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8-05 大地全ヲ穿ツ、白腕ノ器 3/3

 泣いても笑っても最後のチャンス、これを逃したら再度地下トンネルに戻り、魔霊銀を調達しなおさなければならない。


「出来ました! どうですかアウサル様っ、これなら……これなら使えますよねっ!」

「おお、良い出来だ、これまでの反省点が十分に発揮されている。しかしこれは……」


 最後の3本目のスコップが出来上がった。

 まだデコボコとした未熟さが残っていたが、いかにもそれらしく形が整えられた良質な仕上がり。

 ただし、これまでの2本と見比べればまるで別物、鈍色ではなく鏡のような白銀色に輝いていた。


「色が……どうなっているのですかブロンゾ殿? 打つ前は他のインゴッドと同じ色合いでしたよ?」

「ふぅぅむ……試作型の炉だからよく混ざってなかったのか、あるいはお前さんのマホーが予定外の作用を呼んだのか……あ~とにかく、合金の割合や条件が重なるとソレになるらしい。……強度も硬度も美しさも、この状態がもっとも優れている。ってぇ俺のお師匠が言ってたぜ、ぁぁっこりゃ超すげぇぜ」


 その白くてデコボコの3度目の正直を握り直す。

 そう言われてみると信頼感がオーラとなって白銀スコップより溢れている……ようにも感じなくもない。


「何を眺めてるアウサル、気になるなら1本ずつ試し掘りしてみればいい」

「おうっそうしろそうしろっ!」

「お、お手柔らかにお願いします……っ!」

「それもそうだ、やってみよう」


 さて1本目からだ。左右が不均等なので少し力をかけにくい。だがしっかりしている。

 これまでの鋳造製と比べれば別物の突き易さがある。


「悪くない」


 どんどん行こう、次は2本目の槍型だ。

 ……さていきなりだが不満がある。

 あまりに長いので、足下を掘るのにまるで向いていない……。かといって他の方角も……。

 やはりこれはスコップではなく、スコップに見せかけた槍なのではないか……?


「ごめんなさい……」

「そんなことはない、戦いの道具として見ればなかなか見所がある。……そうだなアウサル」

「ああ、良い高枝伐りバサミだ。家に据え置こう」


 失敗作だとしても使い道がある。

 申し訳なさそうにするルイゼに小さな微笑みが生まれていた。


「そんじゃ、最後の本命を試してみろや」

「ああ……」


 3つ目の白銀のスコップ。

 デコボコとしたその握り手に暖かみがある。

 その切っ先を地に向けて突き刺した。


「――!」

「あ、あのっ、どうしましたアウサル様っ?!」


 驚きのあまりつい声が漏れてしまい、それがルイゼの不安を誘ってしまっていた。

 だがそうではない、そうではないのだルイゼよ。


「素晴らしい……ぬかるみでもすくっているかのような手応えだ……」

「おおっ、やったではないかルイゼ!」

「は、はいっ! って、うわっ、あっアウサル様ッ?!!」


 申し訳ない。

 ついつい調子に乗ってしまうほどの逸品だったのだ。

 俺は青空に土砂を高く高くまき散らしながら、深き穴底に己が埋まっていることに気づくことになった。


「コイツぁ確かにすげぇっ! ギャハハッ、ところによって泥が降る天気雨ってぇわけだっ、ひゃぁぁ~とんでもねぇぜこりゃぁっ!」

「あ、アウサル様ぁぁぁ……ひ、ひどいです……うぅぅぅ……!」

「アウサル貴様ッ、どうやらそこをお前の墓穴にしたいらしいな! 者ども仕返しだっ、コイツを埋めてしまえっ!」


 一介のスコップ使いとして背筋が震える……。

 何なのだこれは素晴らしい……形こそまだ未熟だが、理想的な強度、優美な光沢……ああ掘ることにまるで手応えを感じさせない!


 家宝のスコップの絶対強度も魅力だったが、ここまでの品が生まれるとは……ルイゼ、俺は間違っていた、お前はもしかしたら天才かもしれない!


「ぶっ、な、なんだっ、なにをするアンタらっ!」


 ところが空から土砂がまた降ってきた。

 今度は土砂降りだ、ああ、土砂なだけにな。

 いやどうも余裕をこいてる場合じゃ……ぐっ、く、口に泥土が、目がっ……ぐ、ぐぁっ?!


「アウサル様……やり過ぎですっ! ふ、服の中まで泥が……濡れた泥が……ぅぅっ……」

「アウサル、次は周りを見てからそれを使え! よし作業止めっ、撤収して本来の開拓に戻るぞっ!」


 命だけは許してやると、首から上を残して土砂の豪雨が止んだ……。

 そんなに怒らなくてもいいではないか。

 ……とは思ったのだが、どうも泥状のものが過分に含まれているようでジメジメと気持ち悪い。


 これを頭からかぶったとなると……まあ女性ならキレて当然といったところか。

 いや、泥ぶっかけられたら誰だって怒る。


「おいルイゼ、引き上げてくれ……」

「え?」


 残されたのがルイゼで良かった。

 やさしい彼女ならもちろん助けてくれ――え?


「済まないが、身動きが取れない……手を貸してくれないか? いや、手を……その、貸して下さいルイゼさん」

「…………」


 返事すら返ってこなかった。

 代わりに彼女が俺の墓穴の上にしゃがみ込んで、ジッとこちらを見下ろす。

 酷いな、せっかくの服が黄土色のドロンコだ。無事な部分は5割と無い。


「怒っているのか……?」

「いいえ。平気です」


 堅くなった言葉が怒りの証明だ……。これはまずい……。


「それに……ふふふ……」

「いや、なぜ笑う……?」


 再度背筋が震えることになった。

 なぜならそこに現れた表情は、俺に薬を塗るときのルイゼのものだったのだから……。

 さらにここでどうでもいい事実を説明する。パンツは青の水玉だ。


「る、ルイゼ……すまなかった。助けてくれ、頼む」

「はい……♪」


 ルイゼは要求に対してただちに立ち上がり、そこを離れたかと思えば……イビツな方のスコップを持ってきた。


「この服お気に入りだったのに……。はぁ……もう埋めます……」

「埋めるなーっ! お、おいっ、おいブロンゾッ、助けてくれっ! いるんだろそこにっ!」

「ああ、いるけどおいらぁただの鍛冶ハンマーだ。どうにもなりゃしねぇなっ」


 ドサリッ、パラパラパラ……。

 地上の土砂が墓穴へと降り注ぐ。


「反省して下さいねアウサル様……アウサル様ってば酷いんですよ……反省、して下さいね……」

「うひゃぁぁ……このお嬢ちゃん、意外にこぇぇぇぇ……」


 まずい、止めろ、それ以上やられると口が埋まる、鼻の中に土が……あああああああ……?!


「悪かった! 次からは気をつけるっ、だからもう止めろこれ以上は窒息するっ!」

「……ふふっ、……気をつけて下さいねアウサル様。ボク、アウサル様の力になれて幸せなんです」


 そこでようやく救助の手が伸びて来た。

 ワラへもすがる気持ちでその手に頼って、どうにかこうにか俺は墓穴から土砂まみれの鍛冶場へと戻ることが出来たのだった……。


「ルイゼ。例の、温水の出る芋洗い場に寄って帰るか……」

「あ、それ名案です、さすがアウサル様です!」


 今日は大事なことを学んだ。

 ……ルイゼを怒らせると怖い。身も凍るほどにだ。

 弓の腕も鍛冶の才能も秘められた性質も、将来末恐ろしい子だ……。



 ・



 ――後日譚。


 その未熟ながらも優美な白銀に輝くスコップは、魔霊銀の鉱床すらも難なく貫いた。

 回収さえ出来れば貴重で有用な鉱物資源と共に、トンネル工事を超円滑化させてくれたのだ。


 ところである日、家に帰るとグフェンが待ち伏せしていた。

 それでルイゼの接待を受けながら大人げなく興奮した様子で言うのだ。


「アウサル殿、そのルイゼくん特製のスコップをずいぶん気に入っているようだな。まあ、我々のかわいいルイゼくんの仕事なのだ、もはや手放せるはずもなかろう。羨ましい心境すら先立つ。愛されて(・・・・)いるな」


 ……半分、いや8割方、ルイゼに対する溺愛めいたものをさらけ出しながら。


「それでもし良ければ今度、その名作にダークエルフの宝石加工技術をさらに加えてみないか? なに手は煩わせない、こちらで全て準備しておこう。安心すると良い、期待は絶対に裏切らない、手はずが整ったらこちらから連絡する、ではな」


 それだけまくし立てると心底楽しそうな顔で帰っていった。

 つまり、異界の言葉を借りるならばそれはこういうことだ。


 ルイゼの白銀のスコップに、いずれグフェンの魔改造(・・・)が加わるそうだ。


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