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17-02 酒宴の陰で、先代アウサルの昔話 1/2

 たった今気づいたことがある。グフェンの姿が会場にない。

 あれは1000年を生きる早寝早起きのご老体だ。この祝い事の責任者でもある。それが忽然と姿を消してしまっていた。

 何か不都合でも起きたのだろうか。気になりだしたらどうにも落ち着かず、そこで彼の姿を探すことにした。


「おや今度はどちらへ行かれるのでしょう。あまり動き回らない方が良いですよ、援軍の方々は、貴方と一緒に酒を飲んだという自慢話を国に持ち帰りたいことでしょうからね」

「ヒハハッ、そういうこったべ! ああならおいらも一緒にいくべよ。……あ?」


 立ち上がろうとするヤシュの肩を押さえて制止した。

 俺としてはもっとこのヒューマン3人組との交流をしてもらいたい。将来のことを考えればきっと価値のあることだからだ。


「アンタはここでゆっくりしていってくれ。ところでグフェンを見なかったか?」

「それなら俺さっき見ました、あっちの茂みの奥に行くのを」

「おやそれは少しばかし妙ですね、私たちに話せない事情でも発生したか、あるいは体調不良か何かでしょうか」


 老齢だ、ジョッシュの言葉は俺たちを黙らせるだけの意味があった。

 グフェンは通常ならば会場に残って、接待に励まなければならない立場だったのもある。


「だからおめぇはよ、どうして禁句に近いことをわざわざ口にすんだよ、ジョッシュゥ……。ああわかった、行ってきてくれ旦那。おらヤシュ公、乾杯だ」

「そういうおめぇもだいぶ口が悪ぃべよ! そいきたっ乾杯ッ、ウォォンッッ、あらためてよろしくな熊公や!!」


 打ち解けるのがどうも早過ぎる気もしないでもないが、まあ何よりだ。

 熊と狼、少年と腹黒い策士をおいて俺は茂みの奥に向かった。

 ラーズの目は正しかったようだ、少し奥に進めばそこに目当ての人物がいた。

 樹木の幹に背をあずけ、グフェンがフェンリエッダに付き添われたたずんでいたのだ。


「おお、アウサル殿ではないか。……はは、これは情けないところを見られてしまったな。しかしホストの2人がどちらも酒宴を離れるというのはまずいな」

「俺はアンタの様子を見に来ただけだ。どうしたんだ、体調が悪いようだが」


 グフェンにあった覇気が今は失われていた。

 幹へと背をだらしなく預け、地下帝国の幻想的な木漏れ日を見上げている。


「無理もない、今日までまともに寝てくれなかったんだ……。この宴も本来は欠席するはずだったのに……。もういい、早く帰って休んでほしいグフェン……」

「早寝が習慣のアンタが徹夜……? それはさすがに無茶し過ぎだろう。俺からも帰って寝ることを勧める」


 娘同然のエッダに介抱されながら、グフェンがうつらうつらと目を眠たげに細めた。

 しかし老人は頑固だと相場が決まっている、すぐに覚醒して俺を真顔で見つめ返した。


「それは断ろう。アウサル殿と俺は同意見だ、命をかけてくれた相手を歓迎せずに1人だけ寝るなど出来かねる。フ……貴殿が来てくれたことだ、ここは酒でも交わしておくか。エッダ、悪いがエールを2人分ここに頼む」

「いや、俺はそういうつもりで来たんじゃないんだが……」


 同胞を生かすために連日無茶をして、今や疲労の限界にあるようだ。

 なのにその体に酒を入れる必要がどこにあるというのか。


「……ならば飲み切ったら帰って寝て下さい」

「そうだな、後は俺たちに任せて年寄りは先に寝てくれ」


 フェンリエッダが長いブロンドを揺らし、宴の席へと戻っていった。

 それからほどなくして木製ジョッキに2人分の酒を持って帰ってくる。

 彼女よりそれを受け取り俺はグフェンと向かい合った。

 大柄なダークエルフの偉丈夫は背も高く、色を失ったその銀髪が生きてきた歴史の深さを感じさせる。


「乾杯だ、アウサル殿」

「アンタも大概頑固だな……乾杯。思えばアンタとこういうことをする機会も、なかなかなかったな」

「グフェン、飲んだら私と一緒に帰るぞ、約束だからな」


 このエッダの父親代わりは約束に同意しなかった。

 だから彼女も強い口調で言い切った。

 それがいつものことなのだろうか、そんなエッダにグフェンがやさしく微笑みを浮かべている。


「あのエッダが大きくなったものだ。わかった、今回ばかりは俺も辛い、折れよう。エッダよ、俺の代わりに我らダークエルフの友たちを接待しておいてくれ。……出来れば今すぐがいい」

「はぁ……っ、わかった。グフェンのことを頼んだぞアウサル、心配だから必ず政務所まで送り届けてくれ。……路上で寝られたらかなわないからな」


 酒を運ばされて次は追い払われる。

 それにエッダが気分を害しているかと俺は勝手に思いこんだが間違いだった。

 育ての親と子だ、娘は素直に従って宴の中へと去っていった。頑固者同士通じるものがあるんだろう。ということにしておこう。


「月並みだがな、歳は取りたくないものだ」

「肩でも揉もうか? 親父と暮らしていた頃は、よくせがまれてやったことがある」


「先代のアウサル殿か、それは懐かしい……。君はお父上の若い頃にそっくりそのままだ。君には悪いが、その顔が俺の心を少しだけ癒してくれる」

「ああ、うちの親父は品物をニブルヘルに横流ししていたんだったか。ところで返事も無かったことだ、俺もエッダのように勝手にやらせてもらおう」


 座り込むグフェンの背中に回り、かなり強引にその背をこちらに向けさせた。

 後は俺の勝手だ、サラミのように硬くなった肩をほぐしてやる。……呆れるほどにガチガチに筋張っている、こりゃ疲労をため込み過ぎだ。


「うっ、そうきたかアウサル殿。ははは……先代には悪いが、息子が増えたような気分だな。むっむぅ、う、うぉ、ぉぉ……アウサル殿、そこは勘弁っ、グゥッ?!」

「今度マッサージが得意な女でも呼んで、アンタ全身ほぐしてもらうべきだ。筋肉まで頑固に指を拒む」


 見た目は中年だがグフェンの背中には脂っけがあまりない。

 やはり年寄りなのだ、その硬い筋肉をじっくりとほぐす。


「……アウサル殿、君は歴代のアウサルたちが、何を目的にあの地を掘っていたのかわかるか?」

「それは、唐突な話だな」


「君の父上はその理由を求めておられた。なぜアウサルがアウサルであるのか、なぜ穴を掘り続けるのか、呪われた地とは、何であるのか。君の父上は探求者だったのだ」


 グフェンの背を揉んでいるとおぼろげに幼い頃を思い出せた。

 だけど意外だ、親父は一言もそんなこと俺に語らなかった。

 彼は俺という幼子に、思い付きで問いかけをすることが多かったが、そんな質問をされたことは一度もない。


「先代のアウサルは、親父は結論を出せたのか?」

「わからん、結局聞けずじまいだ。……だからなアウサル殿、いつか君の口からそれを俺に語ってくれ」


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