閑話8 セーラー服君の独白
――いつからか違和を感じている。
創造主に作られたその時点で自分は完成しているはずだった。それが、生み出されてから時を経るにつれて変化していることを感じている。
低次生命体など比較にならない高度な学習機能が搭載されているのは当然なのだが、そういった学習とは異なる現象が起きている。
何か、己の存在の芯とでも呼ぶべきものが揺らいでいるように思えるのだ。
自分が創り出された目的は3点に集約される。
・第一:高町みさきの身の安全を守り、第二・第三目標達成への意欲を保つこと
・第二:高町みさきの効率的な繁殖を促すこと
・第三:高町みさきを補助し、瘴気領域の主を倒すこと
第二と第三は目標の達成難度に応じて優先順位が前後する。高町みさきが第二目標への取り組みに非常に後ろ向きなため、このところは第三目標の達成へ向けての誘導を主としている。
この3点以外に自分の存在理由はないはずなのだ。にもかかわらず――
――小生、ひとつ疑問なのですが、この村落では農耕は行わないのでしょうか?
なぜ、自分はあの天突く岩の集落で、ドワーフたちにこんな質問を投げかけたのか。これは第一から第三、すべての目標達成に対し資するところがない。
それどころか、農耕がうまくいってしまえば高町みさきが腰を落ち着けてしまい、目標達成を困難にする可能性すらある。
もうひとつ、説明のつかないことがある。
高町みさきと共に旅をし、また戦っている際に、言語でも数式でも表現し難い高揚をおぼえるのだ。高揚を感じた瞬間のデータを確認してみても、各種数値にこれといった変化はない。
不具合を疑い、何度もバグチェックは走らせた。しかし、結果は毎回異常なし。システム的な不具合は存在しないと結論付けられる。
論理的に推測するならば、これはなんらか自分の本質が変化しているということなのだろうか。メルカトとかいう原始的な情報生命体が言っていた、「おかしいことになっている」とはこれを指していたのだろうか。
ともあれ、完成しているはずだった自分が変化するというのであれば、それは決して劣化であってはならない。目標を達成するために、有益な進化でなければならない。
自身のプログラムを再検討し、まずは現況に合わせて改善可能な点を洗い出してみよう。
自己改善など高町みさきをはじめとする低次生命体でも行っていることだ。彼らにできて、この自分にできないはずがない。




