27-2 聖戦の大地を揺らす白銀の鎧
これだけ目標の兵力が増えていると見失うことなどまずない。
ウルゴス領を発って3日目の昼前にやっと、エルザス率いる反乱軍と合流することができた。
しかし破竹の勢いというやつがそこでは止まっていたようだ。
原因は反逆を起こすことのない軍勢が、そこに立ちはだかっていたからだった。
人の魂と肉体を溶かして生み出した外道の自動兵器、ケルヴィムアーマーの軍勢をエルキアが持ち出してきたのだ。
「いえ対処法はワルトワースでの交戦時の報告をいただいていたので、まあどうにかなっているのですが……」
エルザスの下には皮肉屋のジョッシュ、愛嬌のある傍流ダレスの姿があった。
その他、エルザスについた諸侯の姿も天幕の中にひしめいている。
「どうもそれだけじゃないんだよ。反乱軍に内通者がいるのかな、こちらの動きがことごとく読まれている。裏をかこうにも裏の裏をかいてくるのさ、いやぁ困っちゃうね」
「おい、エルザス……お歴々の前でそういう軽い態度は止めようぜ。お前は次の王だ、簒奪者から国を取り戻しにいくんだからな?」
どいつもこいつも負傷もなく元気そうで何よりだ。
手に余る甥にダレスはフォローを入れて、それから俺に信頼を込めた笑みを送ってくれた。
エルザスの配下シルバとスケの姿もこの本陣天幕の中にある。
「我が輩に心当たりがある。それはサマエルの目を身に宿した者の力だ、どうも向こうの敵陣にいるようじゃな……」
「ああそいつなら知ってるよ。額に目を持った女だ、伯父上……いやエルキア僭王のそばにいた」
前線では今も交戦が続いている。
敵軍にはこちらの7割ほどの兵力しかなかったが、100を超えるケルヴィムアーマーが投入されていると、ジョッシュが新参の俺たちに教えてくれた。
「作戦をこね回すなど俺の柄ではない、俺たちを白銀の鎧の迎撃に加えてくれ」
「拙者もそのつもりでござる。知略はそなたらに任せるでござるよ」
「アウサルの旦那らは相変わらずだな。わかった、また先読みされるかもしれんが俺の兵をそっちに回そう。それでいいな、甥っこよ?」
ユランは体を小さくして天幕に入っていた。
赤い竜と、銀色の有角種、それに蛇眼のスコップ男が援軍にかけつけたのだから、エルザスに味方した諸侯も驚いている。
「しかしそれにはリスクがありますよ。先を読める敵からすれば、あなた方を潰すチャンスとそれ相応の対処をするでしょう。現にされていますからね、今も」
「ならばなおさら我が輩を使うべきであろうな。自己紹介が遅れたなエルキア諸侯よ、我が輩の名はユラン、かつてサマエルと戦った赤い竜だ。邪神などと呼ぶ者もおるな……」
そう言ってユランは勝手に天幕を出て行った。
今すぐ迎撃に向かうという意図だ。
「では伝説の竜神のお手並み拝見といこう。ダレス叔父さん、よろしく頼んだよ? くれぐれもアウサルとユランを戦死させないように、国際問題になるからね」
「だそうだ。ってことで細かいことは任せたぜジョッシュ」
「はい、どうかご無事で、ダレス様。エルザス様に逆らう言葉になりますが、ご自分の命を最優先して下さい、皆さんダレス様に守られるほど弱くありませんから」
天幕の外で騒ぎが起きた。ユランがあの巨体に姿を変えたのだろう。
俺たちはユランを追って、ダレスの案内に従ってケルヴィムアーマーの展開ポイントに向かって前進した。
・
俺たちが最前線を受け持つと、兵たちは驚きと共に安堵していた。
ヒューマンにすら危害を加える殺戮人形は、死体の山を築き、反乱軍の兵力をいまだに削り取っていたからだ。
ちなみにユランには迎撃以外の別件を先に押し付けた。
偵察だ、上空から敵陣を見下ろして本陣に報告してくれと頼んだ。
それが結果的に全体の戦局を良くしてくれる。
「お、お前ら突出し過ぎだってっ、いくらなんでもそりゃ無茶――うぉぉっ!?」
「何か言ったでござるか」
ゼファーと俺はそれぞれ別の悪夢の巨大鎧に突撃を仕掛けた。
神殺しの刃、ルイゼの白銀のスコップはこいつらに良く効くようだ。
スコップの切っ先が、有角種の執念の結実が、それぞれ鎧の利き腕を両断していた。
「行けそうだ、フォローを頼む」
「ははは……わかった! おいお前らっ見ての通りこいつらは切り札だ! 横やりが入らんよう、死ぬ気で持ち場を守れ!」
ダレスとその手兵と左右を固めてくれた。
おかげで俺とゼファーは正面のケルヴィムアーマーにだけ意識と攻撃を集中できる。
それにしても、やはり俺は歴代1番の天才だな、まさかこいつらまで斬れるようになっていただなんて。
ゼファーほど機敏に圧倒的な連続攻撃とはいかなかったが、俺は俺で簡単な陥落を掘るなり、敵を無力化しては利き腕を破壊してゆく。
残り後は他の連中に任せればいい。
「我が輩を使いっぱしりにしおって! 待たせたな」
「ど、ドラゴンっ、ひぇぇぇぇーっっ?!」
「落ち着けありゃ味方だ、って、うぉぉっ?!」
ユランの巨体が敵陣の真ん中で、鎧を踏みつぶして着地した。
それから炎や魔法の効かないたちの悪い怪物を、その強靱でただただでかい尾や腕で叩き飛ばす。
巨体には巨体、ケルヴィムアーマーなど力を取り戻したユランにとって、ただ硬いだけのデク人形だった。
同時に納得する。この白銀鎧はユランに対抗するために生み出されたのかもしれないと。
「見ての通りだ! 降伏しろ降伏しろ、同じエルキア人同士で争って何が楽しい! こんな民の命を生贄に作り出される鎧を使う連中なんぞに、いつまで味方してるつもりだお前ら! 狂ったこの国はエルザス王子がどうにかしてくれる、なにもしねーから早く投降しとけ!」
ダレスまで必要もないのに前に出て、白銀の鎧をあしらった。
自動殺戮人形という楔が引き抜かれ、破壊されていったことで敵軍に動揺が走った。
倒すのではなく優勢を見せて迎撃部隊を降伏させる。それがこれまでの快進撃のからくりらしい。
「おい、もしかしていけるんじゃないか……」
「わかった、ダレス将軍が言うなら降参する! 俺たちも連れてってくれ、王都に」
最初は一兵卒、その次は隊を抱えた下級貴族、次々とエルキア兵はクルリと反転して敵を変えた。
それが連鎖的に降伏を引き起こす。やがては前線部隊を指揮していた子爵様まで寝返って、エルザスのエルキア反乱軍は王都に向かってまた1歩進み出すことになったのだった。
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「おかえり、では文句から言わせてもらうよ。何それどうなってんの、これまでのパターンだったら、先読みした敵がケルヴィムアーマーを下げてカウンターの騎馬突撃をしてきたのに、納得いかないよ、不公平だ、つかずるくねぇー?」
本陣に戻るとねぎらいより先に、不平不満が総大将から飛び出した。
内心ジョッシュも同感だったらしい、口を挟もうとはしなかったからそうなのだろう。
「ずるではない。単に読めなかったのだろうよ。我が輩はサマエルを騙して天獄に封じた。つまりサマエルは、我が輩の行動を予知できないのだ……」
「いやそれはちょっとおかしいね! ユラン殿は偵察を済ませて一度ここに戻ったじゃぁないか。それはどう説明する?」
サマエルの目がもたらす予知に彼らは苦しめられていた。
だというのにまるで影響を受けないオチがここに残っていた。
「この場に我が輩がいる時点で、予言は歪む。何のことはない」
そのときユランが俺を見た、心外なことに疑いの混じった目だ。
その目が言っていた。サマエルの影響を受けないもう1つの存在アウサル、それが予知を歪ませた。お前は何者なのだと。
・
・サマエルの使徒 目
次々と兵が裏切り歯止めが利かなくなった。
勝利はもう目前のはずなのに、これはどういうことだろう。
「将軍カルマゾフ、ケルヴィムアーマーの残存数は……?」
「それがどうやら全滅のようで……。ここは本国から追加を送ってもらってはどうでしょうか」
わかっていない……あの鎧の利用価値を。
私たちが何も考えずに民を生け贄にして、鎧を生み出したとでも言うのか。それは違う……。
「それは却下ですわ。これ以上回せません」
「だがこのままではじり貧だ、数に押し切られる。これ以上膨れ上がる前に叩かなくては……」
「既に北部で民を動員してあるわ。カルマゾフ、お前ここで彼らを足止めしなさい。時間を稼いでくれればそれでいいわ」
「あの鎧をなぜもっと使わないのです! 王都に駐留させるより、前線に回して下さい!」
偉大なる創造主の口に、口答えするなんて愚かな男だ。
私たちに必要なのは時間。それ以外は今は何も要らない。
「王都の鎧は使用中です、こちらには回せませんわ。では、後は任せましたよ」
「そんな行かないで下さい、サマエル様の予知能力で、どうかお力添えを……」
予知が意味をなさない以上ここにいる意味がない。
それに、自分が死ぬと、アレを制御する者がいなくなる。自分は死ねない。
アレは神の一部なれど、狂っている……。
「そうでしたわ、あなた」
「はい? 私などに何か――え? ッッ……!!」
「な、何を! 何をするのですか、使徒様!!」
去り際にこの迎撃隊の副官を刺し殺しておいた。
「この者が裏切る未来が見えましたわ、といっても、その未来はすでに歪んでいる。それでも可能性の世界でサマエル様を裏切ったのなら、地獄に堕ちるべきですわ」
予知を狂わせる因子とは距離を置きたい。
私は裏切り者を始末して、王都に引き返した。
27-3 崩れゆくエルキアの肖像
アウサルお得意の奇襲を実行に移した。
地中から迎撃部隊本陣に入り込み、敵将軍を制圧する。
そうすれば全軍がこちらの手に入る。すぐに実行に移した。
天幕の足下をドンピシャで掘り当てて、後は兵と共になだれ込んで将軍カルマゾフを武装解除させた。
「降伏する……エルキアには、現王には愛想が尽きた……。もう全部洗いざらい話す……」
悩んでいたがいずれ降伏するつもりだったという。
というのもつい先ほど、彼は副官をサマエルの目を持つ女に刺し殺された。その副官は彼の娘婿だったそうだ。
その女は神のパーツが与える予知能力に頼るあまり、現在が見えていない。
可能性で仲間を処刑するヤツについて行く者などいるわけがない。
こうしてエルザスの反乱軍はカルマゾフ将軍率いる迎撃部隊全てを味方に引き入れ、その後も快進撃を続けた。
後は都を守る東の大要塞アイオンを落とせば、王都への道が開ける。チェックメイトの寸前まで俺たちは駒を進めていた。
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「といってもその大要塞が最大の難所でして。城を守る将の1人に内通させておりますので、反乱を起こさせることは出来ますが、それだけでは制圧は非常に困難でしょう」
アイオン大要塞を前に反乱軍は停止した。
遠隔攻撃を受けない距離を保ち、天幕での会議が始まる。
「ここは正攻法で――トンネルを作って要塞地下に奇襲を仕掛けるというのはどうだ?」
「いやいや旦那、そりゃどんな正攻法だって……」
「いいねぇ、そういう常識破りを地で行くやり口。けどさすがに読まれてないかな~、ま、読んでるからって、どうにかなるもんでもないだろうけどねぇ~。かといって向こうもわかってるんだから、簡単じゃないでしょ」
「もしケルヴィムアーマーで迎撃されたら、潜入部隊が袋の鼠にされる可能性あるでござるな……」
ところがその会議は始まるなりすぐに中断させられた。
厳しいエルキア武人ひしめく天幕に、伝令の兵が血相を変えて押し駆けてきたのだ。
「伝令ッ! 南方よりクリムウッド侯爵軍約5000が襲来、一目散にこちらへ突撃して来ますっ!」
「いえ、今地下道は必要ないかと。ああそれと、ソレにはもう手を回してあるので迎撃準備だけで問題ありません。そうですよね、次期国王陛下?」
「はははっ、なかなか良いタイミングで来てくれたものだ! 向こうはきっとこちらの裏をかいたつもりなんだろうねぇ!」
しかしそのクリムウッド侯爵は現王側に付くと最初からわかっていたので、その南に領地を持つ諸侯に話を付けておいたそうだ。
味方のふりをして後ろに貼り付いていろ、と。
よってこの5000の敵増援は予想もしない挟撃を受け、最終的にはあっさり武装解除させられた。
さらには要塞側から現れた敵援護部隊も返り討ちにする結果となった。
それでいくらかアイオン要塞の兵を削れたが、強行突破出来るだけの戦力はこちらにも足りていない。
しかし近隣諸侯の集結を待てばこちらは数で大きく勝ることができる。
これまでの悪行がエルザスにより暴かれ、エルキア王は諸侯の信用を既に失っていたのだ。
こうして半月を期限に、そこで戦力を増強しながら機会をうかがうことになっていた。
もちろん俺たちがそこで無策に待っていたわけではない。
俺たちは俺たちで独自に動かせてもらった。あんなバカでかい城、無理に攻めずに足元をくぐり抜けてやればいいのだからな。




