第44話 繭殿のひとつめ①
途中何度か足を止めて休憩を挟みましたが、わたくしが野山を馬で駆け回ることが多かったせいか……そこまで、リデル様の足を引っ張ることはありませんでしたわ。
繭殿のひとつめに到着する時間もそこまでかかりませんでしたの。
『繭』というので、何かの『巣』を思い浮かべましたが……実際にその通りで。
神殿のように柱が多い建物の中央には『繭』が浮かんでいましたわ。真っ白ではなく、穢れと同じような泥みたいな色に。
「……これを、わたくしが浄化するのですか?」
「いっぺんにするのは大変だろう。虹染めの俺ももちろん協力するさ。ひとつ、試したいことがあってな」
「なんですの?」
「染めを薄くする方法とでも言えばいいか。穢れが染料だと思えば、ライオスたち『紡ぎ』の布が役立つかもしれない」
ライオス様を含め、セレスト側の『紡ぎ』のスキルは土台となる虹を糸のように紡ぐこと。しかし、それは染める手前に特殊な綿を使って布を織りあげることから……あのように、穢れを手以外にも受けてしまうそうですの。
穢れそのものを紡ぎ、空へ流すことで軽減するそうなのですが。わたくしはそうは思いませんわ。リデル様たち、ご子息でもあの汚れでしたもの……今までおつらかったでしょうに、全くと言っていいほど気にされていない。
そこには、わたくしがいるからとうぬぼれていいのでしょうか? ひとまず、リデル様の手が穢れに染まってもわたくしがいるので……染めを始めることにしました。
『紡ぎは糸雫。我ささらに願う者』
布束を繭の前に置き、リデル様は言祝ぎをつむがれましたわ。少し低く過ぎますが、耳どおりがよくて心地よい音色のようです。その音色が届いたのか、繭の表面から少しずつ穢れが剥がれて布に移りました。
ですが、繭の穢れのうちでもほんの少しだったのでしょうか。布は真っ黒に染まっても繭そのものの穢れは薄まってもいませんでしたわ。
「……やはり。俺程度では無理か」
「では、わたくしが」
「……正直。予想以上だが。繭のみに集中することは可能だろうか?」
「かしこまりました」
たしかに、繭を支えている糸束まで浄化が追い付くか。それこそ、お腹が空く以上に体力を失ってしまう可能性があるかもしれません。水はちょうど、神殿の周りに水場のような場所がたくさんあったので使うことは可能でしょう。
今日まで、リーリルお姉様のようにわずかでもイリスの血族が混じっている方々の浄化をしてきたのですから、自分の能力を調整する技術も特訓出来ましたから!!
まずは、神殿の左右にある水を汚す勢いで言祝ぎをつむいでいきます。
『我が吐息。水のささらに。巡りて巡りて、新たな水を呼べ』
水が飛沫を上げたのか、わたくしの声にどうやら応えてくださったようです。繭をお守りしていた神殿の水。あとでお返ししますが、今は綺麗に使えずに申し訳ありませんですわ。
次回は金曜日〜




