エピローグ
その後の話をしようと思います。
まず、魔王は消滅しました。さすがは私の【ハウンドⅡ】です。あのような下賤な者など相手になるはずもありませんわね。
さすが私ですわね。オーホホホ!
私とイベリスは、王様に呼ばれて王城へと行き、爵位と領地と勲章を貰いました。勲章は2個目ですね。
同じ場にアリステラ様もいらっしゃいます。
「良くやってくれた! リリア嬢、そしてイベリス嬢。さすがは“戦乙女”の称号を持つ者達だ。そしてアリステラ嬢、貴殿の戦場での臨機応変な采配見事であった!」
「「「はっ!」」」
偉そうにしていますが、王様、ぶっちゃけ後ろでブルってただけですよね。今もちょっとビビっていますね。私達が魔王を倒す最大戦力なのですから機嫌を損ねたら大変だとでも思っているのでしょう。
先行部隊などは指揮官の貴族ごと消滅しましたし。連合軍も半数近くを損失しました。立て直しは困難を極めるでしょうが魔王と言った直近の脅威がいなくなった今、些細なことかもしれません。我が家は兵を出していませんしね。
まあその辺は王様が上手くやるでしょう。偉そうにしているのだから働いて貰わなければね。
そういえば王子様達4人ですが……死にました。
【スーパーフォレストロン】が魔王の攻撃の余波で数百メートル上空に吹っ飛んだのですが……あれ、重力制御やショックアブソーバー、シートベルトも無くそんなことになればどうなるか。そうです、コックピット内でグチャグチャになっていました。
魔導鎧【フォレストロン】も修復不可能なほど壊れてしまったそうです。
あと、マリー何とかというビッチ。4人の死亡を聞いて「こんなのシナリオに無い!!」とか意味不明な言葉を喚き散らして修道院送りになったそうです。
まあ報告としてはこんな所でしょうか。
◇ ◇ ◇
「おお、ついに……」
今日は【ハウンドⅡ】カスタムVerのお披露目です。各々の特性に合わせたカスタマイズが施されています。
今この場にいるのは、リリアこと私の他、イベリス、アリステラ様にカトレア様、デイジー様です。
そして各々の前にそれぞれ個人用チューンナップ機。
私の【ハウンドⅡ】は、グレーの汎用機です。外見は量産機と同じですが、震電のサポートの元、あらゆる作戦で活躍できるオールラウンダー。
アリステラ様の機体――【ハウンドⅡ/アサルト】は白い機体色に金のラインが入っており接近専用の装備とソフトウェアが積まれています。又、一部外装を変更して少し騎士っぽくなっています。
デイジー様の機体――【ハウンドⅡ/ヘヴィー】はサンドカラーの機体で機体両肩に大口径荷電粒子砲を背負っています。さらに機体各部に増加装甲と脚部にアンカーを装備。いわゆる遠距離戦タイプで同じくそれに合わせてソフトウェアを改修。機体形状もマッシヴになっていますね。
この3機がメインです。
カトレア様はあまりアクティビティーは好きでは無いらしく、復座型の【イーグルⅢ】の後席にて情報システム担当を行うそうです。イベリスが前席で機体の制御と戦闘を行い、後席でカトレア様が各種情報収集や僚機(私達)の管制、場合によっては攻撃補佐なども行うそうです。
「うむ、本当に貰ってもいいのだろうか?」
アリステラ様はキラキラと目を輝かせながらご自分の機体を眺めています。こういったものに興味があったのでしょうか? アリステラ様と言えば社交界の華でした。兵器などは男の子の方が興味があると思うのですが。
「私ん家あんまり裕福ってワケじゃ無いんだけれど」
デイジー様はお金の心配をしていますね。ですがそう言いつつも好奇の視線をご自身のために用意された機体に向けています。デイジー様は元から活発的な方で武道も得意な方です。こういった兵器類にも興味があるのでしょう。
『お嬢様方には色々と仕事を行って貰わなければなりません。現地協力者としてこの程度の見返りは許容範囲内です。』
あの後、アリステラ様の他、デイジー様とカトレア様を味方に引き込むことを震電に相談したら2つ返事で了承してくださいました。勿論部外秘ですので、契約書類は入念に……作らずに……あれ? 口頭説明のみだったような……
まあ、そういったことで皆さん快く協力してくれることになりましたね。【|ハウンドⅡカスタムVer】は必要経費です。
「そういえば震電さん? はこの世界のことや“魔法”について調べているんだったな。微力ながら協力しよう」
「私も協力するよ! こんなの貰えるんだし!」
皆さん家柄も確かですし、一気に調査が進むことを期待しています。
「さて、では皆さん。狩りに行きましょう!」
「あ、うん……」
「狩りと称するのはどうなんだ?」
私の号令の元、皆さんがそれぞれの機体に乗り込みます。
足下から少々振動が伝わってきます。慣性制御フィードバックが打ち消せなかった衝撃が伝わっているのでしょう。
私達は今、強襲揚陸艦に搭乗し成層圏を高速飛行中です。この艦は魔王戦時に私の【ハウンドⅡ】を戦場に届けてくれた艦でもありますね。全長300mで18機の【ハウンドⅡ】等を搭載できます。また、大気圏内での運用も可能なので、艦で目的地近くまで行き、そこから私達の機体を投下します。
『お嬢様方、まもなく目的地上空です。準備はよろしいですか?』
「よくってよ!」
「問題ない」
「オッケー」
それぞれがOKの返事を返してきます。
『降下開始します。』
震電の言葉と同時に下部ハッチが開き、私達は目的地に向け投下されて行きました。
◇ ◇ ◇
「進めー! 我らの栄光はすぐそこだぞ!!」
頭のおめでたい国というのはどの時代にも居るものである。
先の魔王戦にて連合軍は半数が被害を受けた。それらが立て直す前に落としてしまえと言う国が現れるのも自明の理である。
フォルスト王国(リリア達の国)に攻め込もうと今回画策したのは、魔王討伐に参加しなかったとある国であった。
大地を2万にも届こうかという軍勢が進む。歩兵や重装歩兵、騎兵、輜重部隊など様々なもの達が進む。
その中に見慣れぬ物があった。
数十人が鉄の筒が乗った台車を引いている。――そう、それは大砲であった。
「この爆発魔法を使用した大砲は我が国のみの技術です。必ずや勝利に貢献するでしょう。」
「ああ、期待して居るぞ。それに我らにはドラゴンがいる。勝利は間違いないだろう。」
その指揮官の言葉通り群の最後列には人よりも遙かに大きい軽く20mを超えようかという巨体が複数並んでいた。
地竜――ドラゴンの中でも温厚であり、空は飛べないが、その戦闘力はドラゴンの名に恥じない物でありたとえ金ランク冒険者出会っても1体倒すのに10人以上でかからなければならない。そのドラゴンを多額の費用と犠牲を払い配下に置くことに成功した。その数10匹。これだけで相手が大国であっても渡り合える戦力である。
きっと勝てる。兵達は勝利を信じて疑わなかった。
「……ん? 何だ?」
先を進んでいた兵士が目の前に巨大な人影を確認した。フォルスト王国軍だと考えた指揮官はすぐに進軍を停止、陣形を整えさせた。
『前方を進軍中の部隊に告げる! 私はフォルスト王国バルトシェル侯爵家、アリステラ=フォル=バルトシェルである! 貴様等は現在我が国の国境を侵犯中である。即刻引き返せ! さもなくば戦闘の意思ありと捉える!』
目の前の巨大な人型から人の物とは思えないほど大きな声が発せられる。
ただし、声色自体はアリステラ令嬢のそれであったがために少々迫力に欠ける部分もあったが、今現在この場にいるフォルスト王国側戦力では最も家格が高いため彼女が敵勢力に対して撤退勧告を行っている。
「何だあれは!?」
「まさか、噂の4賢人の遺産というヤツでは?」
「確かに巨大なゴーレムのようであったという報告は受けているが」
にわかにざわつき始める敵軍。しかし自身の戦力である地竜と大砲に絶対の自信を置いているためその警告を無視する。
そもそも宣戦布告はとうに済ませているのに尻尾を巻いて帰れと言われたことに敵軍指揮官はいきり立った。
後ちなみに、4賢人の遺産というのは【フォレストロン】のことでありまったくの見当違いである。
「貴様等! 初陣だ! あれを討取れ!」
「噂の4賢人の遺産だ! 討取れば褒美は思いのままだぞ!」
「「「うぉぉぉぉぉぉーー!!」」」
指揮官の号令と共に突撃してくる敵軍。火が入る大砲部隊。そしてズシンズシンと前進してくる地竜部隊。
大国ですら落とせる戦力が今、リリア達に向かってくる。
対するリリア達の戦力は各々の操縦する【ハウンドⅡ】が3機、上空で監視と管制を行っている【イーグルⅢ】、そしてさらに上空に静止している強襲揚陸艦のみである。
言ってしまえば過剰過ぎる戦力であった。(勿論どちらがとは言わないが)
今、戦いの火蓋が切って落とされた。
「戦闘開始しました。強襲揚陸艦に支援爆撃要請」
イベリスから上空に待機中の強襲揚陸艦にコマンドが送られる。強襲揚陸艦はリリア達を運ぶ際に余剰スペースにGPS誘導電磁焼夷弾を複数搭載していた。
それらが敵軍約2万に向けて一斉に投下される。
その様子はさながら地獄であった。電磁焼夷弾は発生した電磁波により電子レンジでチンした要領で敵兵の血液を一瞬で沸騰させ内部から破裂させた。その殺傷効果範囲は赤く染まることになった。
この支援爆撃によりまず歩兵、騎兵、砲兵などの人間の兵士2万が消えた。
「敵残存戦力の位置を確認。各機にリンク開始」
カトレアが【イーグルⅢ】の後席から戦場の様子を見渡し、残った敵勢力の情報をリリア達と共有する。
「いっくよー!」
デイジーの【ハウンドⅡ/ヘヴィー】から放たれた荷電粒子砲は上空からのデータリンクにより正確に地上をなめてゆく。
「吶喊っ!!」
アリステラの【ハウンドⅡ/アサルト】はブースターにより加速、後方に控えていた地竜めがけてランスチャージを行う。時速数百キロというスピードに特殊高硬度金属で作られたランスにより地竜の体はまるで紙のように引き裂かれていく。
「あ、あの、私の獲物は……」
今回、敵軍は歩兵が主体と聞いていたリリアは対人用に小口径カービンなどを持参していたのだが、最初の支援爆撃により短時間で文字通り消滅してしまったため出番が無くなってしまった。
そうして少し逡巡している間にアリステラとデイジーの【ハウンドⅡ】により残った最大戦力の地竜も全滅してしまった。
「ふう、勝ちましたね!」
「あっけなかったね!」
「あ、ああ、私の獲物……出番が……」
皆、満足げだ。リリアを除いて。
◇ ◇ ◇
後に周辺国において“セルドランスの悪夢の再来”と呼ばれる敵国との戦闘はリリア達5人の乙女達の出陣により一方的な戦闘によって幕を閉じた。
その報を聞いたフォルスト王国国王は彼女たちに褒賞を与えるときに、まるで別人のように顔を真っ青にし、震えていたという。
「他国には絶対行かないでね。欲しいものだったら何でもあげるから。国王権限使っちゃうよ?」
この物語はリリア=フォン=セルドランス、そしてその友人たちの戦火の記録である。
――嘘です♪




