第6話 報酬など要らない
なんて、酷い色でしょう!
まるで泥の塊とも言える手は、朝日に照らされるとより一層黒く見えてしまいます。
(いいえ、もはや『泥』ですわ)
輝かしい見目に反して、手だけは隠す意味がリデル様以上……虹を紡ぐお仕事をされる代償がこんな!? 可哀想で済みませんわ!!
すぐにでも、この手をわたくしのスキルで!
言祝ぎはより一層、心を込めさせていただきます!!
『貴方様の御身。その汚れた外側を、この虹の彼方へと……永久に洗い流そう』
せっかくですから、あの劣悪な祖国にこの汚れが飛ばないか。ちらっと、リデル様に視線を投げましたが。わかっていらしたのか、頷いてくださったので……これも塊にして集めます。
集め切ったら、まるで鉄の塊のようにも見えましたわ。
『彼方へ散れ。我らの役目知らぬ者らへの罪を!』
何か言祝ぎが聞こえましたが、早口でうまく聞き取れませんでしたわ。でも、虹を通り越して、四方八方に散っていく汚れはわたくしの祖国だけではないのは分かりました。
貴族連中が、リデル様のことを貶す言葉はまだ覚えていましたから。
「す、凄い!? ぼ、僕の手……こんな真っ白に!!?」
ライオス様の手は、わたくしが洗濯したことでやはり真っ白になられていましたわ。手洗いが追いつかない汚れであれば……というのも不思議ですけれど。虹を編み繋ぐのはスキルなのでしょうか?
「……お役に立ちましたでしょうか?」
「とっても!! 凄いです、これはスキルの名称がよろしくないですよ。兄上!」
「……クロノ様にもいずれ聞こう」
「今は揺蕩っているのでしょうか?」
「…………念話への反応はない、が」
どなたかに聞かねば……は、今は大丈夫でしょうけど。
ライオス様に喜んでいただけて……お仕事が無事出来たことへ、わたくしは達成感に心躍りそうでしたわ!! 汚れの処理は、今後の課題ですけれど……王族の方々をきちんと綺麗に出来ましたもの!!
「さあ、リデル様! わたくし、宿舎はどちらになりますの?! 自炊も出来ますから、荒屋でも構いませんわ!!」
「……え?」
「……レティ。君は俺の婚約者なのだが……? 国賓同様と思っていい」
「あら、そんな。スキルは認めていただいても、わたくしのようなあばずれが国賓扱いなど」
「…………は?」
「……兄上。この方はほんと〜に、劣悪な環境に?」
「……調べが間違っていなければ。俺たち以下だ」
「報酬無しはいけません。きちんと、養育者から切り替えましょう」
「……とりあえず。城へ行こう」
「はい?」
そのように高貴な場所へ行く必要は、やはりあるようなので……もう一度、虹の布から到着した馬車へと押し込まれてしまいましたわ。
次回はまた明日〜




