14-04 野営地に現れた人ならざる者との出会い(挿絵あり
以前エルフィンシルに向かった使者がいた。
その人の情報によるとこの先に綺麗な泉があるそうだ。
完全に日が暮れる前にこの泉という目印にたどり着き、そこで飲料水を確保するのが当初の予定だった。
「おうっ、あっちにちっさい川が見えたぜっ」
「おおよくやってくれたおっさん。おっさんの浮遊能力はこういうとき便利だな」
「うむ、ただのビビリで騒がしくて小汚いオヤジではなかったというわけだなっ、誉めてつかわすぞ!」
ブロンゾが小川を見つけてくれた。
小川があるということは、それをたどれば目当ての泉にたどり着けるということだ。
「ラジールてめぇ! 小汚いオヤジってなんだよこらぁっ、おいらはこれでも砦の鍛冶場じゃ、渋めのおじさまで通ってんだよっ、ヘソ曲げて仕事放棄すんぞこらぁーっ!」
「どっちも口悪りぃなぁおい……。それにもう人様の国なんだから、もうちょっと静かにしとこうぜお前ら……」
森の中ということもあってもうかなり暗い、携行してきたカンテラに明かりを灯し、俺たちは道を間違えないよう慎重に道を歩き続けた。
ラジールとブロンゾがやかましいのは仕方がない。どちらも注意したところで人の話を聞く大人ではなかった。
やがて俺たちは目当ての泉と開けた平地にたどり着いた。
山道から直接確認出来ない場所がふさわしい。
よって奥の水辺付近をキャンプ地点に決めて、俺たちは夜明かしの準備を始めた。
もはや遠い西日すら届かなくなっている。世界はランプと月明かり頼りの暗闇の世界だ。
「やっぱアウサルの旦那の力はすげぇな。そんじゃあ行ってくるわ、余計なお世話かもしれねぇがラジール、あまり俺から離れないでくれよ」
「ハッハッハッ、このラジール、暗闇の中でもア・ジールの灯火アウサールの元に戻って来て見せようっ!」
「あっこらっ、待てよラジールっ! はぐれたらまずいって言ってんだろ俺ぁっ!」
「ワーッハッハッハッ、ついて来れるならついて来いっアレスッ!」
「趣旨完全に違ってんぞこのアバズレッ! あと俺はダレスだっ!」
……とにかくやつらはたきぎを集めに森へと戻った。
役割分担というやつだ。ならばアウサルは野営地の設営、ならぬ建造に入ることにした。
ちなみに火は魔除け、獣避け、虫避けに必要不可欠だそうだ。
ブロンゾはただ邪魔でやかましいだけなので俺の手元に置いていかれた。
「ったくやかましいクソ女だぜっ! いなくなるとせいせいすんなっアウサルよぉっ!」
「それはラジールに直接言ってくれ、陰口には同意しにくい」
せっせと足下を掘り進めて土という建材を確保する。
この辺りは泉なのもあって、適度な湿り気を帯びた粘土が都合よくも確保出来た。
「ハッ、つまんねぇ男だぜ! アウサル、で、おいらは何をすりゃいい!」
「見張りを頼む。ユランではなく異なる神を崇める勢力だ、相手がどう出るかわからん」
それを使って土壁を仕上げていった。
壁で四方を丸く取り囲み、3人+1亡霊にちょうどいい広さの家を作り出す。
その場しのぎだが夜間の気温をどうにか出来るだけのものが出来上がった。
あとは屋根を作れば完成だ。
「ヒェッ?! で、ででででででっ出たっ出たっ、また出たァァァァーッッ!!」
「ブロンゾ? 今度は何が出た、まさか例の透ける女か?」
上着を脱ぎ捨てて、身体の汗を拭っているとブロンゾがまたもや悲鳴を上げていた。
何度目だ、半ばうんざりしながらも問いかける。
「ち、近っ、近いっ! マジでまた現れたっ、おいアウサルっ、俺を背負って今すぐ逃げろやーっっ!! ひぇぇぇぇーっっ?!!」
「やかましい……。ダレスの言葉をなぞるようでなんだが、第三者からみればアンタこそハンマーに宿った九十九神だ……。そのお化けが今さらお化けごときに怯えてどうする……」
「だからおいらぁ怪物なんかじゃねぇ!! ただのハンマーにされたかわいそうな鍛冶師だっつってんだろかバカ野郎ッ! と、とにかく逃げようっ、逃げようぜアウサル!!」
どうも家の外に例の透ける女が来ているそうだ。
時刻は日没、森に囲まれた湖に、女の亡霊。冷静に受け止めてみればこれはちょっとした怪談話だ。だが、亡霊のペースに飲まれるなどごめんこうむる。
「ブロンゾ、なぜ俺たちが逃げる必要がある。現地人ならば妙な報告をされる前に話を通しておくべきだろう」
「だからつくづくテメェは人の話聞かねぇ野郎だなァッ、透けてるっつってんだろがッッ!! ここのえるふどもはっ、みんな透けてるえるふさんってことかぁーっ?! ぎゃっ、こ、こここっち来んぞぉ?!!」
よくわからんがしかし面白そうだ。
俺は屋根無しの丸家から低い出入り口をくぐって外へと出た。
「ブロンゾ。実はそれ、亡霊であるアンタにしか見えないやつだったりしてな」
「止めろやそういうのっ!! いいからてめぇっ、アレをっ、アレを見やがれ穴掘りバカ野郎ッ!!」
さあ亡霊と亡霊とモグラの三者面談だ。
・
ところが本当に透けた女を見つけるはめになった。
そして一目で理解することになった。
どうしてかってそれは単純な話だ、女は泉の水上に立ってこちらを見つめていたのだ。
確かにブロンゾが亡霊と呼ぶだけのことはあった。
キラキラと輝く薄緑の髪に、巫女を連想させる薄手の衣、きらびやかな装身具を身につけている。
その彼女をもっとよく見ようと、俺はスコップを背負って水際に立った。
「……なるほど、不思議なこともあるものだな。だが残念だったな、この程度のものなど見慣れている。全てを喰らう巨大アリに、悪意を持つ呪いの大釜……それらのインパクトには遠く及ばない」
その美しい女と目が合った。
敵意はないように見える。ただただ感情の読めない無表情でこちらをうかがっていた。
「悪いが便宜上アンタを亡霊と呼ばせてもらおう。亡霊よ、俺はアウサル、気高き反逆者ユランの使徒。で、本題だ。なぜアンタは俺たちをつけ回す、理由の説明を願おうか」
「おおおめぇっ、お化けに理屈なんて通じるわけねぇだろ逃げようぜとり殺されるぅぅーっっ!!」
ブロンゾは無視だ。
すると女が湖水に波紋を作りながらこちらへ歩いてきた。
やはり敵意は無し。だが笑ってもいない、静かに俺ばかりを見つめていた。
それから亡霊は何かを喋った。
「…………」
「……なんだ?」
ところがその声がまるで聞こえない。
口は動いているのに何を喋っているのか、音そのものが発生していなかった。
そこで彼女は何を思ったのか、実体化していたブロンゾに気づいてヤツの目の前に移動した。
「…………」
「つ、通訳しろだぁぁーっっ?!! ばっ、バカ言っちゃいけねぇよっ、だ、誰がお化けなんかと仲良くおしゃべりなんぞしなきゃならねぇッ!!」
何かを話し始めたが、俺にだけ彼女の言葉が聞こえない。
やがてブロンゾの狼狽が急に落ち着くことになった。
「…………」
「え……? 俺はお化けじゃない……? は、はるもにゃーさん? あ、え、へるもにゃー? ……使いを送るってどういうことだよ、つまり……ああっ!? お化けの軍勢がここに来るってことかよぉっ?!!」
かと思えばまた焦りだす。
はるもにゃー? へるもにゃー? 何だそれはまるで話がわからん。
使いということはここに人をよこすということだろうか……又聞き過ぎてやはりわからん……。
「落ち着けブロンゾ、彼女がエルフィンシルの人間かどうか聞いてみてくれ」
「…………」
俺がブロンゾに言葉を投げかけると、美しき亡霊が薄笑いを浮かべた。
その唇がただちに動きだし、ブロンゾに通訳を要求したようだ。
「彼女は何と言っている」
「あ、ああ……。違う、俺はえるふぃんしるの人間にあらず。俺は、えるふぃんしるに、繋ぎ、打ち込まれた? きょ、巨塔の管理者……はるもにゃー、なり。だそうだ」
最後の部分で彼女が渋い顔をした。
どうやら、はるもにゃー、という発音に不満を呈しているようだ。
「……そうか。では、はるもにゃーよ、あなた方の使いをここで待とう。俺たちは正式な使者だ、ニル・フレイニア王国および、反逆の地下帝国ア・ジールからのな」




