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17-01 凱旋と酒宴、戦場に命捧げた戦士たちの祝い事 1/2


前章のあらすじ


 地上サウスにてダークエルフ処刑計画が動き出していた。

 むこの民をみすみす処刑されるわけにはいかない。アウサルらは地下帝国の発覚も覚悟で民の救出に動き出す。

 寝返った協力者にして悪徳商人ポコイコーナンを利用し、彼の命を代償にスコルピオの命綱、セイクリットベルのレプリカを奪い取った。


 それを手にアウサルはサウス市のダークエルフが囚われている王軍兵舎に潜入する。

 その後、地下道経由の市民の脱獄を無事に見届けると、彼は事態の攪乱のために単身でエルキア王国駐屯軍大将クリムハルトの寝首をかいた。

 全ての亜種族は失敗作、皆殺しにして浄化する、それがエルキア王国の狂った思想だった。


 ベルのレプリカを犯行現場に残し、アウサルはダレスら率いる護衛部隊と合流する。

 ジョッシュは不穏な噂からフェンリエッダを危ぶみ、サウス郊外農場の脱走支援に回ってくれとアウサルの背を押す。

 フェンリエッダを追って現地に向かうと、そこに考える力を奪われた民と、欺瞞にあふれた聖職者がいた。


 勤勉に働き奉仕すればヒューマンに生まれ変われる。

 そのいびつな思想をアウサルはスコップの奇跡をもって覆し、農場の民を本隊へと合流させた。


 しかし、策略によりスコルピオ侯爵軍は加わらなかったが、エルキア王軍の追撃部隊が到着し、民の命を執拗に狙う。

 無惨にダークエルフの命が奪われてゆく血塗れの逃亡劇、だがそこにアウサルの予定にない援軍が現れた。


 グフェン率いる別動隊と、肌を隠した謎の軍勢。それは夜も昼も地下隧道を走り続けて援軍に来た、ライトエルフと獣人の勇士だった。

 その援軍の突撃により、ついに彼らは民を守り切り、楽園にして反逆の地下帝国へと誘うのことに成功した。

 地上での大きな情勢変化、スコルピオ侯爵家のエルキア本国からの独立、という波乱の結末を残して。



 ・



――――――――――――――――――――――――

 17章 雷鳥来たりて黙示録の始まりをさえずる

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17-01 凱旋と酒宴、戦場に命捧げた戦士たちの祝い事 1/2


「俺の名はニブルヘルの首領グフェン、このめでたきはれの日迎えられたこと、まことに嬉しく思う。思えば我らダークエルフの歴史は敗北と屈辱、被差別の連続だった。だが……それももう終わりだ。地上に残った少数が気になるが、ついに我々は民と自由を取り戻した」


 祝い事に参加することになった。

 といっても迎賓館だのといった気の利いたものはここにはない。

 よって会場は高台の公園、座席は地べた、テーブルもまた地べたといったやや残念な有様だが、真逆に誰の目にも喜びの輝きがあふれていた。


「諸君らの援軍がなければ我らダークエルフは大きく数を減らすことになっただろう……。我らを助けるために、朝も夜も寝ずに走り続けてくれたその想いに、この場を借りて再び謝辞を述べよう。ありがとう、よく来てくれた、我らは種族こそ異なれど、友だ! さあ我らの酒で飲み語らってくれ!!」


 特にグフェンの喜びようといったらない。

 酒宴の言葉としてはいささか辛気くさいと俺は思うが、そこはグフェンの性格と高齢ゆえだろう。

 あふれる感謝を込めて会場の者を見回し、そのつどマメに頭を下げていた。


「グフェン様もこうおっしゃられてることだべ、さあ乾杯といこうでねぇか! いやぁめでてぇめでてぇべ! おらおめぇらっ、杯さ持ってねぇやつも、いいから手ぇ上げろ!」


 それを隣の銀狼のヤシュが見かねて立ち上がった。

 杯をかかげ、さあ騒ごうぜと豪快な笑みを浮かべている。


「おいらたちゃあのド畜生のエルキア王軍に勝った! コイツぁ勝利の祝杯だっ、生まれたばかりのこの地下帝国が、おいら達の為に出してくれた貴重な酒だ! ありがたく飲めよおめぇらっ、そんじゃ乾杯だべ! おらいくぞオラッ、勝利の祝い、乾杯だべぇッッ!!」


 増援部隊のほぼ大半が酒宴に参加していた。

 ヤシュの音頭に従って、エルフも獣人もヒューマンも杯を上げ、口々に好き勝手な言葉を叫んで大地を揺らす。

 頭数で500を超える戦士たちが雄々しく沸き立ち、我慢していた私語をワイワイガヤガヤと再開して料理をつつき始めた。


「わははっ、やっと始まったかっ! しかしア・ジールの酒を初めて飲む機会が、こんなにめでたい場となるとはなぁー! かぁぁぁ~~っっ、美味いッッ!!」

「ラジール将軍、くれぐれも羽目を外し過ぎないようにして下さいね。暴挙が過ぎると国の顔が潰れるので監視しろと、フレイニア王より言づてられておりますので……。あの、どうか、お願いしますよ……?」


 ラジールの姿も奥に見かけた。

 桃毛の女豪傑はまるで水のように酒杯を口に傾け一気飲みにしていた。

 隣の女性武官の控えめな言葉など、最初から耳になど入っていないことだろう。アレはそういうやつだ。


 高台の下の新市街や開拓地では既に気の早いお祭り騒ぎ始まっている。

 よってラジールとしては少しでも早く酒をバカになって飲みたかったのだろう。

 こちらの主な出席者はア・ジール首脳陣と軍幹部、国をあげて彼ら援軍に感謝し、勝利を喜ぶのがこの祝杯の目的だった。


「おらっ、無礼講だっ無礼講! 堅苦しいのは最初っから無しでいくべ、おら飲め白いエルフども!」

「銀狼のヤシュ殿ですね、ではお言葉に甘えて……。あ、ところでなのですが、少しだけ貴方のその、毛並みに触ってみても良いでしょうか?」


 あっちこっちで大騒ぎが繰り広げられ、誰が何を言っているのかすらわからない。

 会話の断片や大笑いが野蛮に飛び交い、熱気と酔いが会場だけではなく地下帝国中を騒がせていた。


「ラジール親衛隊宴会隊長1番! 身体張った隠し芸いやかせていただきやーすッ! さあ、ここにあります炎くすぶる炭の塊! 見事これを、噛み砕き、口の中で消して見せましょうっ!」


 ラジールの周辺からとんでもないタンカが喧噪をくぐり抜けて来た気もするが、ああ、これは見たり聞かなかったことにしよう。

 きっと種がある、芸なのだから何か種があるのだと信じたい……。


「アウサル様、私の酒を一杯」

「あっ抜け駆けはずるいですぞ、私の酒もどうぞ! フレイニア本国でのご活躍、まさに奇跡の行いでした!」


 さてわかっていたことだが、やはり俺だけ静かに宴を楽しむとはいかないようだ。

 ライトエルフの戦士が2人、俺の席に押し掛けてきた。

 彼らは己の杯をこちらに押しつけて、さあ飲んでくれと酒宴に酔いきった最高の笑顔を浮かべている。


「では遠慮なくいただくとしよう。それとそうだな、出来ればもっと普通に接してくれると嬉しい、俺は英雄ではなくただの土埃臭い発掘家ごときだ」


 彼らの杯を順番に受け取り黄金色の酒を飲み干した。

 それは麦を使った苦いエールだ。ヤシュやラジールがさっき言っていた通り、出来たばかりのとっておきだった。


「おお良い飲みっぷりだ!」

「これはおかわりを貰ってこないとですね!」


 飲み慣れない俺には苦みが強い。

 それをごまかす為に魔獣の焼き肉にかぶりつき、脂っこくなった口の中を自分のエールで流した。

 どうも早くも回ってきたようだ、ポカポカと腹の底と頬が熱くなっている。


「アウサルさん、俺のも飲んでくれよ!」

「おら酒は苦手だからよ、おらのもどうか飲んでくれよ!」


 ところでどうしたことか、次々と酒杯持った戦士たちが俺の前に押し掛け、自分の酒も飲ませようと妙な人だかりが生まれていた。

 ダークエルフにライトエルフ、猫と狐の獣人までもが俺を取り囲む。


「あっ、オイおめぇら! それじゃアウサル様がくつろげねぇでねぇかバカ野郎! おら自分の席さけぇれけぇれ! そんなゾロゾロと揃って無理言うもんでねぇぞ、このバカもん!」

「ゲッ、ヤシュの兄貴!? でもよぉっ、そんなこと言って兄貴はよ、アウサル様と楽しくやるつもりだろぉ、そんなんっずりぃよ!」


 そこにヤシュが来て獣人の方をどうにかしてくれた。

 猫と狐の頭を両脇に抱え込み、お前らは引っ込めと後ろに引っ張る。


「待てヤシュ、アンタの気持ちは嬉しいが大丈夫だ。グフェンと同じことを言うが、おかげで多くの命が救われたんだ。助けてくれた相手をむげになんて出来ん、よって、今日誘われた酒は全て飲み干す覚悟だ」

「ハハハッそら男らしいけんどよっ、もうそんなに酔っぱらっちまってんだから世話ねぇべ! オラそこの娘っ子っ、アウサル様に水を出して差し上げるべ!」


 給仕のダークエルフを捕まえてヤシュが水を注文してくれた。

 そのくらい自分で取りに行くつもりだったのだが、よくよく考えれば取り囲まれて身動きが取れない。

 それを察してヤシュが不機嫌に周りを睨み付けた。


「わかったよ兄貴、睨むなって」

「俺たちも無理を言ってしまった部分はあるな。ではアウサルさん、落ち着いた頃に貴方の武勇伝を……」


 そこで銀狼の喉が野獣同然にグルルと鳴った。

 獰猛だ、酔客たちはまとめて追い払われ、そこに俺と狼男だけが残された。


「すまんヤシュ、助かった。強気なことを言ったが酒など飲む習慣がなくてな……。エールというのは、どうも苦いものだな」

「ヒハハハッ、そりゃ良かったべ! おいらから言わせてもらうとここの酒は超美味ぇ、酔いつぶれる前においらかラジールの姉御を呼ぶといいべ!」


 異界の言葉を借りれば、ラジールはうわばみだ。

 これは履き物を意味する言葉で、あの世界の学生社会では学舎にてこれを着用することが義務付けられているようだ。

 まるでわからんのだが、これがなぜか酒豪という意味になる。


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