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22-8 強襲、エルフを殺戮する白銀の軍勢

「なぜ、アンタたちがここにいる……」


 ユランと別れてよりたった3日だ。

 確かに俺は使者をここに派遣するよう依頼したが到着があまりに早すぎる。

 しかもその顔ぶれの中に、女豪傑ラジールとパルフェヴィア姫の姿まであったのだから話がますます違っている。


「あら、ここはライトエルフの国よ。アウサルくんはうちがここにいちゃいけないっていうのかしら?」

「そんな話は後にしろパフェ、それよりアウサールよ、臭うぞ!」


 砦に入ろうとするとすぐにその2人の出迎えを受けた。

 別に来たらいけないわけではない。だが姫には安全が確保されるまで待機していてほしかった。

 その反面、慎重で頑固なホークを説得するには有用な人材でもある。彼女は一国の姫君なのだから。


「アンタは鋭いな、なら一体何が匂うというのだ」

「おかえりなさいアウサルさん。それにすみません……この通りお二人を止められませんでした……」


 遅れてレジスタンスの連中とユランまで出迎えに来てくれた。リーダーのホークもだ。

 そこでふと気づく。3日前に訪れたときとは砦の雰囲気がどことなく異なる。

 穏やかに笑ってるやつがいたり、どこか明るいムードがあった。


「争乱と闘争の臭いだ。我は同志アウサルの普段の面構えを知っている。だから顔付きだけでわかるのだ、わかっているぞ、飛び切りハラハラする何かを掴んできたなアウサールよっ!」

「そ、そうなのラジール……?」

「俺にはいつものアウサルさんにしか見えませんけど……」


 ラジールよ、その鋭さを普段の気配りに向けてはくれないものだろうか?

 まったくこの女は――いや、今は好都合か。


「正解だ……ラジール、アンタだけはこの国に連れてきたくないと常々思っていたが、今は逆だ、来てくれて助かった」

「どういうことだアウサル、私にも教えてくれ。君はそこの女性を連れて都に向かったはずだ。帰りも早すぎる、向こうで何があった」


 レジスタンスのリーダー・ホークには責任と義務がある。

 いち早く聞き出そうと俺の前にやって来ていた。


「悪いがそれはそこの豪傑に念を押してからだな。ラジール、今回ばかりは勝手に突っ走らないと約束してくれ。状況が複雑なのだ、こじれるとまずいどころではない」


 敵の正体が正しければ、単なる正義感でどうにかなるものではない。


「む……むぅ、難しい要求だな……。まあアウサールがそう言うなら、我も従ってやらんでもない。ヘマをすれば同志アウサルに嫌われる、それが1番良くない。嫌われたらお前がもたらす最高の刺激を、食いっぱぐれてしまうからな……」

「ラジール、ブレないなアンタは。そしてホーク、アンタにも念を押しておこう。アンタは、必要あらば民を守るために主義を捨てられる人間だな?」


 桃毛のエルフはでっかい胸の前で両腕を組んだ。

 平時は厄介なこの性分も、争乱時には勇ましいことこの上ない。

 隣にラジールがいる限り、どんな状況であっても絶対に負ける気がしないのだ。


「見くびるな。私は別にジンニクスに代わる独裁者になりたいだなんて思っていない。この国の欺瞞を暴き、人々を楽にしてやりたいだけだ」

「……いいだろう、ならば伝えよう。俺はある方法で城に潜入し、偵察を行った。そこでたまたま聞いてしまったのだ」


 赤毛のリムにはもう伝えてある。

 まずい状況なのを理解してか強行軍での帰投にも文句を言わず、今も静かに控えてくれていた。


「もったいぶってないで早く言えよ恩人! ちょっとでも急いだ方がいいじゃねぇかよテメェ!」


 前言撤回だ、最大効率でこの突拍子もない事変を信じさせるには、一体どうするべきかと悩んでいると、リムが焦れた。

 その焦り、悪くない演出だ。



「ジンニクスの元に火急の報が届いた。――白銀の全身鎧を身に付けた、正体不明の軍勢が北部の民を虐殺している」



 するとすぐに反応が返った。

 ホークがジンニクスのように歯ぎしりを立てて、それから俺に飛び付き両肩を揺さぶった。

 眼鏡越しの神経質な眼差しが敵意の矛先を間違えて、俺を睨み付ける。


「ヤツはっ、ジンニクスは何をしているッ!!」

「ただちに出陣して行ったよ、今頃は交戦しているはずだ。ついでに俺の見解を付け足すならば、どうやらその白銀の軍勢は隣国オルストアの軍ではなさそうだ、第3勢力がいきなり現れて虐殺を始めたと見るべきだな。……さて、これからどうするべきだと思う?」


 レジスタンスの長、ホークは俺の問いかけに答えられなかった。

 神経質な彼を肩から外し、反乱軍兵士たちの動揺どよめく門の前で周囲を見回す。

 するとラーズが静かに己の腕を上げていた。


「これは俺たちア・ジール側の話です。もし俺たちが今戦場に駆けつけて姿を現せば、民を豊かなア・ジールに誘うという計画そのものを、変更しなければならなくなります」

「そ、そうね……姿を見せるってことはそういうことだわ。民を盗んだ犯人がうちらだと、バレてしまってもおかしくないわ」


 わずか10歳のラーズの口から、こんな言葉が飛び出すとは意外だった。

 ジョッシュあたりの影響なのだろうか、冷たい大人の考え方が出来ている。


「だけどエルフが襲われてるのよね……それを見捨てるなんてうち……。どうすれば良いのか、わからないわ……」

「おいオメェッ、レジスタンスの親分なら助けにいけよ! あ、あたいは国から逃げるけどよ……みんなを守るために反乱軍してんだろテメェ!」


 リム、アンタも勇ましいな。

 あとは俺を盾にしての背中側からの発言でなければ良かったのだが。


 しかしホークらレジスタンスにだって事情がある、難しく、痛い要求だった。

 もちろん同胞を助けたいだろう。

 しかし独裁者ジンニクスとの戦いになったら、勝ち目はない。

 救援に行くべきか行かざるべきか、明るかった砦に重い空気が立ち込め、誰もが決断を出しかねた。


「む、お前ら何を難しく考えているのだ? 助けにいこう、悪党ジンニクスの軍だけでどうにかなりそうなら引き返せばいいではないか。戦況をうかがい、介入できそうなタイミングで突撃して後は逃げてしまえばいい」


 いやラジールだけは違った。

 こいつは比喩でもなんでもなく豪傑で猛将なのだ。

 それは軽率な判断かもしれない。

 だがな、あまりに堂々とふてぶてしく言うものだから妙な説得力を持っていた。


「フッ……だからアンタをこの国に入れたくなかったんだ。だが言っておくぞラジール、俺の推測が正しければ、相手は至上最低最悪の軍勢だ」

「おぉ~♪ それはどう最低最悪なのだぁー? ぜひとも詳しく教えてくれ~、アウサール♪」


 これだ。コイツはいつだってこれだ。

 普通の感性ならさらなる悪情報に臆するところで、ご機嫌にはにかんでしまうような大豪傑様だ。


「亜種を殲滅するための白銀の全身鎧、それに俺は覚えがある。予想がもし正しければその鎧は――」


 サウス北西ローズベル要塞に隠されていた悪意の大釜、その隣に白銀の全身鎧が保管されていた。

 その正体を銀角のゼファーが教えてくれたのだ。


「ケルヴィムアーマーか……あり得る……」


 それは人の命を溶かして錬成される鎧、神代の時代にあったとされるケルヴィムアーマーであると。

 ユランもその軍勢の正体を既に悟っていた。

 古の亜種たちはユランと共にこれと戦ったのだ、感づかないはずがなかった。


「そうだ。そして仮にもしそうならもう1つの結論が出る。……今回の件にはエルキアが噛んでいるということだ」


 それにしても不思議だ。

 また行く先でエルキアに先手を打たれた。

 いや読み切れているとは限らない曖昧な手だが……毎度毎度こうも繰り返されるとますます疑わしくなってくる。


 どこから情報が漏れているのだ。

 いや、そもそも情報が漏れていたら、存在しない地下帝国という俺たちの策略は既に崩れて攻め込まれているはずだ。


 あのとき迷いの森を停止させたセイクリットベルのような、常識でははかれないズルがエルキアには存在するのだろうか。


「同志たちよっ、ならばますます我らが行くしかあるまいっ! 神代の時代の最悪の軍勢かっ、血沸き肉踊る最悪最高の相手ではないかっ!」


 レジスタンス・ベヒモスは正規軍と対立している。よって主力は動かせない。

 そこでリーダーのホークを含む、ア・ジールとの混成少数精鋭部隊が組織された。

 威力偵察という名目で、隙あらば戦いに加勢するために。


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