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18-08 追放者の末裔より、反逆の竜への問い 2/2

「なんだ、竜人か……」


 尻尾を揺すってまた目を閉じた。

 いや客人と使徒に対してそれはないだろう。起こしたのは俺たちだが、ずっと寝てるアンタも悪い。


「よくぞ戻ったな、我が輩の使徒アウサルよ」

「ああ……。少し予定が変わったが飛びきりの戦力をこうして連れてきた。それより、ずいぶんでかく育ったものだな」


 長く復活を見守ってきた者として達成感があった。

 あの巨体を取り戻す日はいつになるやらと、果てしない感想も覚えるが。

 ユランは俺の態度に機嫌を良くして身を起こし、凛々しくも竜の肉体を誇った。その瞳が俺ではなくアザトを見る。


 黒い竜人がそのユランに歩み寄った。

 両者は口を閉ざしたまま互いを見つめ黙り込み、俺にはうかがい知れないそれぞれの感情をいだいた。

 アザトがユランに求めるもの。俺はそれに興味を隠し得ない。


「アビスの底に追放されたはずの竜人が、なぜこの地にいる」

「……自分の名はアザト、自分はアビスで生まれた。そのアビスから、地上の世界に憧れてはい上がってきた。だからここにいる」


 アザトは地獄のような世界で生まれた。光輝く世界に憧れてきた。

 だからついつい俺は親身になってしまう。ユランの信頼を受けてもらいたかった。


「して、我が輩に竜人が何用だ?」


 しかしユランは距離を保った。

 なれ合わず睨み合い、相手をはかろうとしている。

 俺は現実の歴史を生きていない。古過ぎることに関しては、ユランの物差しに頼るしかなかった。


「自分とリザードマンの民1500余りは、今日よりここア・ジール地下帝国に加わることになった」

「そうか。……それで、何用だ?」


 するとその返しにアザトが震えた。

 成長した竜からは神性が発され、彼の中にある神に対する恐怖に触れたのかも知れない。いや邪推し過ぎか。


「1つだけ……1つだけどうしても、貴方の口から聞きたいことがある……。かつてはサマエルの隣にあり、だが、今は裏切り者となったユラン、貴方に」


 サマエルの隣、元々ユランは悪の創造主に信頼される立場にあったという。

 納得できる。でなければ騙して封じるなど難しいだろう。


「竜人と、その亜種を味方に引き入れたか、よくやったなアウサルよ。……いいだろう、アザトよ、仲間として、好きなだけ疑問を我が輩に叩き付けるがよい」


 アザトの喉が息を飲む。

 俺には見せない鋭い眼差しでユランを睨み、かすかな怒りすらそこに混じらせた。


「ならば、邪神ユランよ、質問だ。なぜ……なぜ我らの祖先は……アビスに封じられることになったのだ……」

「ああ、その話か……」


 言葉こそ淡泊だったがユランは返答を迷った。

 問いに対して言葉を返さない。珍しく考えを巡らせていた。


「自分はアビスにいた頃の記憶がほとんどない。だがおぼろげにだけ覚えているのだ……。それは憎しみだ……あの地にいるもの誰もがサマエルという怪物を、追放者を激しく憎悪していた……! 自分は真実が知りたい、どうして、竜人はアビスに追放されたのだ! なぜこの地上で生きる権利を奪われたのだ!」


 ユランがチラリとこちらを見た。

 俺には聞かせがたいことなのだろうか、使徒として少し悲しいが仕方がない。

 我らは一蓮托生、あの牢獄での日々の言葉を信じよう。


「俺は席を外そう、邪魔をしたな」

「待てアウサル、いい、そこにいろ……我らは一蓮托生、そこにいてくれ」


 背中を向けたところで引き留められた。

 そう言われたのなら仕方ない、好奇心と共に見守らせてもらおう。


「これは内密の話だ、約束を守れるな……?」

「誓おう。妻レナの名に誓って」

「ああ、俺とアンタは一蓮托生だ、答える必要もない」


 さて、どんな機密が飛び出してくるのか。

 知識のない俺からすればさしたる重要要素とは思えないのだが、気にはなる。

 竜神ユランと竜人、繋がりをどうしても邪推してしまう。


「それはな、アザトよ。竜人が、サマエルの創造物ではないからだ。あのたちの悪い創造主は、それゆえ竜人を嫌ったのだ。そして捨てた、邪魔者たちを狩り、抵抗する者、それすら止めた者をまとめて、アビスの底にな」


 それはおかしいだろうユラン。

 世界の創造主が創造していない種族、その時点で矛盾してる。

 ならばアザトの祖先竜人はどこから来たというのだ。いやアンタもだ……。


「そうか……我らは、選ばれなかったのではなく……選ぶ選択肢にすら入っていなかったということか……。ただそこに転がっている、虫けらを、アビスという名のゴミ箱に捨てただけだと……」

「サマエルからすればな。だがそうではない、竜人は確かに選ばれし種だったよ。なぜならば……すまん、アウサル」


 そこから先は言葉として聞き取れなかった。

 竜が羽ばたき、アザトの耳元で何かを言った。

 黒き竜人は目を見開き、伝えられた事実に驚愕しているようだった。


「誇れアザトよ。竜と竜人は確かに地上の支配者、選ばれし者だった。……貴殿の力、これより頼りにしておるぞ。不足はあろうがここに我が輩が選ぼう。アザトとその末よ、今日より我が輩ユランの民となれ。この地上に住まう種たちの一角として、貴殿ら古き種族にも、栄光を……!」


 アザトは膝を突き、ユランに敬服した。

 俺はユランならばそう言うと信じていた。

 最果ての地にて誰にも服さず、孤高に生きてきたアザトに忠誠心が芽生えるのを俺は見た。


 気になるがユランに謝られてしまった。

 詮索は次の機会にするとしよう。



 ・



 後になってアザトが俺にだけこうつぶやいた。


「リザードマンは脆弱化した竜人だ。その竜人に、己の創造した種が打ち勝つ。新しき種族が、古き種族を越える。それが元々の脚本だったのだろう」


 サマエルの生み出していない古い種族。

 追放されたかつての地上の主。

 そこからはとある可能性を推測できる。


「サマエルはアビスに堕とされた先祖の仇だ。それを崇めるというエルキア王国と自分たちは……絶対に共存などできない。戦おう、アウサル、ユランの旗の下で」


 創造神サマエルは、世界の支配者で、地上に芽生えた5種族の父だ。

 だがしかしその地上を生み出したのは彼ではない。それ以前に何かがあったのだ。


※連絡

 近々ですが品質維持のために隔日投稿化を予定しています。

 現在のペースを続けると内容が犠牲となり、いずれ面白さを維持出来なくなってしまう可能性が高まりました。

 2日に1回となりますが、物語のオチまでしっかりと書いてまいりますので、引き続きどうか本作を応援して下さい。


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