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13話 魔王ですわ

視点変更(ry

 超変形電動キャンピングカー! トランスフォーム!


 説明しよう! リリア達が乗ってきたキャンピングカーは変形合体することにより移動式野戦指揮車へと大きく形態を変化させることが出来るのだ! 勿論内部は快適だ!



「……こんな形では無かったと思うのだが?」


 野戦指揮車へと変形したキャンピングカーを見ながらそう呟く指揮官その1ですが、その呟きは誰も答えませんでした。

 アリステラ様を含め主だった指揮官を野戦指揮車に招き入れます。

 彼等の目の前には大型のモニターが複数並んでおり、逐次戦場の様子を伝えてきています。それを使用しながら、イベリスが戦場の説明をします。


「魔王の情報は先ほどお配りした資料に記載してあるとおりです。現在、多国籍軍の最前線部隊が魔王まで5㎞に接近しています。あと1時間ほどで戦端が開かれるでしょう。王子達はここ。後方の騎兵隊の中心にいます。歩兵がぶつかった後に魔王と衝突するものと思われます。我々の位置はかなり離れているので、よほどのことが無い限り戦闘を行うことはおろか目視することも無いかと思います。」


 イベリスはモニターに映った戦場上空からの映像を指しながら各軍の位置を示していきます。魔王側は魔の王と言うだけあって周囲に多くの魔物が布陣していますが、総数は1000にも届かない程度であり、先陣部隊で片がつくだろうと予想されています。

 ただし、魔王及び周辺にいる数人の魔物についてはデータベースに無いヒューマノイド型であり、どのような戦闘方法なのか不明であり注意するよう促します。

 地形データや周囲を固めている魔物の状況から各々の損失程度を予想し、その後どういった策がとられるのかをシミュレート。この世界の最も多い戦法から戦闘の推移などを説明していきます。


 説明を受けた皆様ですがポカンとしてます。指揮官がこれで大丈夫なのでしょうか? 不安になりますわ。

 それから各々は自身の指揮する部隊に戻っていきました。


「アリステラ様、彼等は大丈夫なのでしょうか? 少し抜けている様子でしたが?」

「あ、うん……おそらくこういった会議の方法が新鮮だったから少し驚いていたのだろう」


 アリステラ様はそう言って出された紅茶を飲みます。そういえば皆様にもペットボトルのお茶をお配りしていましたのに飲まずに持って帰ってしまわれました。


「ではお嬢様、我々も準備ができ次第……」

「ええ、分かりましたわ。」

「リリア達も準備をするのか? 魔王がいくら強くとも戦場がここまで及ぶことあるまい?」


 自軍に自信があるのは結構なのですが万が一を想定し動いてくださいと震電に言われていますからね。私は【ハウンドⅡ】にて待機です。なお、イベリスは【イーグルⅢ】と呼ばれる可変戦闘機(2話で登場した人型に変形可能な航空機)に乗り戦場を上空から確認するそうです。

 

「ええ、別にここから離れるわけではありませんので」

「そうか……」


 そう言って私も紅茶を口に含みました。


 そして変形解除。野戦司令部は元のキャンピングカーへと変形しました。



 ◇ ◇ ◇



「ほう、もう来たのか」


 そう呟く男が一人。かつての教会跡地に堂々と佇むその姿は多少大柄ではあるが、人間と変わらない。

 黒い鎧を身につけ、手には禍々しい黒いオーラを放つ杖が握られている。

 周囲を固めるのはかつて苦楽をともにしてきた魔族達。

 そう、この男こそ魔王であった。



 魔王が呟いたように眼前には人間の軍2万が広がる。

 今戦いの火蓋が切って落とされた。



 まず接敵するのは最前列の歩兵だ。各指揮官の指揮の下、武器を構え一斉に突撃していく。

 その人間軍の兵士とぶつかるのは魔王の周囲を固める魔物達だ。魔王が復活してまだ間もないため数こそ集まっていないが、それなりに強力な魔物達である。


 両者が激突する。


 強力な魔物とは言っても数は人間達の方が圧倒的に上であり、徐々に押しつぶされていく魔物達。

 そうしてしばらくすると魔王の周囲にいる魔物達の約半数が潰された。


 だが決して、人間側も無傷とはいえない。前線に出ていた歩兵の約8割が死傷する結果となった。


「クソッ、いきなりこれか! やってくれる!」

「8割の損失だと! あの程度でか!」

「しかし魔王側も戦力は少ない様子。このまますりつぶせますぞ!」


 各指揮官が各々の陣で怒鳴り合う。数は圧倒的に多い自分たちが相手側より手ひどい損害を被ったことに怒りを爆発させていた。

 本日は日も暮れてきている。野戦の続きは明日になるだろう。場所を移動できない魔王側と違い、人間軍は魔王と距離をとり明日の戦に備える事になった。


「明日の戦、本命はこのあとの第一王子達の魔導鎧と騎兵です。これで魔王に一撃食らわせてやりましょうぞ!」

「一撃ではダメだ! そのまま魔王を滅せよ! 人類の敵を排除するのだ!」


 翌日、最高司令官の号令の元、第一王子達の駆る魔導鎧と騎兵隊が突撃を開始した。



 ◇ ◇ ◇



「震電、アリステラ様にも情報拡張端末を。」

『了解です。ミス,アリステラ、こちらを』


 そう言って、震電がアリステラ様にチョーカーを差しだそうとしますね。それを訝しんだ目で見ていたアリステラ様ですが、私が首に巻いていると同じ物で情報をやり取りする他、便利機能満載の道具だと説明するとすぐに受け取り、自身に装着してくださいました。


「それで、このチョーカーはどういった役割があるんだ?」

『少しお待ちください。脊髄の電気信号に紛れ込ませて、各種情報を送ります。お嬢様(レディ)との情報差を埋めるため多少大容量の情報を送りますが我慢してください。』

「どういうこ――――くぁぁぁぁぁ!!」

「「お、お嬢様!!」」


 額に汗をびっしりと浮かべ急に苦しみだしたアリステラ様に使用人達が慌てて駆け寄ります。そして、そのまま野戦指揮車内部へと連れて行こうとしたようですが、そこでアリステラ様の意識が戻りました。


「はぁはぁ……ぜぇぜぇ……こ、これが……リリア達が見ていた物か。ハハハ、凄いな」


 意識は取り戻したものの、かいた汗で髪や衣服が肌に張り付き不快感が増しているはずであるのにその顔は晴れやかです。


「アリステラ様、その前にシャワーを浴びてきて落ち着いてはいかがかしら? 試す機会(・・・・)はいくらでもあるでしょうから。」

「ああ、そうさせて貰おう。キャンピングカーを借りる」


 そう言ってアリステラ様は着替えなどを持った使用人と一緒に、キャンピングカーに入っていきました。




「えっと、震電、何をしたの?」

『アリステラお嬢様は信頼に足ると判断されました。そのため一部情報の開示を行いました。脳への刺激信号に学習用の暗号化信号を混ぜ込み短時間で我々(・・)の戦力となるようにしました。予想通りミス,アリステラはこれを一時的な体調不良程度で復帰しました。』

「それで、何が出来るようになるの?」

『現在のお嬢様と同程度のことであれば問題なく行えます。各種軍用AF(【ハウンドⅡ】や【イーグルⅢ】など)の操縦などです。』

「なるほどアリステラ様が戦友(・・)となられるのですね。」


 私が理解した時でした。上空を強襲揚陸艦が上空にやってきました。と言っても高空なので肉眼では小鳥程度にしか見えませんが。

 その後、強襲揚陸艦は私達の上空に静止、下部ハッチが開き【ハウンドⅡ】とハウンドⅡよりも少し細身の見たことの無い機体――【イーグルⅢ】が地上に半自動モードでスラスター降下。そのまま私達の前に降り立つと片膝をついて待機モードに入りました。

 ちなみに、私の【ハウンドⅡ】には右肩にこの国の国旗が、左肩にはセルドランス伯爵家(私の実家)の紋章がペイントされています。いつ見ても格好いいですね。無骨ながらも機能性を追求した機体といった感じです。

 イベリスの【イーグルⅢ】は少し尖った感じのブルーの機体で、人型から航空機型ヘの変形が可能なのです。ただその複雑な変形機構は機体の整備性や量産性を下げてしまいます。機動力は【ハウンドⅡ】を圧倒する、一点特化型の機体だそうです。


 私達の前で片膝をつき頭を垂れる姿は、まるで主君を前にした騎士のようですね。


 周囲は轟音を立てて降りてきたその2機に騒がしくなりました。なぜでしょう。この時間に私達の装備(・・)が届けられると事前に連絡していたはずですが。

 中には武器を構える者まで居る始末。


「静まれ! あれは味方だ!」


 そのときシャワーから帰ってきたアリステラ様が大声で周囲に説明し始めたことにより、周囲は落ち着きを取り戻して――


「「「アリステラ様万歳!! リリア様万歳!!」」」

「「「さすがは金冒険者だ!! この戦、勝ちましたぞ!!」」」


 ――落ち着いてはいるようですが、静かにはなりませんでしたね。


 あら、イベリスの【イーグルⅢ】は背部に大型ビームランチャーが標準装備らしいですね。変形するとそれがちょうど前を向くのでスリムですし。カッコイイですわ……


「私の【ハウンドⅡ】もああいった大型装備は無いのですか?」

『存在します。……魔王はエネルギー兵器対抗策はなさそうですので転送します。』


 一拍後、私の【ハウンドⅡ】の背部から肩の空間が揺らぎ、大型兵装が右肩後部のバックパックとドッキングされました。


『356㎜ビーム砲です。誤射には注意を』

「まあまあ! 大きくて太くてカッコイイわ!」



 さて準備は整いました。それでは明日に備えて就寝するとしましょう。


 それにしても……


「魔王は馬鹿なのかしら?」

『魔物は大多数が夜に行動しても問題の無い種です。なぜ夜間の奇襲を行わないのか理解出来ません』


 私達が見ているモニターにはそれぞれの布陣が光点で示されています。人間側はまとまって野営して夜を越すようでありますが、魔王側も同じようにまとまっている事がうかがえます。これは一体何なのでしょう。

 魔王が律儀に戦の掟を守るなんて滑稽な話は聞いたことがありませんが。


 とにかく何かあったときのためにも常時監視は行っておくべきでしょう。


「震電、お願いしますよ」

『勿論ですお嬢様(レディ)


 周囲が暗い現在も魔王の監視を続けています。暗視スコープや赤外線、電磁波あらゆる観測機器を用いて魔王の正体を探っています。その監視網は猫の子一匹通しません。


「では何かありましたら、ご連絡しますので、お嬢様はお休みください。ミス,アリステラも。」


 そう言いつつ私はキャンピングカーに入っていくのでした。


「ええ、今日もご厄介になるわ。それにしても……」


 アリステラ様も後に続きますがチラリチラリと後ろの【ハウンドⅡ】を何度も振り返っていました。

(いいなぁ……)

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