11話 4賢人ですわ
4賢人。この王国の礎を造った4人と言われています。その方々は圧倒的な魔法で周囲を平定、まとめ上げたとか。この4人の名が今の貴族のミドルネームの元になっております。(なのでこの国の貴族のミドルネームは4種類しかありません)
その後4賢人のお墓は小高い丘の上に建てられました。そして彼らの亡骸と、そして彼らの身の回りの品、発明品などと共に埋められました。
初期でこそ大勢が参拝に来ていた場所ですが、最近ではほとんど誰も寄りつきません。そのため、墓石は風雨にさらされ劣化し、周辺の草は無秩序に伸びています。
その墓に近づく一団があります。5人の男女です。
「なあ、マリー。ここにそんな凄い物があるのかい?」
「ええそうよ。アルレアン。ここにある4賢人の遺産を使えば、私達の評価も変わるわ」
「ここにそんな物がねぇ」
「魔法遺産のことですか? あれは制作者については様々な説があるはずですが。」
アルレアン王子様ご一行です。アルレアンに続きクリストファー、トーマス、タールの取り巻きと彼らの恋人のマリーです。
それはお墓に近づきそうして……
「ゲーム通りね」
マリーはそう呟くと、周囲を魔法で掘り始めました。そしてしばらくすると、地面の下から地下へと続く階段が現れます。
見つけた階段を、彼らは下って行きます。
中に何があるのか知っていて
◇ ◇ ◇
古代の魔法遺産。そう呼ばれる物が世界各地で発掘される。現在の技術では再現不可能なそれは発見数の少なさも有り、一つ見つければ遊んで暮らせるとまで言われる。
古代に栄えていた魔法文明の物だという説やこの国の始祖となった4賢人が作り上げた物であると言う説など様々であるが、それらは総じて現代よりも高い水準の技術で作られており、学者達がそれらを再現しようと躍起になっている。
冒険者の中にはそういった遺産の探索を専門に行っている者も居るほどである。
ただし、発見される全てが役に立つのかというとそうでも無く、かなりの数は使い方が不明、もしくは一部しか分からないなどとなっている。
いま彼女たちの目の前にあるもの、それも魔法遺産である。
◇ ◇ ◇
「こ、これはっ!」
「すげぇ!」
目の前にあるのは魔法遺産、それもこの国の始祖となった4賢人が使用したと思われる鎧、そしてそれ等の前には台座が設置され4賢人が記した書物が長い年月で風化すること無く存在していた。
その存在感に圧倒される面々。そんな中、マリーだけは当然と言う表情をしてた。
「アルレアン、これを持ち帰ればあなたは王太子になれるし皆も実家を継げるわ」
「ああ、そうだな。マリー」
「でも、これどうやって持って帰るのですか?」
トーマスが尋ねるが、その疑問も最もだった。目の前にある鎧……仕掛け鎧の一種だと王子達は思っているそれは現在座っている状態ではあるが、立ち上がれば全高は10mをゆうに超える大きさだった。
それは鎧と言うよりは兵器の一種としてカウントされる物で、現役時代はその力を持って様々な外敵を退けてきた。一騎当千の兵器であり、天災と言われるドラゴンですら退ける力を持っている。
「そこに取説があるでしょう。それで動かし方が分かるはずよ」
「なるほど、私達で動かして行けばいいのか」
「これだな、どれどれ……」
その内容は4賢人が記した書物を手にする。するとその書物は輝きを放ちアルレアン達の前に像を結ぶ。
『よく来た。我が子等よ』
目の前に浮かび上がった像がアルレアン達のいる遺跡に響き渡るような声を発する。
「な、なんだこれは!」
「マリー、後ろに!」
「皆、大丈夫よ」
いきなり目に前に浮かび上がった半透明の人物が声を発し始めたため、アルレアン達は驚き、剣を抜こうとするが、ただ一人マリーだけは落ち着いており皆に落ち着くよう声をかけた。
「これは4賢人の記録よ」
「記録? これが?」
「目の前にいるのが4賢人様だというのか」
『我が子等よ。ここに来たと言うことはこれが必要になる事態になったという事。これから国は困難に直面するだろう。だが忘れないで欲しい。そなた達は一人では無いのだと――――』
そうして、語られるこれから国が直面するであろう危機。それをこの遺産を使って乗り切るように4賢人から言葉を託されたアルレアン達5人。
そうして、譲渡の儀は終了する。4賢人から4つの鎧――もとい魔導鎧【フォレストロン】。魔導鎧は搭乗者の魔力を増幅し動く。そして動かせるのは登録した魔力を持つ者、つまり現在魔導鎧を託されたアルレアン達である。
魔導鎧は4体存在し、それぞれがアルレアン、クリストファー、トーマス、タールのそれぞれに割り振られた。
「さあ、皆、帰りましょう」
「そうだな。これなら私の復権も問題ないだろう」
「でも、4賢者様が言うには国に悪い奴らが来るってんだろ?」
「この【フォレストロン】を使用しなければならないような事態……間違いなく大事ですね」
「大丈夫よ、皆! 私達とこの魔導鎧があれば切り抜けられるわ!」
4賢者は魔導鎧を与える共にこの国を襲う困難についても言及していた。それに対して少々難しそうに考えるアルレアン達男性陣であったが、マリーだけは楽観視していた。
(そんなイベントなんて何でも無いわ。どのルートでも選択肢さえ間違えなければ魔王を倒してハッピーエンドなんだから。それにしても【フォレストロン】ってダサい名前ね。乙女ゲーにロボット要素なんていらないのよ)
そうしてアルレアン達は魔導鎧に乗り込み遺跡を後にするのであった。
◇ ◇ ◇
その後、王城はまたもや騒ぎとなっていた、王位継承権を剥奪した王子やその友人達が魔法遺産を持って帰ってきたのだ。
この国の始祖と呼ばれている4賢者により伝えられた真実。この国に向かっている悪意。そしてそれを迎え撃つために選ばれた4人。
王は悩んだ。自身の息子が4賢者により選ばれたのだ。王位継承権を剥奪した件については間違っていないと思っている。だが、これから起こるであろう国難に対処するためにはアルレアン達の力が必要なのだ。
「……アルレアン、……王位継承権の剥奪を撤回する。国難に対処してくれ。クリストファー、トーマス、タールも実家に戻れるようにしよう」
「はっ! 勿論です! 必ずや危機を回避し国を存続させましょう!」
王は玉座に座りながらも苦虫を噛み潰したような顔でそう告げる。
それに対して自身に正義があると信じ切っているアルレアン達は勢いよく返事をする。
◇ ◇ ◇
「何なんですの! あの男共はっ!」
ダダダッ! と軽快な音共に【ハウンドⅡ】の主武装であるカービン銃から放たれた35㎜弾が目標に打ち込まれる。
次の瞬間、そこにいた盗賊共が地面ごと耕される。「ぎゃーー!!」「たしゅけてーー!!」「おがーちゃーん!!」などと大声を上げて全力疾走していた男共が次の瞬間には物言わぬ肉片に成り下がる。
「お嬢様、落ち着いてください。情報源が全滅してしまいますよ。」
『問題ありませんイベリス。敵拠点は現在無人機が制圧中です』
震電の言葉通り、陽動により拠点外につり出された盗賊達とは別に拠点には現在、震電に制御された3m程度の多脚戦闘車両――細長い胴体に4本の足、2本の腕、胴体後部に20㎜機銃1門がついたサソリのような小型ロボット――が別に盗賊達の拠点を順次制圧中である。
リリアはお冠であった。なんせあの失礼極まりない男共――第一王子共がそろって復権したという情報が舞い込んできたからである。さすがにリリアの父親である伯爵やアリステラの家も反対の立場を表明しているが、国に迫る危機を前にしていがみ合いをしている場合では無いだろう。などと言われる始末。
リリアは行き場の無い怒りを父の領地の盗賊共にぶつけていた。とんだとばっちりを受けた盗賊共は既に100人単位で領地から消えている。
『お嬢様、拠点の制圧が完了しました。捕われていた民間人及び各種証拠も押収済みです。』
「……ふぅ。少し気が紛れましたわ。」
ドカンッ! と言う音共に同軸グレネードを放ち最後の一人を挽肉にしたところで作戦は終了した。
なお、余談ではあるが、捕われていた人達は盗賊達を殺しながらやってくる無人機を見て魔物だと勘違いし恐怖したという。




