10話 やってやりましたわ
視点変更あり
皆様ごきげんよう。私、リリア=フォン=セルドランスと申します。
先のパーティーは大変でした。
何と王子様が婚約者であるアリステラ様に口汚い言葉を発し婚約を解消されました。そうして新たに婚約者に選ばれたのは何とあのマリーというビッチ。確認した限りでは4股している女です。
周囲はざわめきながらも王子様(の権力)が怖いのか、誰も口を挟もうとしません。
イラッとしましたのでやっちゃいました。てへっ♪
王子様に平手打ちを食らわした私はそのまま、
「アリステラ様に対する暴言、見逃せません。現実を見なさい! このイ○ポ野郎! ですわ!」
と言ってやりましたわ。ちなみに「ですわ」と付ければ大体上品に聞こえます。
王子を殴ったことに対して周囲からは悲鳴が上がります。カトレア様やデイジー様は心配そうに見ています。
殴られた王子は呆然とし、そして殴られた頬を触りながら、
「殴ったね! 父上にも殴られたこと無いのに!」
などと、つまらない返ししか出来ません
「殿下に何をする!」
「お前、アリステラの取り巻きか!」
周囲のイケメン軍団も慌てて声を上げていますが、全く怖くありません。
そのまま王子の周囲にいた3人はこちらを取り押さえようとしてきますが、私には震電から通信教育にてカラーテを習っているのです。
まず最も手強いと思われるクリストファー様がつかみかかって来ましたがその腕をとり、そのままひねりあげ膝をつかせると、低い位置に来た股間を踏みつけます。
「ぴぎゃぁぁ!」
次に何かしらの魔法で私を取り押さえようとしていたトーマス様を猫騙しにて詠唱を中断させ裏拳にて股間に一撃
「ぴぎぃ!」
そして――
「ひぃ!」
あら、最後の一人、タール様はこちらの視線が向くとビビって自ら尻餅をついてしまいましたね。滑稽ですわ。
「ななな、何をするんだ! こんなことをしてどうなると思っている!」
最初に殴ったリアクションのつまらない王子様は精一杯虚勢を張っているようですが、足がガクガクと震えています。
あら、可笑しい。ウフフ
さて王子様に追撃をと思っていたところで、騒ぎを聞きつけた教師陣が駆けつけてきました。そのまま仲裁に入り――きれなかったので、急遽パーティーは中止され、各自家に戻されました。
さてさて、家に帰って次の日、噂を聞きつけ事情説明を求めてきたお父様に、事のあらましを説明しました。勿論マリーというビッチの不貞の証拠も突きつけてやりましたわ。
お父様は「王宮に相談してくるので、お前は今日は家にいなさい」と青い顔でフラフラと出て行ってしまいました。まあどの道、今日は学園は休みです。昨日の事件を受け臨時休校となりました。
さてその後、アリステラ様の家の方が訪ねてきてくださって色々と話してくださいます。腐っても侯爵家(腐っていませんが、いえ、アリステラ様などは輝いておりますわ!)。アリステラ様のお父様などは今回の婚約破棄騒動について国王に抗議に行くそうです。
アリステラ様自身は王子を慕っていたようですが、それはあくまで立派な統治者になるようにという物で、女性にうつつを抜かしダメになった最近は失望の方が強かったそうです。そうして、あの婚約破棄騒動の時、王子から言われて自分は王子を愛していないと悟ったそうです。とはいえさすがに4股しているマリー様を王子とくっつけるわけには行かず注意をしようとしましたが結局あのような事態に。
アリステラ様自身からは「すまない。だが庇ってくれて嬉しかった。」という言葉を貰いました。
◇ ◇ ◇
王城は上へ下への大騒ぎであった。なにせ次期国王と目されていた第一王子が色に走り、権力基盤固めのために行った侯爵家との縁談を大勢の前で破棄したあげく、婚約者を罵ったのだ。アリステラの実家のバルトシェル侯爵家から正式に抗議が来ており、さらに侯爵の派閥貴族からも不審の目を向けられている。
アルレアン第一王子自身は全く反省しておらず、「自分は真の愛に生きるのだ」と訳の分からないことを言っている。さらに自分を殴った令嬢に対し処罰を求めている。
セルドランス伯爵は自身の娘はやり方に問題はあったが、王子を諫めるために行動したのだと主張。バルトシェル侯爵家もこれを認めている。
リリアの父親もアリステラの父親も基本的に娘に甘いところがあるので口裏を合わせている。
さてこれに反発する家もある。王子の取り巻きの実家やマリーの実家だ。彼らはアルレアン第一王子が今回の事で悪者にされると自動的に自分たちも同じ側になるため王子の擁護に必死だ。なんせ自分たちの息子達が王子の友人であり、そろってマリーという少女を擁護しているのだ。
それ以外のあまり関係ない貴族達は8:2で王子が悪いという方が多い。と言うか、さすがに4股する女性を王妃にしたい貴族は少数派だ。第一王子が今後王位を継いだ場合を考え王子側に付く者も少数現れた。ただ、基本的には静観し、国王の判断に委ねるという感じだ。
◇ ◇ ◇
王城、その一室に各貴族が並ぶ、その話題の中心は私達だ。
第一王子に取り巻き3人、マリー、アリステラ様、そして私だ。
「では、前日発生した事件について処分を言い渡す」
そうして王様から語られたのはまあ妥当な結果でした。
私とアリステラ様はお咎め無し。むしろ息子を良く諫めた的な言葉を王様から頂きました。
おそらくアリステラ様の実家が根回ししてくださったのでしょう。侯爵家としても大きく、その派閥を含めると国王も忖度が必要ですから。
ただ、学園のマナー講師に「もっとスマートに」とお小言を貰いました。
アルレアン第一王子は王位継承権の剥奪。これによりアルレアン様は「王の実子」であるので王子は名乗れますが、王様になることは出来ません。
王子の取り巻き三人については実家から廃嫡。本人達が全く反省の色を見せず、実家も愛想を尽かしたようです。さらに彼ら3人はマリーが複数の男性と付き合っているのを知りながらも彼女のためならと、積極的に付き合っていた人物達です。その相手が王子様と各有力貴族の子息……多分これ子供が生まれたりしたら絶対揉めますわよね。
マリーについては実家が同じく廃嫡としてきました。ただこちらはどうも様子が違って自身の保身のためですね。娘は差し出すので助けてくれという感じです。なんとも感じ悪いですわ。
そうしてそれぞれの処罰も決まり。その場は解散となりました。
◇ ◇ ◇
「少しストーリーと違ったわね。あのモブ女何なのかしら……でも大筋は一緒だし、まあいいか。さて、私が王子様達を手に入れ、逆ハーエンドを迎える日が来るわ。クスクス」
マリーの怪しい笑いが彼女の自室に響いた。
病弱という設定はどこへ? うごご……




