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辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?  作者: U3
第3章:商魂と剣と氷華の嵐

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第23話 迷宮の主 vs 採掘ドリル

 地下迷宮の空気は、深く潜るほどに重く、淀んでいく。

 だが、そんな陰鬱な空気も、我が相棒であるギガント・マザーの爆音と排気の前では霧散してしまうようだ。


 ガガガガガガガガッ!!


 ドリルが岩盤を砕く音が、狭い坑道に反響する。

 俺たちはもう、何時間掘り進んでいるだろうか。

 背中のカーゴスペースは、すでに回収した鉄鉱石や魔石で満杯に近い。

 だが、マザーのセンサーはまだ「先」を示していた。


『マスター。この先のエリアに、極めて高純度のレアメタル反応を確認。おそらく、この施設の動力炉か、あるいは貯蔵庫だった場所です』


「よし、そこが終点だな。一気にいくぞ!」


『了解。……おや?』


 マザーが不意に速度を落とした。

 前方の闇の中に、巨大な扉が立ちはだかっていたのだ。

 高さ10メートルはあるだろうか。黒い金属で造られた重厚な扉には、禍々しいレリーフが刻まれ、封印のような魔力が漂っている。

 いかにも「この先、ボス部屋」という威圧感だ。


「……鍵穴は見当たらないな」


『ピッキングは不可能です。物理的なロックではなく、魔力認証式のゲートのようです』


「解除コードなんて知らないぞ」


『問題ありません。鍵がないなら、ノックをすればいいのです』


 ウィィィィィン……。

 マザーの前面にある二連装ドリルが、高速回転を始めた。

 ノックの意味を履き違えている気がするが、訂正はしない。


『開けてください。宅配便です』


 ズドォォォォォォンッ!!


 ドリルが扉に突き刺さる。

 火花が散り、金属の悲鳴が上がる。

 数千年の時を耐えた封印も、超古代の採掘兵器の前では紙切れ同然だった。

 重厚な扉はひしゃげ、蝶番が弾け飛び、轟音と共に内側へと倒れ込んだ。


 土煙が晴れると、そこには広大なドーム状の空間が広がっていた。

 壁一面に埋め込まれた発光石が、青白く輝いている。

 そして、部屋の中央。

 山のように積み上げられた宝の山の上に、その主は鎮座していた。


「グモォォォォォォォッ!!!」


 咆哮が空気を震わせる。

 牛の頭と、巨人の体を持つ魔獣。


 『ミノタウロス・ロード』。


 通常のミノタウロスの倍、優に5メートルはある巨体だ。

 全身の筋肉は鋼鉄のように隆起し、手には巨大な戦斧を握りしめている。

 その鼻息からは、高熱の蒸気が噴き出していた。


「……でかいな。迷宮の主ってわけか」


 俺は息を呑んだ。

 Aランク相当の魔物だ。かつての勇者パーティでも、全員で連携してようやく倒せる相手。

 今の俺には武器がない。丸腰だ。

 だが、不思議と恐怖はなかった。俺は座っているシートの背もたれに深く体重を預けた。


「マザー、やれるか?」


『愚問です、マスター。採掘作業における最大の障害物は「硬い岩盤」ですが、あの牛さんは岩盤より柔らかそうです』


 マザーの分析は冷静、かつ辛辣だった。


『それに、通路のど真ん中に居座って……。あなたいつまで道を塞いでいるの! 工期が遅れるでしょうが!』


 ヒュオンッ!

 マザーが加速した。

 戦車形態のトップスピードで、ミノタウロスに向かって突撃する。


「ブモォッ!?」


 ミノタウロスが反応する。

 その巨体に似合わぬ敏捷さで戦斧を振り上げ、マザーの突進を迎え撃とうとした。

 巨大な斧が、マザーの装甲めがけて振り下ろされる。


 ガギィィィィィンッ!!


 凄まじい金属音が響いた。

 だが、砕けたのはマザーの装甲ではない。

 戦斧の刃だった。

 マザーが展開したエネルギーシールドに弾かれ、斧は飴細工のようにひしゃげていた。


「ブモッ……!?」


 ミノタウロスが驚愕に目を見開く。

 その隙を、マザーが見逃すはずがない。


『採掘開始』


 ギュイイイイイイインッ!!

 右側のドリルが、ミノタウロスの胴体に突き出された。

 回避しようとしたミノタウロスの脇腹を、高速回転する刃が掠める。

 それだけで、分厚い皮と筋肉がごっそりと抉り取られた。


「グアァァァァァッ!!」


 絶叫。

 ミノタウロスがよろめき、後退する。

 だが、マザーは止まらない。

 今度は左側のドリルを突き出しながら、さらに前進する。


『逃げないでください。まだ掘り足りません』


 追い詰められる迷宮の主。

 もはやどちらがボスで、どちらが侵入者か分からない。

 ミノタウロスは最後の悪あがきとばかりに、角を振り立てて突っ込んできた。

 質量と質量のぶつかり合い。


 ズンッ!!!


 激突の瞬間、勝負は決した。

 マザーの排土板が、ミノタウロスの突進を受け止め、そのまま押し返したのだ。

 キャタピラが大地を噛み、強烈なトルクを生み出す。

 ズルズルズル……と、巨体のミノタウロスが後ずさりさせられていく。


『パワー不足です。もっと食べて鍛え直してきなさい』


 マザーがさらに出力を上げる。

 ミノタウロスは為す術なく壁際に押し付けられ――。


 ドシュッ!


 マザーのドリルが、その心臓部を正確に貫いた。

 断末魔すら上げることなく、巨大な体から力が抜けていく。

 光の粒子となって消滅していく魔物。

 後に残ったのは、巨大な魔石と、ドロップアイテムである立派な角だけだった。


『障害物、排除完了。……ふぅ、いい運動になりました』


 マザーがドリルを空転させて血振るいをする。

 その仕草は、エプロンの汚れを払う主婦のように軽やかだった。


「……お疲れさん。相変わらず無茶苦茶だな」


 俺は苦笑いしながら、安堵のため息をついた。

 さて、邪魔者はいなくなった。

 俺たちは部屋の奥、ミノタウロスが守っていた「宝の山」へと向かった。


『反応通りです。古代の合金インゴット、それに高純度の魔導コンデンサ……。これだけあれば、領地の設備を大幅に強化できます』


「大収穫だな。全部持って帰ろう」


 俺たちはマザーのカーゴに戦利品を積み込んだ。

 満載だ。これ以上は積めないというくらい、マザーの背中は膨れ上がっている。


「よし、帰るか。リーリャとシロが待ってる」


『はい、マスター。安全運転で参りましょう』


 地上に戻った時には、すっかり夜になっていた。

 荒野の星空の下、テラ・テルマエの明かりが見えた時、俺は心の底からホッとした。

 ただの荒地だった場所が、今は「帰るべき家」になっている。


 居住ユニットの前にマザーを停め、ハッチを開ける。

 すると、待ち構えていたかのようにドアが開き、リーリャとシロが飛び出してきた。


「おかえり、アルド!」

「わふっ! わんわんっ!」


 シロが尻尾を高速で振りながら足元にじゃれついてくる。

 リーリャも駆け寄ってきて、俺の体をペタペタと触って確認した。


「怪我はないか? 無事か?」


「ああ、大丈夫だ。マザーのおかげでかすり傷ひとつないよ」


「よかった……。本当に、よかった……」


 リーリャは心底安心したように目を潤ませ、それからハッとしたように居住まいを正した。


「あ、すまない。出迎えが騒がしくなってしまったな」


「いや、嬉しいよ。こんな風に出迎えられるのは初めてだからな」


 俺は照れくささを隠すように、背中の荷物を指差した。


「お土産も山ほどあるぞ。これで新しい農具も作れるし、家の補強もできる」


『シロちゃんへのお土産もありますよ。ミノタウロスの角で作った、特大の骨ガムです』


 マザーが加工済みの角を放り投げると、シロは空中でそれをキャッチし、嬉しそうにガリガリと噛み始めた。


「さあ、中に入ろう。腹が減って倒れそうだ」


「ああ。約束通り、夕食の準備はできているぞ」


 リーリャに促され、俺は家の中へと入った。

 リビングには、温かい料理の香りが充満していた。

 テーブルに並べられているのは、昼の通信で話していた魚料理だ。


 『白身魚の香草蒸し』。


 地下湖で獲れた白身魚を、ハーブとオリーブオイルでマリネし、野菜と一緒に蒸し焼きにしたものだ。

 リーリャが俺のレシピを見様見真似で、マザーのサポートを受けながら作ったらしい。


「冷めないように、保温魔法をかけておいたのだが……味は保証できんぞ」


 リーリャが少し不安そうに言う。

 俺は席に着き、一口食べた。

 ふっくらとした身が口の中で解け、ハーブの香りが広がる。

 塩加減も絶妙だ。


「……美味い。店が出せるレベルだ」


「本当か? お世辞ではないか?」


「本当だよ。疲れた体に染み渡る味だ」


 俺が素直に褒めると、リーリャは花が咲いたように微笑んだ。

 その笑顔を見て、俺の疲れも一気に吹き飛んだ。


 食後、俺たちはテラスに出て、夜風に当たりながらお茶を飲んだ。

 足元ではシロが骨ガムを抱えて満足げに寝転がっている。


「……いい夜だな」


「ああ。お前が無事に帰ってきてくれて、本当によかった」


 リーリャが俺の隣に座り、そっと肩を寄せてきた。

 夜の静寂の中、二人の距離が自然と縮まる。

 これは、デートだ。

 派手な場所に行くわけでも、特別なことをするわけでもない。

 ただ、同じ時間を共有し、互いの存在を確かめ合うだけの、静かなデート。


「アルド。今日、お前を待っている間、ずっと考えていたんだ」


 リーリャが星を見上げながら呟いた。


「この場所が、どれほど私にとって大切かということを。……そして、お前の存在が、私の中でどれほど大きくなっているかということを」


「リーリャ……」


「私は、もうお前なしの生活など考えられない。……これからも、ずっと傍にいさせてくれ」


 それは、以前よりもはっきりと、そして深い情愛を含んだ言葉だった。

 俺は彼女の手を取り、強く握り返した。


「ああ。俺もだ。君がいないと、ここの飯も美味くない」


「ふふっ。食いしん坊な理由だな」


 リーリャが笑い、俺の肩に頭を預けてきた。

 甘い香りが鼻をくすぐる。

 マザーのカメラアイが明滅している気配を感じたが、今夜だけは見逃してやることにした。


 ダンジョンの激闘と、帰還後の安らぎ。

 その落差が、今の幸福をより鮮明にしてくれる。

 俺たちは言葉もなく、ただ寄り添い合って、テラ・テルマエの夜を過ごした。


 明日からはまた、持ち帰った資材を使っての忙しい日々が始まる。

 だが、今はただ、この温もりを感じていたかった。


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