第一〇〇章:日常
“あの人”が亡くなったあと、僕と奈菜は二人で暮らす事になった。
実際には、僕たちを引き取りたいって申し出る知り合いも居ないではなかったのだけれど。
今さら他人と暮らすのも窮屈だったし、何より彼女が良い顔をしなかった。
……、まあそこはそこ。
普段から猫かぶりをしてた甲斐があったということだろう。
親族の皆様方は、僕なら保護者なんか居なくても大丈夫だろうって見事に口を揃えていたし、どうしても困った時には手を貸してくれるっていう事で合意してくれた。
思えば、この頃が一番幸せな時期だったかもな。
二人だけで生活するのは、家事とか色々と大変な事もあったけれど、普段から“あの人”のご機嫌取りで家事手伝いをしていた僕にとっては、多少量が増えたところで大して苦になるような事でも無い。
生活費は、いちおう親戚の蓄えがあったとはいえ十分じゃなかったし、わざわざ学校に許可を取ってバイトする羽目になったりもしたのだが……まあそれも、今では良い思い出になったという事にしておこう。
忙しい日々だったけれど、人並みに友人は居た。
短い期間だったけれど、クラスの女の子と付き合った事もあった。
――そして、何より。
気兼ねする相手が居なくなってから、奈菜の笑顔が自然になった。
――そう。
日々の思い出を語って、本当に幸せそうに――。
彼女の笑顔を見るのが、僕の一番の幸せだったから。
この笑顔を守る為なら、僕は何だってするって誓ったんだ――。




