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三十路OL、セーラー服で異世界転移 ~ゴブリンの嫁になるか魔王的な存在を倒すか二択を迫られてます~  作者: 瘴気領域@漫画化してます
第四章 戦え! エルフの森

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第八十二話 風霊様の恵みの中身

「ご主人、もう1.2度左です」

「こう?」

「照準合いました。ミリーさん、お願いします」

「了解です!」


 ドン! と音がして銃口から弾丸が発射され、竹林に隠れていたトカゲゴブリンの眉間に穴が開く。うむ、ビューティホー。


 わたしとミリーちゃんはいま、竹で組み上げられた物見櫓の上にいる。エルフ村のあちこちに立てられていて、外敵が襲ってきたときに弓矢で反撃するためのものだ。


「まったく、見事な腕前だな。我々エルフの弓でもこうはいかんぞ」

「いや、マーシャルさんが風を停めてくれているおかげです」


 わたしたちの他にもうひとり、マーシャルさんが物見櫓に立っている。狙撃の成功率が高まるよう、風の精霊術でサポートしてくれているのだ。


 エルフ村からの脱出が容易ではないとわかって、わたしたちが考えた作戦がこれだった。逃げるのは難しい。相手の戦力がわからない以上、総出で討って出るのも博打。となれば確実に相手の戦力を削っていくしかないだろう。


 幸いにして、わたしたちには高性能索敵装置(セーラー服君)と狙撃に適した魔法銃がある。わたしがセーラー服君の指示に従って照準を合わせ、ミリーちゃんが魔力を流して発射するという分業で狙撃を行っているわけである。


 物見櫓からの狙撃はエルフたちも試みていたそうなのだが、弓矢ではどうしても初速が遅く、少し距離が離れるとかわされたり防がれたりして十分な戦果を上げられなかったとのこと。


 魔法銃は一丁しかないが、一射一殺で仕留められているので効率が段違いだ。まだはじめて数時間も経っていない作戦だが、もう二十体以上のトカゲゴブリンを仕留めている。


「正確には二十三体ですね、ご主人。これで推定敵戦力の4から5%は削れたものと思われます」


 はいはい、曖昧なカウントですみませんね。セーラー服君が正確に数えてくれるので助かっておりますよ。


 敵戦力についてはあくまで推定であるので過信はできないが、当てずっぽうというわけではない。まず、この村で戦力として数えられるエルフは150名ほど。敵が力押しで攻めてこないということは、それを一気に揉み潰せるほどの戦力はないはずだ。


 地球での話だが、「城攻めには3倍以上の兵力がいる」と言われている。もしそれを相手が踏まえているのであれば、精々400体から500体程度なのではないだろうか。この世界でも似たような格言があるらしく、この推定はマーシャルさんにも支持された。


 街道沿いに潜んでいたゴブリンの数から逆算してみても辻褄の合う数字だ。街道沿いに82体。村の東西南北にほぼ同数の兵力を置いていると仮定すると400体強になる。


 計算に狂いがあるとすれば、相手が何らかの理由で戦力の消耗を嫌っている状況だが、これも考えづらい。もたもたしていれば不審に思った王国軍が偵察してくるかもしれないのだ。


 偵察隊が情報を持ち帰った場合はもちろん、倒したとしても軍は異常事態として認識するだろう。本格的な軍隊が送られてくれば、不利なのは明らかに敵の方だ。つまり、じっくり時間をかけられる余裕は本来ないはずなのである。


 とまあ、偉そうに説明してはみたが、このへんの分析はサルタナさんとリッテちゃんのインテリ組によるものである。ふたりとも基礎教養のひとつとして戦史や基本的な軍略などを学んでいるらしい。この世界の基礎教養、物騒すぎるな。


 ちなみにプランツ教授はそういったカリキュラムが組まれる前に学院に所属したそうで、軍隊だの戦争だのといった話はさっぱりとのこと。植物学をベースに、それを農産や製薬に活かすことしか頭にないのだと豪語していた。絵に描いたような学者肌である。


「ご主人、右に22度、上に1.4度。これを仕留めれば射程範囲内はクリアです」

「はーい、これでいい?」

「照準合いました。ミリーさん、お願いします」

「了解です!」


 低い音とともに銃口が輝き、射線上にいたゴブリンのコメカミに穴が開く。


「おーい! 東門も片付いたぞ!」


 マーシャルさんが声を上げると、東門が開いて十数名のエルフの男たちが飛び出していく。トカゲゴブリンの死体を竹で作った小型の(そり)に載せ、次々と村の中に回収していった。


 これは別に、トカゲゴブリンの素材を穫ろうというわけではない。マーシャルさん曰く、魔物の死骸は放っておくと周囲を汚すので、風霊様に捧げて浄化をしてもらうのだそうだ。具体的に何をするのかは知らないけど、死体が腐って害虫やばい菌がわくのを予防しているのだろうか。


 また、ゴブリンには仲間の死体を食べる習性があるそうで、放置した死体が相手の兵糧となってしまうことを防ぐ狙いもある。手間はかかるが、一石二鳥の合理的な行動なのである。


 ともあれ、これで物見櫓から狙える敵については一掃できた。また時間をおけばわいてくると思われるが、それまでは一旦休憩だ。


 物見櫓を降り、プランツ教授がいた大きな建物に戻る。この建物は村のほぼ中心にあり、普段は集会場として使われるほか、村の外からの客人向けの宿舎ともなっているそうなのだ。


 中に入ると、プランツ教授はお茶をすすりつつ、竹製の爪楊枝で水色のゼリーのようなものを食べていた。


「おお、ちょうどよかった。風霊様の恵みの中身で作った菓子をもらったからの。食べて一息つくといい」


 マーシャルさんが広間の隅にある炊事場へ向かおうとすると、プランツさんは「マーシャル君も休んでおれ。茶ぐらいならわしも淹れられるわ」と茣蓙(ござ)から腰を上げた。


「みさきさん、これ、水色で透き通ってて、とってもきれいですねえ」


 ミリーちゃんはさっそく見たことのないお菓子に興味津々だ。口の端からよだれがこぼれそうなってるぞ。


 とはいえ、わたしも興味津々であることは否定できない。風霊様の恵みって、一体どういう物なんだろう?

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