14-01 エルフィンシルへの旅立ち、もとい一時放逐
前章のあらすじ
アウサル、獣人の国ダ・カーハより帰国する。
翌日、切り札のマテリアル補充のため彼は呪われた地、白き死の荒野へと戻り発掘作業を始めた。
そこで彼は不思議な卵を掘り当てる。
呪われた地の毒を危ぶみ、急いでア・ジールへと戻ってユランに卵を見せたところ、それを孵化させることになった。
3日後、卵より天使が生まれる。
天使は人々に愛され、またたく間に成長していった。天使の名はティルフィン。
それから5日間で7歳相応までフィンが育つ。
女は胸が大きい。男は股間に袋がある。
アウサルがフィンの質問にうかつな回答をしてしまったとき、アウサル、ダレス、鍛冶ハンマーのブロンゾによる封印の国エルフィンシルへの遠征が始まるのだった。
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遠征:封印の国エルフィンシルとまつろわぬ調停者
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14-01 エルフィンシルへの旅立ち、もとい一時放逐
予定を早めた遠征に、よもや自分たちが加わることになろうとはダレスもブロンゾも思ってもいなかったようだ。
当然どちらも最初は困惑した。フィンを見守りたい気持ちも彼らなりにあったので少しだけ揉めた。
だがそこはルイゼと、フェンリエッダの威圧により彼らは逆らいがたい状況に追い込まれ、結局首を縦に振るはめになった。好き好んで巻き込まれたくはなかったのであくまでこれは伝聞の話だ。
一方、出立の準備の方はあっという間に整った。
そこはほぼグフェンの手並みによるものだ。
グフェンは子供に甘い。あの人は子に対する庇護心が度を超して厚いのだ。
その彼が、俺たちという悪影響が天使フィンに及ばないようにするというこの計画に、そもそも反対するわけがなかった。
むしろフェンリエッダとルイゼの意見に強く賛同して、年輩者らしいそつ無き手腕を最大限にして大げさに発揮してくれたというわけだ……。
まあそういうわけだ。それはありがたいような、迷惑なような、申し訳ないような、少し恨みたい気もする不思議な旅立ちとなった。
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「しかしよぉ、俺をあっちに連れてって、ホントにいいのかよ? 俺ぁ憎きヒューマンだぜ、フレイニアのエルフからすりゃぶっちゃけ戦争犯罪人だ。さらにはそっちのおっさんは亡霊とくるじゃねぇか、何だよこの編成はよぉ」
「おいそこのヒゲ野郎! おらぁ亡霊じゃねぇってつってんだろが! そいとてめぇだっておっさんじゃねぇかよ、よぉ~く鏡見ろやっ!」
ダレスは王族、品性はちゃんとある。
だがブロンゾはやはりフィンから遠ざけるべきだろう、口調があまりに荒過ぎる。
旅立ちを前にして俺たちは白の地下隧道前にやって来ていた。
「ああっ?! 俺ぁおっさんじゃねぇ! 俺ぁまだ30前半だぜ!」
「さ、30だぁ~? カカカッ、サバ読むなら5つまでにしとけや! おめぇ十分おっさんだろがよぉーっ!」
ダレスとブロンゾはやはり気質が合うらしい。
出発前の朝方からとんでもないやかましさだった。
「アウサルさん。ダレス様のことなのですが……どうかよろしくお願いいたします。ええまあ……ダレス様はこの通りの老け面です。それもあって一見頼もしいように見えるのですが……何と申しますか、まあ、つめの甘いところがあるのですよ。軍の指揮能力は私も認めますが、けして旅慣れているわけではありませんので、その点をどうか気にかけてやって下さい。……あ、これダレス様の換えのパンツです」
いやおっさんのパンツをいきなり渡されても困るのだが……。
まさか俺にはきかえさせろと? ああ、ジョッシュなりのきつめの皮肉かこれは……?
「ジョッシュゥゥーッ!! お前よーっ、俺に恨みでもあんのかよっ、かーちゃんみたいなことすんなって言ってんだろがよぉっ!!」
「おやダレス様、1人でパンツをはけるようになられたんですね、フフフッ……」
陰険で陰湿な元部下もいたものだ。
ダレスのパンツには本人の名前が刺繍されていた。顔を真っ赤にしてヒゲづらの男がそれを俺からひったくる。
色々と妙なものを見てしまった……。
「騒々しいやつらだ……皆聞け。エルフィンシルは別名、封印の国と呼ばれている。そこは我が輩などではなく調停の神ハルモニアを崇めているのだ。敵ではないが、今のところ味方になるとも決まっておらん、気をつけて行け」
ユランの話はもう事前に聞いている。
気をつけろと言われたところでどうにかなるとも思えんが。
「いってらっしゃいませアウサル様。お戻りになる頃にはフィンも常識らしい常識を身につけているはずです。それまではどうか、お元気で!」
「パパー、どこいくのー?」
フィンはルイゼに手を繋がれていた。
賢明なところだろう、ついて来られたら大変どころではないからな。
「白いエルフがたくさんいる国だ。同族が隣にいるのに好き好んで山奥にこもっている、変わり者どものところだよ。フィン、必ず戻るからそれまでお前はルイゼを頼む」
「おおっ、わかったー! フィンがルイゼママを守るよ!」
「お土産買ってきてやるからよっ、待っててくんなっフィンちゃん、カカカカッ!」
「わーい、おみやげだー、かかかかかーっ♪」
いかん……やはりルイゼの判断は正解だった。
この男の人柄だけは見習わせたくない、下手すればラジールみたいな女豪傑を1人増やすことにもなりかねん。
「ブロンゾ殿! フィンに変な笑い方を覚えさせないでいただこう! ……ダメだぞフィン、あのおじさんは男、フィンは女の子だ。見習うならルイゼにしておけ」
「ぁぁ~~……ああ、何となく理解したわ俺。だから俺に、ブロンゾのおっさんに、アウサルの旦那で遠征ってわけだ……。何でお前はそこから除外されてんだよジョッシュゥゥ……」
そういうことだとダレスの体格の良い肩を軽く叩いた。
それから2人してブロンゾに目を向ける。ダレスも納得した。
女の子の人格形成において、ブロンゾはかなりまずい隣人であるのだと。
「かぁぁ~っ、カカァどもは厳しいねぇ~! わーったわーったわっ、フィンちゃーんっ、美人になって待っててくれよーっ♪ 大きくなったらおいたんの嫁さんになってくよな~っ♪」
「うんっ、いいよ~♪ フィン、ブロたんのお嫁さんになってあげる~♪」
異界の言葉にこんなものがある。
オペレション・オブ・ヒカル=ゲンジ。幼い頃からやさしく言いくるめていけばそこに理想の若嫁が……とかいう理解しがたい概念だ。ブロンゾ、それは俺が許さんぞ。
「なに言ってるんですか師匠!! フィンが変な勘違い起こしたらどうするんですかーっ!!」
「このロリコン金物め!! 溶鉱炉に投げ込んでスクラップにしてやってもいいんだからな!!」
「アウサルくん! 早くこのおじさん連れって下さい! うち、冗談でも言って良いことと悪いことがあると思います!」
だが俺が口を開くよりも先にルイゼにエッダ、温厚なパフェ姫までもがブロンゾの放言に文句を付けるのだった。
了解した、さっさと旅立とう。俺たちの愛するフィンのために。
「では行ってくる。ダレス、悪いがブロンゾのハンマーはアンタに任せたい。俺はこっちの作業もあるからな」
「あいよアウサルの旦那。おらいくぞおっさん、ったく……フィンちゃんを嫁に欲しくないやつなんているわけねぇってのに……おめぇっていうオヤジはよぉ……」
話を打ち切って俺たちは出発した。
「愛してるぜぇーっ、フィンちゃーんっ!」
「えへへー♪ ブロたん、帰ってきたら、フィンが結婚してやるぞぉー」
「帰って来なくても別にいいですからね師匠ッ! アウサル様お早く!」
「お気をつけて、ダレス様」
「アウサルくんっ、あっちに着いたらうちのバロルにもよろしくね!」
ブロンゾの本体はハンマーだ。
駆け足で俺たち白の地下隧道に入っていくと、ブロンゾもまた地を滑りながら愛しのフィンちゃんとの見苦しいお別れを果たすことになるのだった。




