一の拠り所で、こんな状況でも、僕が僕を信じられるただ一つの根拠。
混乱した頭のまま、僕は彼女の事を思い出していた――。
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