表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Criminal  作者: Dr.Cut
110/114

第一一〇章:傷跡

「…………」


顔が洗い終わった。

バカみたいに真っ白なフェイスタオルを使って、顔面の皮膚に付着した水滴を拭い取る。

――リフレッシュはしたが、気分は最悪。

そんな自分の感情を誤魔化すように。僕は髭の剃り残しが無いかを確認する為、目の前に聳える鏡の中を覗き込んだ。



「――――!!!!」



そして、呼吸が止まった。



窓から差し込む朝日に照らされた、少し薄暗い洗面室の光景。

鏡の中に広がる、その景色の中に。



――悪魔が、居たのだ。



目の下に大きな隈を作り、死人のように蒼白な顔をしたナニか。

――酷い顔だ。

暗く沈んだ色を湛えた瞳の中は、毎日イヤという程見ている悪魔たちと、全く同じで虚ろだった。



――“何が違う”、と。

鏡の中のソイツは、聞こえない声で、でもハッキリと僕を問い詰めてくる。



――“お前と、アイツらと、何が違う”と。



「……ち、違う!!

だって、アイツらは悪魔じゃないか!!

そうだ、そうだよ!! 僕は正しい事をしているんだ!! 僕が正義なんだ!!

だって、僕は――、僕は悪魔は殺しても、アイツらみたいに人を殺した事は一度も無いじゃないか!!!!」



必死になって、支離滅裂に、鏡の中の悪魔に反駁する。



――、でも。



アイツらは、見れば見るほど。

あまりにも、●●らしくって――。




「……めろ」




――もしも、あいつらが●●だとしたら、



僕が――、



僕が、今まで、してきた事は――、




「やめろッ!!!!」




――気が付くと、僕は目の前の鏡を粉々に叩き割っていた。

耳触りな音と共に、脳を突き刺すジクジクとした痛み。

色が変わるくらい握り締めた左拳には、破片が深々と突き刺さっていて、ポタポタと赤い血液を滴らせ続けている。



……、なんだ。



「……はは。な、なんだ。

やっぱり僕は人間じゃないか。

だって、こんなに――。

こんなに、赤い血が流れるんだ……」



ガラス片が食い込んだ左拳は、酷く痛い。

目眩がするほど痛いのに、それを眺めていると、胸の奥から妙な安心感が込み上げてきた。



――ああ、そうだ。



僕は人間だ。



「……しまったな」



そこで、ハタと冷静になった。

よく考えてみると、これは少々マズイ失態だ。

だって地下に監禁されている筈の僕が、一人だけこんな傷を負ってしまうのはおかしい。

……さて、どうやって誤魔化したものかな。


「……、仕方ない。

面倒だけど、また何人か日雇いで寄越してもらうかな」


もちろん、毎週のように物資の搬入に使っている“彼ら”のことである。

正体は、この会社の他の部署の人間。

正式な研究員のような専門知識は無いものの、情報漏洩の心配も無く色々な雑用をさせられるので、割りと重宝した。

ま、連中にとっても良いお小遣い稼ぎくらいにはなるだろうしね。


――さて、そうなると後は簡単だ。

連中に犯罪者どもを眠らさせて、全員の左手に僕と同じような傷を付けてもらえばいい。

あとは臨時で適当な検査を行ったとでも言っておけば、みんなこの傷は検査でついた物だとでも思って納得するだろう。



「……まったく、面倒な仕事を増やしちゃったな」



軽口を叩いてから腕にタオルを巻いて。

僕は、地上に出てきた本来の目的たる、会社への提示報告へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ