第四十五章:船橋剛
「船橋 剛。
むかし暴走族の頭やってたんだけどよ、数年前にパクられてそれっきりだ。
……まあ、色々悪い事はしてきたけどよ。
強いて思い当たるって言えば、元旦に少年院襲った事くらいか?」
「元旦に、少年院?
……ちょっと待った。
まさかと思うけど、“初日の出暴走襲撃事件”の事じゃないよね?」
「へ? ウソ!?
あれやったのアンタだったの!?」
船橋が語り出した素性に、僕と亜希は目を見開いた。
――初日の出暴走襲撃事件といえば、まだ記憶に新しい大きな事件だ。
今から数年前の出来事である。
元旦の初日の出暴走といえば、毎年恒例の(悪しき)日本の風物詩となってしまっているが、あの年の暴走だけは少しだけ様子が違っていた。
例年なら富士山麓を目指す筈のバイク集団の一部が、何故か突然進路を変えて、高速道路に隣接する少年院を襲い始めたのだ。
死傷者が何十人も出たとかで、一時は随分と騒がれたような気がしたが――。
って、ソレを“大したことが無い”と仰いますか!? この男は!?
「……ふん。誰かと思えば、よりにもよってアレをやったバカであったか。
聞けば少年法が適用されて、死刑や無期懲役だけは免れたという話だったが……。
……全く、何が命を大切にしろだ。自分の顔を見てから言え」
「あ゛!? テメェに言われる筋合いはねぇんだよ!!
大体、俺は何一つ間違った事した覚えはねぇ!!」
睨み合って、再び険悪な空気を作り出す犯罪者二人。
彼らが語った素性に、僕は落胆を隠す事が出来なかった。
――なるほど。
自己紹介を提案したのは、もしかしたら、僕たちの間には何か重大な共通点でもあるかもしれないと思ったからなのだが……。
研究者に暴走族か。
うん、何の関係も無いな。
あるはずがない。
「あのさ。
刑務所に入れられるのは、普通に考えたら何か間違った事をしたからだと思うんだけど……」
落胆してしまったせいで、つい軽口が漏れる。
――と、
「俺は俺の筋を通しただけだ!! 文句あるか……って、ん?
おい、相原だっけか?
つーか、テメェこそ何やったんだよ?」
あ、しまった。
「あれ? そういえばまだ聞いてなかったっけ……。
ほらほら、さっさと吐いちゃいなさい。何やらかしたの?」
亜希も獲物を見つけたネコのような目で、僕の脇腹あたりを肘でウリウリしながら聞いてくる。
……こいつ、学校では間違いなくいじめっ子だ。
「ふむ、私も何度か聞いたのだがな。
クックックッ……。まさかとは思うが、この期に及んで隠しはすまいな?」
氷室も眼鏡を上げながら、にやけ顔で僕を観察している。
当たり前だ。
だってこの男は、ずっとソレを聞き出す機会を伺っていたのだから。
「ああ、僕かい?
僕は――」
まあ、アレだ。仕方ない。
なんか、もう三秒後の展開が予測出来たような気がするけど。
ここは、黙って成り行きに従う事にしよう……。




