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10-03 グフェン帰国、魔改造マテリアルスコップ

 軽く昨日のことを補足しよう。

 グフェンの館こと政務所はアベルハムが留守番を任されていた。

 前線に立ちたがっていたが何かと無難な人材なのが災いして面倒ごとを押し付けられてしまったようだ。


「まさかグフェン様が直々に援軍に向かうなんて……。おかげでこっちは大忙しですよ……俺なんかには身に余る役回りです……」


 それと商館。これも名ばかりの少し広い民家だ。

 この先取引が活発化してゆくとなると、ちゃんとしたものを建てないと締まらない。


「何度も言うが買い叩かれてはたまらない。小出しにして売ってくれ」

「ええもちろんです。ま、金銀宝石はレートがだいたい決まっていますから、交易路も出来ましたし早い結果を期待してくれて良いですよ」


 機械の塊はブロンゾの元に。


「おめぇな! 何でもかんでも溶かして混ぜりゃ良いと思ってんだろおいっ?! ……だけどよ、こりゃなかなか気になる材質じゃねぇか、おうどうにかしてやらぁ! だけんど抽出した金属が使えるかどうかの保証はっ、ねぇぜ!」


 残りの本は全て俺の私室に運び込ませた。

 まあ当然だ、俺は半分これが目当てで今回の発掘をしたのだから。

 これからのことも考えて、この先は専門外の書物も読んでみることに決めていた。


 やはり異界の本は素晴らしい。

 特に気になっていた冒険物語の続編が手に入ったのが大きい。

 ああ、前巻をしっかり読んで予習してから手を付けないとな……読み崩すのが怖いくらいだ……。


 とまあ以上、補足は終わりだ。



 ・



 翌日グフェンがア・ジールに帰ってきた。

 昼頃まで本を読みふけっていると使いが来たのだ。スコップを持って政務所まで来てくれと。


「あ、アウサル様も呼ばれたんですね」

「ルイゼ、お前もか」


 グフェンの邸宅に入るとルイゼがいた。

 彼女が呼ばれたということはやはりそういうことらしい。


「来たなアウサル殿。さて早速だがそのスコップをよく見せて欲しい」

「もちろんそれはかまわない」


 ルイゼの白銀のスコップをグフェンに渡す。

 彼は書斎から立ち上がり、青肌と銀髪を持つ巨体をこちらに近付けた。


「うむ……これなら大丈夫だ。さすがは我らの愛するルイゼくんの作というわけだな」


 入念にスコップを確認して、うなづいたかと思えばまたうちの少女を可愛がる。

 年寄りの言葉にルイゼも嬉しそうに恥じらった。


「ダークエルフの宝石加工技術。それをこのスコップに施すんだったな?」

「ああ、そういうことだ。……実はとある技術を我々は持て余してきたのだよ」


 スコップがグフェンの書斎机に置かれる。

 それから彼は引き出しを引き、ゴソゴソと何かを探し始めた。


「その技術を使えば、いわば魔法剣と呼ばれるような状態を道具に付与することが出来る。我らの先祖はそれをさらに発展させて、スロット付きのアタッチメントを生み出した。それを装着することで、様々な効果を武器などに付与する技術だ」


 そのアタッチメントとやらが見つかったのか、ゴトリと不思議なものが書斎のスコップの隣に並べられる。

 中央にひし形の溝が彫り込まれていて、左右にやや細い棒が伸びていた。


「つまり……それを使うとアウサル様のスコップが、魔法のスコップになるってことですかっ!?」

「ああそうだよルイゼくん。……だがこれまでずっと解決の出来ない問題があったのだ」


 グフェンがスコップとそのアタッチメントを左右の手で持ち上げる。


「対象の強度がまるで足りなかったのだ……。魔法剣にしようにも、剣そのものが先に壊れてしまう。運用性とコストを考えると論外だった」

「こ、壊れちゃうんですか……」

「ああ、そこで魔霊銀製のルイゼのスコップに脚光が当たるわけだな」


 1から何かを作ることになるのかと思っていたが、物そのものは既にあるらしい。

 ルイゼが心配そうに、大切なものだから無謀は止めて欲しいと目を向ける。


「これがそのアタッチメント、ラウリルの輪と呼ばれるものだ。スコップにこれを装着するだけで下準備は完璧だ」

「ずいぶんと手軽だな」


 装着先の耐久性さえあればどうにでもなるというなら、もう問題は解決されているように思われる。


「いや実際はそうでもない。ルイゼくん、アウサル殿、ラウリルの輪をこのスコップに付けてもいいね?」

「だ、大丈夫なんですか……?」

「かまわない、やってしまってくれグフェン。ルイゼのスコップは最強だ」


 ルイゼは実際に使っていないから不安なのだろう。

 だが大丈夫だ、ルイゼのスコップはそんな負荷では壊れない。持ち主の俺が言うのだから間違いない。


「アウサル様がそう言うなら……わかりました、や、やっちゃって下さいー!」


 俺たちが応じると、ラウリルの輪がスコップの握り手近くに押し付けられた。

 すると棒状の金属がひとりでに動いてスコップにからみ付き、それだけで装着が完了した。


「出来たよ。さて次の問題はこれに装着する宝石だ、ここにも1つの課題がある。困ったことに負荷がかかるのだ。よって魔力が高く、かつ壊れにくい宝石をここにはめ込まなくてはならない」


 あとは宝石をはめ込むだけらしい。

 しかしスロットの形状は3角形、それもそれなりの大粒をはめ込むことになる。


「どんなに上等なものを使っても消耗品になる。道具か、宝石か、そのどちらかが先に壊れてしまう。それがこの技術の弱点だ。……ダークエルフとライトエルフがまだ近しかった頃は、切り札として使ったものだ」

「ルイゼのスコップなら問題ないだろう。先に宝石が負けると保証する」

「あのあのアウサル様っ、そ、そう言ってもらえるは嬉しいんですけど……ボク、正直自信が……本当に大丈夫なんですかっ?!」


 ルイゼが不安がる。そうなるとグフェンがフォローしないわけがない。

 一見中年風に見える年寄りエルフは、ルイゼの元に歩み寄りその白銀のスコップを手渡した。やさしい笑顔と言葉とともに。


「俺はそこまでの逸品を見たことがない。1000年以上を生きる俺が言うのだ、間違いない、それは伝説級の武器と張り合えるだけの究極のスコップだ」

「そう言われると箔が付くものだな。良かったなルイゼ」

「ふ、複雑過ぎます……」


 それが済むとグフェンがこちらを向く。


「そこでアウサル殿、悪いが呪われた地から特別上等な宝石を発掘してきてくれ。種類はなんだっていい、こちらで鑑定しよう」


 ところがそこで連絡の行き違いに気づいた。

 彼は今日戻ったばかりだ、報告が届いていなくとも仕方ない。彼はここア・ジールの支配者なのだ。


「あ、それなら昨日ここに運んでおきました。ですよねアウサル様っ」

「ああ。グフェンの好みに合うかはわからんが手配はしておいた」


 そこでアベルハムを呼ぶことになった。

 俺が抜擢した彼だが、今回無事に代役をこなし切ったということで上層部での株を上げたらしい。まあどうでもいい話か。


「これは幸先が良い。アウサル殿のその気持ちが俺は嬉しいよ。……アベルハム、アウサル殿からの預かりものがあるであろう、それをこちらに頼む」


 雑用役ではなくすっかりお側付きとなったアベルハム。

 その彼が昨日届けた宝石袋を運んできた。


「グフェン様、ですが約束して下さいよ。これが片付いたらご不在の間滞っていたお仕事を性急に片付けると」

「む……それはわかっている。だが少し畑の様子を見に行きたいところなのだが……」


 グフェン、アンタは嵐が来たときの農家か……。本業をしろ、本業を。


「いいえ後にされて下さい。ただでさえニル・フレイニアとの取り決めが山ほどあるんですから! 今日は寝かせませんからね!」


 さらにはそこにフェンリエッダまで現れた。

 なんだか久しぶりに会った気がするな。


「エッダ、そういった刺激的な言葉はアウサル殿に言うといい」


 おいグフェン、なぜこっちに矛先をずらす、そんなのずるいぞ……。


「……お風呂場に地下トンネルを繋いだ、エッチなアウサルにですか?」

「え……」


 そこでそう来たか、エッダの言葉にルイゼまで奇異の瞳を向けてくる。

 事実だ……事実だが俺のせいではない……。全てラジールが悪い……。


「グフェン、さっさと話を進めてくれ……」

「そうだったな。ではアベルハム、そういうことだからアウサルの宝石をこちらに。うん上等だ、ならばこれよりお見せしよう、ダークエルフの宝石加工……いや、合成術の力を」


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