第47話 繭殿のひとつめ④
柱の下に積みあがっていく毛束たち。金色の毛糸のようにも見えますが、極上の質感を持つ絹みたいにも見えますの。ふわもこちゃんは毛束の上をくるくる回るように飛ぶので、こちらに来いとでも言っているのでしょうか?
リデル様のところは終わっているか、ちらっと見たところ……まだ染めの段階もせずに手袋をはめたままぽかんとされていましたの。
「……伝説の、紬糸?」
「つむぎいと?」
「クロノ様がご自分の神力で編み紡いだとされている金の糸のことだ。……聖獣の保護のために、わざわざ使っていたとは」
では、これはとても貴重どころで済まない逸品なのですね? わたくしのような者が触ってよいか……と思いましたが、ふわもこちゃんが来いと言わんばかりにまだ飛んでいますので。
近づいてみると、艶やかな質感を保ったままの……やはり、美しい毛束でしたわ。これで布を織ればどれほど美しい仕上がりになるか気になりますの。
「これは……ここに置いておいた方がいいのでしょうか?」
「伝説級の逸品をおいそれと……は、思うが。量が量だからな? ここにライオスが居てくれたら紡げたが」
「セレストへ行かれてしまいましたものね?」
アディルカ様とごいっしょに、正式な婚約と同時に紡ぎ手としてのお仕事をがんばるのに……黒い方の頭巾でつくった手袋でお仕事がたくさんおありでしょうから。紡ぎ側の仕事がないと、染め側の仕事も溜まる一方だそうなので、あまり長居出来なかったそうですの。
「だが、父上に一部でも見ていた……あ!?」
「まあ!!?」
ふわもこちゃんが静かだと思っていたら、毛束をもしゃもしゃと食べておりましたの!? しかも、もうほとんど毛束が残らないくらいに!! あと少しをリデル様が掴もうとしたんですが、するっと床の上に落ちてしまい、ふわもこちゃんが全部食べてしまいましたわ!!
『僕のご飯だもん。お腹空いてたんだから、食べさせてよ』
耳ではなく、頭の中に子どもの声が。
リデル様にも聞こえましたが、視線はふわもこちゃんに向けられたまま……まさか、この子の声ですの?? すごく可愛くて、鈴に似た音色みたいですわ!!
「まあ、あなたのご飯でしたの?」
『そうだよ。起きたときに使うために、クロノ様が紡いでくださったんだ。ねぇ、君名前は?』
クロノ様の話題には驚きましたが、聖獣様に名を問われれば答えないわけにはいきません。出来るだけ、最敬礼のつもりでご挨拶させていただきました。
「失礼致しました。わたくし、レイシア=ファンベル=ラディストと申します。皆様には親しみを込めて、と、レティなどと呼んでいただいております」
「……リフィール=イシア=フォンベルト。皆にはリデルと呼ばれています」
『そっか。僕は太陽側の一角。シャディーレ。クロノ様に創られた『四獣』のひとつ』
「可愛らしいお名前ですわ!」
『ふふ。これを見ても?』
くるんと右から一周したかと思えば、勇ましい体格の一角獣のような金の獣となりました。尻尾のふわもこはそのままに……ああ、もう一度触りたい欲求が出てきますが、ここは我慢しますの!!
「では、シャディーレ殿はここで穢れを受け止めていたと……?」
『そうとも言えるね。対の繭殿とか月側はまだ目覚めていないようだから……僕が、イリスの血族では一番濃いからここに据え置かれていたのかもしれない。しかし、レティのスキルを通じて……解放されたんだ。まずは、ありがとう』
「とんでもございませんわ!」
いったいどれほど、長くここにあの状態で置かれていたかは存じておりませんが……きっと、大変だったのですね。そっと近づくと、ふわっと尻尾で背を撫でてくださいましたわ。
次回は金曜日〜




