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12話 のんびり進軍ですわ

『魔王ですか。どういった存在なのですか?』

「うーん、人間に敵対的でとても恐ろしいそうですわ。何でも子供をさらって食べてしまうとか」

「お嬢様、子供相手の作り話が混ざっています。魔王というのはその名の通り魔の王です。魔獣などは魔王が生み出した生物と言われています。人間とは別の種族であり、人間を憎んでいると聞きます。また優れた魔法使いでもありその魔法は1000の軍を一瞬で消し飛ばすそうですね。」

『人間に敵対的な種族ですか。人種問題すら解決できていない人類には確かに難しい問題でしょう。』

「しかも、あのクソ王子が復権して対魔王の指揮を執るそうですわ。納得いきません」

「魔法遺産を手に入れたようですね。伯爵様やバルトシェル侯爵が抗議しているそうですが、効果は薄いようです。第一王子派に寝返る者も出てきているようですよ。」


 魔王復活の報。それは大陸中の国々を駆け巡りました。なぜ魔王が復活した事が分かるかですって? それは北方にある封印の地からの連絡が途絶えたからです。魔王を封印していると言われる地には現在大きな教会施設が建っていたのですが、そこがまるごと消えていたそうです。連絡が途絶えた事で各国が調査に乗り出し発覚したそうです。

 10人規模の調査団がそれぞれ各国から派遣されたのですが帰ってきたのは各国に1人ずつでした。そうしてもたらされた魔王復活の報。もう各国共に上へ下への大騒ぎだそうです。


 そうして魔王復活からさらに1週間後、各国の合同軍が魔王のいると思われる北方に向けて出発するそうで、今現在準備を進めているそうです。


 さて、第一王子とその友人それにマリー様ですが、何と最前線に投入されるそうです。その理由はなんと言っても魔法遺産の存在でしょう。4賢者からその遺産を直々に託されたとあって、彼らの復権も進んでいるようです。

 クッソ忌々しいですわ! ……あらイヤだ。聞いていらして? オホホ!


 その魔法遺産についてですが、戦意高揚のため王城広場にて大々的なお披露目がされました。

一言で言うと大きな鎧ですね。金属製のようなのですが塗装をされていないので銀色にピカピカ光っています。フルプレートメイルがそのまま大きくなっただけなので関節の可動範囲も狭そうです。正直言って【ハウンドⅡ】の方が格好いいですし強そうです。その大型鎧ですが王子達しか動かせないそうです。魔力がどうとか言っていましたが、とどのつまり最大の戦力を王子達が抱えてしまっているのですね。危険な兆候ですね。マリー様とも縁が切れていない状態で復権しているので……あいつら本気でマリー様一人に夫が4人となるつもりなのでしょうか? 次代の王国は荒れそうです。


 え? お前もロボット使ってバンバン人を殺してただろうって。私は良いのですわ。なんと言っても私は伯爵令嬢にして“戦乙女(ヴァルキリー)”、この国に対する義務があるのです。ノブレスオブリージュ!


 さてさて以前に勲章(シルバースター)を貰っている私達にも国王陛下直々に参加要請が下りましたね。今回は世界の危機と言うことで、国王陛下自ら軍を率いて出陣されます。他国も似たような感じです。

 最高指揮官は国王陛下ですがその参謀として、何とアリステラ様が出陣なさいます。本当はアリステラ様のお父様が行く予定だったのですが、アリステラ様本人の強い要望により彼女が代理として行くことになりました。そして私はその下につきます。

 え? 勲章貰ったのに下っ端仕事なのかって? 根回ししましたが何か?



 ◇ ◇ ◇



 夜明けと共に総勢5千にも上る軍が国を出発しました。目的地は北方の教会跡地。そこに魔王がいるそうです。ちなみに魔王は現在のところ一人で部下や魔物などは従えていないそうです。

 しかしそれでも脅威なのです。何せ一つの魔法で千の軍を焼き尽くすと言われる魔法使いです。今回の派兵についても人数についてかなり揉めました。ただ相手が1人なので一度に戦闘を行える数が決まってくるため少数精鋭となったのです。


 そうして数日の行軍中に各国の軍が合流して総勢4カ国2万の兵となりました。


 魔王側に準備をさせず短期決戦を挑むという方針の元、話し合いから派兵まで1週間というスピード勝負に出た訳ですが、勿論良いことばかりではありません。

 まず指揮系統が一本化されていません。4カ国はそれぞれの指揮系統を持っているために2万と言っても実質5000×4なのです。それと準備期間の関係で補給が十分ではありません。そのため決戦が長引けば物資が不足します。まあ、だからこそ短期決戦を目的にしているのですが。

 とまあ、そんなこんなで軍は進んでいきます。



 ◇ ◇ ◇



「あ゛~、暇ですわ」


 はい、リリアです。ただ今進軍中ですね。ただ私は体が弱いので……今は関係ないのですが、車の中にいます。ゴージャスな大型キャンピングカーです。乗り心地は馬車の比ではありません。今にも眠ってしまいそうです。イベリスったら「お嬢様に普通の行軍は無理でしょう」ですって。失礼してしまいますわ。プンプン!

 運転はイベリスがやっている――ように見せかけて実は震電がやっています。イベリスは今、戦地の情報を集めている最中です。

 無人偵察機や偵察衛星などから得られた情報により魔王側の戦力の割り出しを図っている最中です。私はその報告を聞く係なので今のところやることがありません。

 車の運転をしたいと言ったのですが、イベリスに拒否されました。以前運転をやったら盛大に木にぶつけてしまったのを根に持っているのでしょうか。

 なので、私は後ろのソファーにて紅茶をたしなんでいます。……暇になってきたので運転席にいるイベリスを覗いてみましょう。


『今のところ気付かれていません。各センサー類は正常。観測数値について生物を逸脱するものはありません。ただし魔法という物についてデータが不足していますので観測網が構築できていません』

「やはり魔法がネックですね。どの程度の魔法を使用するのかで対処が変わってきます。……目標の体表面より微弱な重力波が出ていますね」

『ただの生物が質量レーダーを持っていると?』


 安全距離からの各種センサー類を用いた観測結果はある程度出たようですね。それによると魔王もまたただの生物のようです。各種データによりその能力は数値化出来ます。それによれば人間に比べれば身体能力が高いようですが、(オーガ)などの魔物ほどでは無いそうです。ただ、他の生物には無いような特殊な器官も存在するそうです。


「ねえ、震電。無人機? から攻撃できないの?」

『可能ですが、こちらの存在を悟られる危険があります』

「お嬢様、後でちゃんと報告しますので。ほら景色が綺麗ですよ。」

「もう、イベリスったら、さっきから森ばっかりじゃない」



 ちなみに我が伯爵家からは私とイベリスの2名の参加です。お父様は兵を出すつもりだったのですが私の「邪魔です」の一言で沈黙しました。お父様は以前の私の活躍を知っていますから当然でしょう。ただ、その他の貴族はそうは見なかったようです。「兵を出さないのか」みたいな嫌味を言われることがあったそうなのですが、私の金ランク冒険者証で黙らせました。「金ランク冒険者2人じゃ不服か、あぁん?」



 ◇ ◇ ◇



 さて、無人機からの先制攻撃案は却下されました。現時点でこちらの存在を悟られたくない他、現地には各国の斥候が既に展開しています。下手に攻撃して何があったのかと騒ぎになってはいけません。


 既に辺りは暗く夜になろうとしています。勿論、魔王のいる本拠地まで1日で行ける距離ではありませんので(歩兵も多いですしそれなりにかかります)野営となります。


 今は夏です。こんな熱帯夜で虫も多いのに野営なんて兵士の皆さんは逞しいですわね。私には真似できませんわ。クーラーの効いた車内でホットティーを嗜みます。オーホホホ! ゲホッ!


「すまないな……これが最新の魔導馬車か。」

「いえいえ、お気になさらず」

「しかしここは快適だな。外の暑さが嘘のようだ」


 現在、アリステラ様を招待してのディナータイムです。この大型キャンピングカーは震電が長期移動用の馬車の替わりにと作ってくれた物で有り、居住性は抜群です。新世代型燃料電池から生み出される豊富な電力は1ヶ月単位での無補給運用を可能にしています。

 室内を明るく照らす照明、室内を快適な温度にする空調、シャワールームにキッチン、シャワートイレなど快適な空間を演出します。

 数百年も続く老舗の国産自動車メーカーのものだそうです。


 私とアリステラ様、そしてイベリスにアリステラ様付きの使用人2人の合計5人が車内にいますがそれでも窮屈さは感じません。尚、震電は運転席の方で置物に擬態中です。

 アリステラ様は自身の家の私兵の他に身の回りの世話をする使用人を何人も連れてきていますが、さすがに全員を収容するスペースはありません。その他の使用人達は車外で兵士と同じように野営です。

 ベッドもキングサイズの物があり寝心地も抜群です。実家ならともかく行軍中にこの快適さはあり得ないでしょう。




 そうして数日は代わり映えのしない行軍の日々ですが、夕方になると必ずアリステラ様を招きました。アリステラ様も気に入って頂き、夜はこちらで過ごすようになりました。また、昼間にこちらに乗ってみたいと言うことで移動中に乗ってきたこともあります。



 そうして……



「……すまない」


 アリステラ様が謝罪の言葉を口にします。何を謝っておられるのかというと、このキャンピングカーの快適さが使用人達の噂になっているようです。アリステラがいらっしゃるときは必ず身の回りの世話をすると言うことで使用人が付いております。

 内部は空調が効いておりソファーや絨毯、ジュークボックス、シャワールームなどもありますし(バスタブはありませんが)、使用人も業務に支障が無い程度に使用していいと言ってあります。

 対して外は、昼は夏の炎天下の中、馬車や徒歩での移動で足やお尻が痛くなりますし、夜は野営用の簡素なテントに毛布は地面の固さを余すところなく伝えてきます。蒸し暑い上、森林地帯が近くにあり虫も多いです。

 さすがに兵士の方は鍛えておられるようなので涼しげな顔をしていらっしゃる方も中には見受けられますが、そんな者一握りです。指揮官など高位職は貴族ですし、最高指揮官は王様です。勿論その身の回りの世話をするお付きの人もそれなりの人数が参加しています。体が資本の職場ではありますが今回のような長距離行軍は想定していないのでしょう。ストレスがたまっています。

 そのため、アリステラ様のお世話をしたい――キャンピングカーで本来のお仕事をしたい――と言う方が後を絶たなかったようです。

 一応、私も気にはしていますし、冷凍庫で保存していた氷菓などを差し入れたり、某老舗メーカーの虫除け線香なども配っているのですが。


 と言うわけでなぜか今日は4名の使用人が一緒に乗ってお茶やお菓子のお世話をしています。

 イベリスは運転席で震電と情報収集中ですね。


「そういえば、アリステラ様の部隊や私達はどのような配置になるのでしょう?」


 お茶をしながらアリステラ様と会話をする。私達は今回2名の参加と言うことで、アリステラ様の指揮下まとめられています。そのためアリステラ様達と一緒に行軍はしているが詳しい予定は聞いていません。

 そろそろ最前衛の部隊が魔王側の支配地域に到着するため軍議が開かれていたはずですが。


「ああ、私達はちょうど中央辺りに配置される予定だ。功績を誇りたい貴族がかなりいて誰を前衛にするかで揉めたのだが、私はそういったものはあまり必要ないのでな。おそらく戦闘にもほとんど参加しないだろう。」


 この真ん中というのは左翼右翼中央陣の真ん中という意味では無く、前衛後衛の真ん中辺りという意味です。

 真ん中辺りなので、私達が最前衛になって戦うと言うことは最前衛5000~1万人ぐらいがやられてしまったときです。


「そういえばあのク……王子達はどうなるのでしょう?」

「彼等は最前線だ。戦闘初期に騎兵と一緒に戦闘を行う。」

「そうですか」



 魔王という物がどういった物か今現在の情報では計りかねています。それは魔法の存在、その解析が上手くいっていないと言うことになります。言い伝えの「魔法で1000の軍を一瞬で消し飛ばす」と言う言葉が本当であれば、高度な魔法を使用し戦うという線が濃厚だろうとイベリスが言っていました。


 私達を一抹の不安が襲います。

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