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三十路OL、セーラー服で異世界転移 ~ゴブリンの嫁になるか魔王的な存在を倒すか二択を迫られてます~  作者: 瘴気領域@漫画化してます
最終章

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第百一話 江戸時代って、こんなかんじなんでしたっけ?

 コンクリートのような白漆喰(しろしっくい)で固められた建物の数々。窓がやたらに大きく数も多いのは、湿気がちで暑い気候に適応したからなのだろうか。


 南方に到着して数日、とくにやることもなく街の中をふらふらしている日々が続いている。サツマイモもどきはこのあたりの主食ということもあって市場ですぐに手に入れられたし、メルカト様の神殿の伝手(つて)で栽培方法も詳しく教えてもらえた。


 その他にも天突(あめつ)く岩で育てられそうな作物には一通り目をつけ、種やら株やらを手配済みである。


 それならさっさと帰ってしまえばよいじゃないかと思うかもしれないが、道中の安全を考えるとそういうわけにもいかない。帰りも王国軍の偵察隊と同行して安全に帰ろうという予定なのである。


 その王国軍は何をしているのかと言えば、大部分はこの都市に駐留し、首脳陣だけが使節団として代表都市に向かっているらしい。南方「連合」というだけあって、元々は複数の国々だったものが、魔王の脅威に対抗するために連携したのがはじまりなのだそうだ。


 成立からの歴史も浅く、一枚岩とはいかないようで、首都も明確に定まっていない。連合の意思決定機関である議会が設置されている都市が首都――すなわち代表都市となるのだが、これは1年毎に持ち回りで各国の都市に変更されるそうで、なんともややこしい政体になっているようだ。


 お偉方の事情にとくに興味はないのだが、今年の代表都市はいまいる都市からはかなり離れており、使節団が戻ってくるまでだいぶ時間がかかるのだ。目的も果たしてしまったし、観光するような場所もほとんどない。


 そんなわけで、すっかり暇を持て余してしまっているのである。


 お、あっちに飲み物の屋台があるな。あれははじめて見たかもしれない。ちょっと覗いてみよう。


 そんなかんじで買い食いしながらそのへんを散歩するのがこのところの日課である。暇つぶしに冒険者の真似事でもしてみようかとも思ったのだが、酒場の張り紙にあるのは草むしりだの農家の手伝いだのの雑用ばかりで引き受けたくなるものはなかった。


 やりたいわけではないが、ゴブリン退治やら遺跡の探索やらといった危険を伴う「冒険」は一見では受けられないらしい。南方連合ではゴブリンなどの魔物による被害が多く、効率的な駆除のために冒険者組合なる組織が整備されているそうなのだ。


 いわゆる冒険者っぽい冒険がしたければ、実績を積み、試験を受けて組合員として認められなければいけないのだ。ぶっちゃけ、そこまで手間を掛けるほどやりたいことではないので、スルーした次第である。


 ミリーちゃんはこのあたりの鍛冶事情が気になるらしく、あちこちの武具店などを覗いて回っている。サルタナさんは商会を巡って顔つなぎだ。


「異世界って言っても、それほど地球と変わるわけじゃないんですね」

「……テレビで見た外国、みたいな」


 というわけで、自然と同行者はメガネちゃんとメカクレちゃんとなる。熱血イケメンも非番の日はやたらに絡んでこようとするのだが、今日は不在である。なんでも三日に一度ずつ休みになるそうだ。


 つまり、常時300人強の王国兵が街なかを出歩いている。軍隊がうろついているというといかにも治安が悪くなりそうだが実態は逆だ。規律正しい王国正規兵がそこらじゅうにいるおかげで、ならず者やヤクザのたぐいはすっかり鳴りを潜めているらしい。


 街の人々はこれまでの街と比べて浅黒い肌をした人が多く、女神モドキやカマキリ女がしていたような露出の多い服装をしている。そのため、わたしたちはよそ者として浮いているのだが、王国兵たちの評判がよいおかげで邪険にされることもなく、実に過ごしやすい。


 まあ、旅先で細かい予定を立ててあれこれやり尽くそうとするのは日本人の悪い癖だ。バカンスだと思って使節団が戻ってくるまでのんびりさせてもらいますかね。


 広場にあるベンチに腰を掛けて、先ほど買った飲み物を味わう。柑橘の果汁を炭酸水で割ったもののようで、少し塩味も感じる。南方は暑くてよく汗をかくから、熱中症対策なのだろうか。


 コップは驚くことなかれ、陶器なのである。白くてつやつやしており、シンプルながらおしゃれな出来栄えだ。こんな上等な品を屋台の飲食店がばらまいて採算が合うのかと心配になったが、コップの代金もしっかり価格に反映されているそう。


 それでは今度は買う方が割高になってしまうわけだが――あ、ちょうどいい。飲み終わったタイミングで来てくれた。


「おじさーん、これ飲み終わったからお願い」

「あいよー。あんがとさーん」


 リヤカー的なものを引くおじさんにコップを渡し、引き換えにお金をもらう。そう、屋台で買ったコップはこうして換金可能なのだ。間接的デポジットとでも言えばよいのだろうか。


 ひどく汚したり、壊してしまったら買い取ってもらえないので客は当然コップを大事に扱う。気に入ったら持って帰って自宅で使ってもかまわない。なかなかよくできたリサイクルの仕組みである。


「江戸時代って、こんなかんじなんでしたっけ?」

「……屑拾いでも商売になったらしい」


 あー、どうなんだろ。歴史はそんなに詳しくないからわからないなあ。江戸時代は完全リサイクル社会だった! みたいな本は何冊か読んだことあるけど、出典が怪しげなものも多かったのでどこまで真に受けていいものかわからない。


「たぶん、コップのデポジットはなかったんじゃないかなあ」

「そもそも飲み物の屋台ってあったんですかね」

「……蕎麦屋?」


 蕎麦は飲み物かあ。たしかに江戸っ子ならそれくらいのことは言いそうだなあ。


 そんな毒にも薬にもならない会話をしつつ、なんとなく人混みに目を見やる。このところ魔王軍の攻撃がすっかり大人しくなったとかで、街の人々の表情は明るい。平和というのは実に素晴らしいものであるなあ。


 ――えっ、あいつは!?


 人混みの中に、見知った顔を見つけてしまった。学術都市の選考会場でまず見かけ、そしてエルフ村の北門で死闘を繰り広げた忘れようもない顔。


 カマキリ女が、人混みに紛れて不敵な笑みをこちらに向けていた。

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