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End- 7 スコップ握り締めて築く、もう1つの未来

・アウサル


 だがその時、ヤツの意図せぬ突風がわき起こり破滅の言霊をかき消した。

 危なかった。あと一歩遅かった間に合わなかった。彼は俺と同じ結末を描くことになっただろう。


「悪いがその言葉は言わせん。その言葉だけは口にさせん。サマエル、作り物のユランはユランじゃない。これは警告だ、2度とその言葉を使おうとするな!」


 サマエルとアウサルが出会った。

 彼はとても驚いていた。当然だろう、己の心臓と目を宿し、ユランの鱗を持つ男だ。

 そいつが白銀のスコップを背負い、ウィンドマテリアルで言葉を押し流していた。


「お前……。お前は、一体、誰だ(・・)……?」


 絶対なる創造主の言葉らしくもない。


「人間……いや、何だ、お前……」


 全知全能、全てを知る者が問いかけをしてはならない。


「その顔、その魂……バカな、なんで、そんな……」


 到底、器ではなかったのだ俺たちは。

 神に愛玩されるだけの哀れな人形に、神のまねごとなど出来るわけがなかった。


「俺か? 俺は――」


 さすがに問いかけに対して返事を迷った。

 俺は誰なのか。ここで俺はお前だと、そう答えるつもりでいた。

 けれど急に気が変わった。フェンリエッダとラジールのせいで台本が書き変わったのだろう。


「俺はアウサル、54代目アウサルだ」

「そして同時に我が輩のかわいい使徒だ、過去最高傑作と言いってもよいぞ」


 ユランまで調子を取り戻していた。

 勝手に思い詰めて結界を張ったくせにな、まるで待っていてくれたかのようだ。

 一方、サマエルはアウサルに対する当惑を解決しかねていた。


 己と同じ存在、ユランを身に宿してサマエルの力を放棄した者、それがアウサルだ。

 いかに簒奪の創造主とはいえ、それを一瞬で理解することはできなかった。

 まさか自分自身が、力を捨ててユランと同化し、時空を越えてやり直す道を選ぶとは、思わなかっただろうしな。


「ユラン、アンタに謝らなければいけないことがある」


 サマエルとの見つめ合いを止めて、美しき人型を保つユランに目を向けた。


「ふんっ、ここで命を散らすつもりならお断りだ、我が輩も共に戦うぞ」

「違う……俺はずっと、アンタを騙していたんだ。それは俺にとって、ぬるま湯のように都合の良い夢だった」


 詩的で自己完結した言葉にユランはうろんそうに俺を見た。

 たまにはいいではないか、カッコ付けても。

 それから俺はサマエルに目を向けなおし、得物のルイゼのスコップを地に下げる。


 悠然とそこに立つサマエルの前に進み、後ずさりするその隣に、ただ立ち、ユランに向かって振り返った。

 そこに生まれた情景にユランが唇を噛んだ。

 ユランだって薄々感づいていた。アウサルの正体を。ただ理屈が合わなかったのだ。


「俺たち、似てないか? まるで、同一人物(・・・・)みたいに見えないか、ユラン」

「ッ……?! ば、バカな……ならば何が、どうなっておる……。なぜ……なぜ我が輩は、今日まで……」


 それがサマエルにも一定の答えを与えた。理屈はどうあれ、俺とお前は同じなのだと。

 サマエルの隣からユランの元に戻った。それからもう一度スコップを持ち上げ、鋭い銀の切っ先を哀れなもう一人のアウサルに向けた。


「俺はこうするために来たんだ」


 ユランの隣から一歩踏みだし、腕を伸ばしてユランを庇う。破滅を迎える寸前の彼から。


「ユランを守り、お前を止めるためにな。サマエル、アンタの妄執の先には破滅しかない。全てが白き灰と化した世界、神の毒によりあらゆる生命が滅び、新たに生まれることすら出来ない世界。そこで俺とアンタは、殺したユランを蘇らせることもなく、ただ虚無の世界で孤独に生きるはめになる」


 ユランの前で彼に真実を伝えた。

 お前が至るであろう破滅の未来を予言してみせた。俺はその未来を、このスコップで穿ちに来たのだから。


「お前は何を言って……いや、まさか、お前、お前は……」

「ユランが拒絶する世界を生み出して、アンタはそれで満足なのか? 答えろ、愚か者!!」


 言うべきことは言った、何も考えずにサマエルに突撃した。

 こいつのことは俺が一番知っている。強情なこいつは間違いにぶち当たるまで理解などしない。

 だがこいつが気づいた頃にはもう、世界とユランは滅びている。説得は最初から意味をなさん。


「だが、なぜヒューマンなんだ?! ヒューマンの身体に、なぜお前が……くっ!」

「そうだ、俺はヒューマンだ、怪物なんかじゃない!」


 サマエルは剣を呼び出し、己が分身と打ち合った。

 だがな、奇跡のスコップをもってしても、創造主の肌は掘り抜けない。かすり傷さえ与えられなかった。


「よし、この分からず屋を止めるぞアウサル!」

「了解だ、我が主よ。まあ一応だがな」


 ユランの使徒と成り下がっている自分自身にサマエルは当惑した。

 同時に羨んだ。そうだな、それは彼が望んだ夢の1つだろう。まぶしそうに俺たちを見ていた。


 しかしまいった、コイツは倒せそうもないぞ……。かといって説得が通じるやつでもないからな……。


「ッ……アウサル殿っ、これを……拙者たちの執念を、使うでござるッッ!!」


 ゼファーがある物騒な物をこちらに投げつけてきた。

 神殺しの刃だ、俺やユランにも有効な凶器を、あろうことか投げ渡してきた。


「ナイスキャッチで、ござる……!」

「ゼファー、刃物をほいほいとただの発掘家に投げんでくれ……だが助かった」


 とっさにスコップでそれを受け止めた。

 冒険物語の主人公のように、颯爽とそれをキャッチできればいいのだがな、さすがに無理だ。

 すぐに地より神殺しの刃を拾い上げ、右にスコップ、左に刀というツッコミどころの多いヒーローがそこに生まれていた。


「うおっ……なんだ、急に、お、おぉっ?!」


 しかしスコップでそれを受け止めたのが悪かったのだろうか。

 左右の得物と得物が磁石のように引き合いだした。

 そいつはすぐに俺の筋力をゆうに超え、ピッタリと張り付いて溶け合ってゆく。


「なんと、有角種の至宝がスコップと合体したのでござるかっ?!」

「クククッ、摂理に反する奇跡か……。もしかしたらこの世界そのものが、そなたらの勝利を望んでいるのやもしれんな」


 名付けて神殺しのスコップといったところだろうか。

 有角種の執念と、かつてサマエルだった者の執念、そしてルイゼの願いが1つの形となっていた。そういうことにしておこう。


「バカにするなッ、スコップなど下等な道具でこのサマエルを倒せると思うな!!」

「それはやってみなければわからんな。少なくとも俺としては、刀なんかよりこっちの方がしっくりくる。行くぞ分からず屋」


「思い上がるな、この混ぜ者!!」


 悪いな、神殺しのスコップ、そいつがサマエルを追いつめた。

 スコップがサマエルに傷を与える力を得て、やつの無敵の肉体を傷つけてゆく。

 その事実が彼の態度を変えた。やつはもう無駄口を叩くこともなく、目の前に現れたあり得るはずのない分身との、雌雄を望んだ。



 ・



 戦って、戦って、戦って、俺は長い死闘の果にヤツを牢獄の中へと押し込めた。

 神殺しのスコップの力を活かし、立ち上がる力を完全に奪っていた。


「やったでござるっ、アウサル殿、その得物ならば殺せるでござる!」


 殺せる。確かに殺してしまえるだろう。

 切っ先をサマエルに向けて俺と彼はにらみ合った。


「どうしたのさ、アウサル。俺を殺して、取り戻したらいいじゃないか……君が捨てた、創造主の座を。やっとわかったよ、君の正体が……」

「そうか」


 ユランは体力を使い切り、牢獄の外側で膝を突いている。

 ちょうどいい。スコップを下げ、外へとそれを投げ捨てた。


「な……なに、何を考えているのだアウサル?!」

「敵の寸前で武器を捨てるなど、アウサル殿っ!?」


 続いて牢獄の中で壁を背に腰を落とした。

 疲れた、ただの発掘家には英雄のまねごとは骨が折れた。もうくたくただ。


「見ての通りだ。俺はいつか再び間違いを犯すかもしれない。だからユランの代わりに、彼を見守ろうと思う」

「バカを言うな、それは我が輩の役目だ! 勝手なことをするでない、そなたは我が輩の使徒であろう、主人に逆らうな!」


 サマエルはもう抵抗しなかった。

 スコップを投げ捨てたバカ者に反撃をしようともしなかった。


「聞いてくれユラン、俺たちはただ、ただな、悲しかったんだ。アンタに裏切られた、アンタに捨てられた、アンタが俺たちではなく、地上の虫けらどもを選んだ。そのことがただ、悔しかった……アンタもそうだろ、サマエル」

「うるさい……わかった口を聞くなヒューマン。力を捨てて、ヒューマンに成り下がったお前など、俺ではない!」


 俺をヒューマンだと認めてくれる数少ない存在が、まさかサマエルになろうとは思いもしなかったな。

 彼は俺に目を合わさなかった。当然だ、未来から来た全てを見透かす存在に、表情など見せたくない。


「そうつれないこと言うなよ、アンタにはみやげ話がいっぱいあるんだ。ア・ジール地下帝国、あそこから始まった長い長い物語を、アンタにも聞いてもらわなきゃいけない。それと、今日まで収拾してきた異界の物語も語ってやりたい。ユランの代わりにな」


 ケルヴィムアーマーによって無理矢理こじ開けられた天の獄を、俺はサマエルの心臓を動力に閉めることにした。

 これでこの地上からサマエルという愚か者が消える。

 創造主というシステムも絶え、この世の命運は地上の種族たちに任されるだろう。


「おい……止めろアウサルッ、止めてくれ、我が輩はこんな結末を望んでおらんっ! これでは、何も変わっておらぬではないか!」

「アウサル殿、そういうたちの悪い冗談は止めるでござる! エルザスを失ったルイゼを、これ以上悲しませるのは止めていただこうか!」


 そこを突かれると痛いな。

 だがサマエル1人をここに閉じ込めては、禍根を残すことになる。

 俺もこいつも、独りで閉じ込められるのはこりごりだ。


 いやところがおかしい、天獄の閉じようとする力が鈍り、急に止まってしまった。

 どういうわけか力が抜ける。俺の身体がひとりでに動き、意思を無視して立ち上がっていた。


「身体が、勝手に、なんだこれは……」


 逆らえない、自由をことごとく奪われていた。しかしそれはサマエルの力でも、疲弊しているユランによるものでもない。

 俺たちではない何者かが、俺の身体を乗っ取っていた。


「なるほどね、そういうことか」


 いやサマエルだけが納得していた。どういうことだ、何が起きているというのだ……。


「ヒューマンになり果てたものだな、こんなことすらわからないなんて、アウサル、やっぱりお前は俺じゃない」


 俺の肉体は天獄の出口寸前まで引っ張り出されていた。

 はたから見れば情けないものだろう。怖じ気付いたようなものだ。


「お前、ユランと融合したんじゃないか? 時空を渡るために」

「な、わ、我が輩と融合だと……?!」


 それが犯人の名前だった。

 サマエルが言うには、今俺の身体の支配権を奪っているのは、融合したそのもう片方だという。


「だったらお前は俺じゃない。お前はサマエルじゃない、お前は……。俺たちの子供、アウサルだ。もうわかった、さっさと行けよ、このバカ息子……二度とここに来るな」


 サマエルは俺を牢獄の外に吹き飛ばしてしまった。

 痛い、自由を奪ったのなら受け身くらい取ってくれてもいいだろう……。

 俺がサマエルとユランの子供……?

 そういう解釈もあるのだろうか、それならサマエルの罪を背負わなくてもいいというのだろうか。


「ユラン、世界をリセットしたくなったらまたここに来るといい。そのときは喜んで世界を滅ぼし、新しい完璧な種族を生み出して、今度こそユランを喜ばせてみせる。俺は別世界のサマエルと同じ(てつ)を踏まない。いつか必ず復活し、最高の世界を生み出して見せる。俺は創造主だ。完璧を追求する義務がある、そこだけは絶対に譲らない」


「ふんっ、勝手にしろ、バカ者め……。だが言っておく、完璧な種など、我が輩はお断りだ、覚えておくがよい!」


 元々サマエルは知恵無き天使だった。

 その生まれが完璧な種を望ませたのだろうか。もう何が真実かすらわからない。

 彼は自ら天獄を閉ざしてしまったし、俺も彼の決め付けにわからなくなってしまっていた。


 サマエルは笑っていた。やさしさを取り戻したかのように、ユランと、息子と勝手に決め付けた存在に向かって。

 ユランとサマエルにとって、俺という混じり合った存在は願いであり救いでもあったのだろうか。


 次元を渡る竜と、創造主に尽くすだけの元愛玩天使に子が生まれるはずもない。

 俺という存在が彼のやさしさを蘇らせた。そう思うことにしよう。


 この日、サマエルとユランは和解した。おびただしい血と灰をもたらした聖戦が終わり、俺たちはこの地上で生きる権利を取り戻した。


 戦いは終わった、さあ帰ろう、俺たちの大地へ、反逆の地下帝国へ。

 俺たちはついにユランが勝利する結末を勝ち取り、創造主だけが孤独に眠る天上の楽園を去るのだった。


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