7-07 奪われたものを取り戻す、赤い竜と共に
そこからさらに移動して目的のポイントにたどり着いた。
例の東を目指した地下トンネルの上部に、今回のために臨時の搬入路を作っておいたのだ。
「ではここでお別れだ、ルイゼは財宝をグフェンの元に届けてくれ」
「あ、アウサル様……やっぱり危ないんじゃ……また捕まっちゃイヤですよボク!」
「大丈夫だ、今回は頼もしい協力者もいる。頼んだぞ」
そこ経由で黄金と伏兵をア・ジールに送った。もちろん搬入路を埋めた上でだ。
後にはアウサルと空になった馬車、そしてセイクリットベルだけが残った。
そこからさらに南東を目指す。
金の代わりに石を馬車に乗せて、荒野に深いわだちを仕込みながらひた走るのだ。
(アウサル、貴殿の活躍をこの目で見られるとは感慨深かったぞ。それでこの先はどうしてくれるというのだ?)
それから御者席に小さな小さな飛竜が飛んできた。
ユランだ、ユランはまだ半分俺の身体に取り付いているので、喋れはしないがおかしな会話術を持っていた。
「侯爵は動かせる兵力全てを俺たちの追撃に回す。それだけ重要なものを盗んでやったのだからな。しかしそこに、そこにニブルヘル砦占領軍からの援軍要請がそのうち届くだろう」
(その頃にはもう遅い、兵員は全て荒野の見当違いな方向に出払っているということか)
迷いの森へのルートは現在、セイクリットベルによって開通させられた状態だ。
しかしこれでやつらは十分な戦力を砦に回せなくなる。まあ、俺がベルを使って迷いの森を再稼働させるまでのちょっとした時間稼ぎだ。
「真っ先に迷いの森に向かっても良かったが、それでは敵援軍を呼び込む結果にもなりかねんしな、こちらの狙いもすぐにバレる、最悪は挟み撃ちだ。……だからこれでいいんだ」
(フ……ただの発掘屋の言葉とは思えぬな。よし、ここからは我が輩が道案内をしよう)
まずは敵軍を南東に誘導する。
ユランが馬車の前方に飛び出て方角を軌道修正してくれた。
しばらく進んでゆくとそこに一頭の馬が岩陰に繋がれていた。
「ここまでしておいて何だが、騎乗はあまり得意じゃないんだがな……」
(いいから行け、計画通り荷馬車は我が輩に任せておけば良い。新たな追っ手がつく前に別行動といくぞ)
そこでユランと別れた。
邪神様だというのに小さなその身なりで、わくわくと気持ちを高ぶらせて馬車を引き続き南東に走らせていったのだ。竜の身体で馬を脅かして。
一方の俺は東を目指す。
迷いの森を再稼働させてしまえば俺たちの策略は大成功だ、あとは援軍の無い砦をじっくり落とすだけで片付く。
わざわざア・ジールを経由するのも面倒なので、俺だけ森経由でニブルヘル砦奪還戦に加わることにしよう。
といっても目的地までそれなりの距離がある、水に乏しい不毛の荒野を慣れぬ馬にまたがりながらしばらくを過ごした。
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(戻ったぞアウサル。また無茶をされてはかなわんからな、この我が輩が貴殿という使徒の元に、急いで戻ってきてやったぞ)
だいぶ経ってユランが戻ってきた。
もうじき迷いの森に行き着く。迎撃や援軍要請に出払ってるのか周辺に敵軍の警備などは見えない。
「早いなユラン。使徒の身分でアンタに使いっぱしりを命じたが、正直感謝しているよ。翼のあるアンタなら陽動の尻拭いに最適だった」
(うむうむ、我が輩は役だっているであろう。あれで今少しの時間稼ぎとなったのだからな。で、念のため聞くが……森を再稼働させた後はどうするつもりだ?)
視界の真横をユランが併走する。
なんだかおかしな光景だ。……それに見破られているようだ。
「ああ。ア・ジール経由では地下まで下ってまた登るはめになる。だがそんなのは面倒だお断りだ疲れる、俺だけ森を抜けてラジールとゼファーの奪還部隊を援護する」
(理屈はわかるが危険があるぞ。お前は森を再稼働させてベルを守ることが1番の役割であろう。無茶をするな)
慎重な邪神様に笑顔を向けておいた。
そんなものは100も承知だ、だが断るという意思表示だ。
「……もちろん状況に合わせて動くさ。またアンタの世話になるのも、あながち悪い気もしないがな」
(貴様……この場でその馬を脅かしてやってもいいのだぞ……?)
待て、そんなことされたら落馬する。
それこそ作戦に支障が出るではないか、ユランめ。
「シャァァァ……ッ」
「わかった、わかったから止めてくれ……。抜けたあとは慎重に本隊と合流するから……止めろ、おい危ないぞっ!」
ユランに主導権を奪われかけながらも行軍を進め、ほどなくして迷いの森にたどり着いた。
まずは森をそのまま抜けてしまい、砦の姿を確認してからチリンとセイクリットベルを鳴らす。
(よし、森の再稼働が確認できた、あとは合流だな。む……?)
ところがたどり着いたは良いものの、そのニブルヘル砦に異変があった。
……よりにもよって勝ちどきが上がっていたのだ。どちら側のものにしたってあまりに早過ぎる。
「まさか……もう片付いたのか……?」
(クククッ……宴に乗り遅れたようだなアウサル。いいではないか、貴殿に戦は似合わんよ。……それとも荒野の野獣のように敗残兵を追い回すか?)
敵の敗残兵の姿が見えた。
それと鉢合わせしてしまうとまずいのだが、どうもその退路にも兵が回されていたようだ。
降伏勧告が行き交い、次々にヒューマンの兵たちが投降してゆく。中には復讐を恐れてか見苦しい姿をさらす者もいた。
「その仕事すら分けては貰えないようだ。しょうがない、おとなしく本隊と合流しよう」
(そうしておけ。貴殿は穴掘りアウサルであろう、何も最前線に立つ必要はなかろう)
……そうは言うがユラン、俺はアンタのために血を流しても良いと思っている。
よくわからんが、人というのは気高い何かを求めるのだろう。俺にとってのそれがアンタだ。
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剣豪ゼファーと怪力ラジールという2人の猛将に、フェンリエッダのそつのない采配、やたらに前で戦おうとする首領グフェンらの活躍でニブルヘル砦が奪還された。
地下道を経由した、砦内部への直接の奇襲であったのもある。まあそれそのものが反則だ。
森を抜けて逃げようとした者もいたが、俺が迷いの森を再稼働させてしまったのでそいつらも結局こちらに戻ってきて捕虜となった。
前科さえなければ丁重に取り扱うつもりだ。エルフが復讐するに値する、前科さえなければ。
つまりは完全勝利だ、俺たちはついにニブルヘルの隠し砦を奪還した。
あの開拓した沃野と、山の向こうから引いた豊かな水と、地上の領土をやっと取り戻したのだ。
身を偽り、騙して、盗んで、その後は逃げ回った。
その報酬がこれだ。あまりにあっけない。
「ア~~ウサールッッ、どうだ見たか我の武勇を! 我らは決めていたのだっ、お前はすぐに無茶をするからなっ、お前が戻る前にここを落としてしまおうと!」
「よく戻ったでござるアウサル殿、ほうそれが例のベルでありますか。それをチラつかせれば故郷の臆病者どももすくみ上がる、全くよくやってくれたでござる」
本陣に行けばゼファーとラジールに歓迎された。
フェンリエッダもそこに駆けつけて、俺の頭から足下までを確認してくる。
「無事なようだなアウサル。……良かった」
それから赤くて小さくて飛ぶやつに目を奪われた。
彼女のユランを見る目なのだが……どうもわからん、なぜか熱心に見える。
「おお、お帰りになられましたかユラン様……! このグフェン、貴方の旗の下で再び戦える日が来ようとは夢にも思っておりませんでした……。どうか再びあの頃のように、我らを守り導き下さい……救世主ユランよ!」
それとグフェンの方だがユランの前にひざまずいた。
あの男のノリとは思えないのだが、どうもそういうものらしい。それだけ尊い存在らしかった。
「ぷきゅ~~!」
悪いが、威厳とかはあまり無かったのだが……。
「か、かわいい……っ!」
しかしどうやらダークエルフからすれば神々しいらしい。
フェンリエッダまで興奮の声を上げて、見栄っ張りのユランを熱っぽい瞳で凝視していた。
「ぴゅぃぴゅぃ!」
しかし何だ、悪い。俺にはどうにも……子竜が餌欲しさに媚びを売ってるようにしか見えん……。
早く完全復活出来るといいな、ユラン。その見てくれだと全てが冗談に見えてくるぞ。
お前の種族救済の野望すらもな。




