第37話 一番怖いのは実は……
「まだ未成年の女性をここまで怖がらせたのですよ? お覚悟、なさいまして?」
「「……はい」」
少しソファでじっとしてほしいとお姉様におっしゃられたのですが。魔法か何かを発動したかのような光と同時に、『ゴン、ガン』っと大きな音がしましたの。光が消えてしまってからは……床にリデル様とディルスお兄様が寝転がっていました? というか、頭を押さえて痛がっているようですの。
「殿下も、姫様が素敵なレディになられて舞い上がり過ぎてはいけませんわ。将来の王妃にとお望みでしたら、しっかりと周りの進言も受け止めるべきですわ。自分勝手はなりません」
「……わか、った」
「い゛だだだっ!? リル!? 身体強化使って本気で殴るな!!?」
「……ディー様?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
女性がいかにお強いのかを、目の前で見せていただけましたわ。これは……素敵なレディになるための、大事なお手本なのですね!! わたくし、お姉様の養育にもついていきますわ!!
「……何か嫌な予感がした」
「……俺もだ。だが、リルを憧れる女は多い。諦めろ……」
「……わかった。お前たちが控えている上で説明はする」
「そうしてくれ」
殿方同士のお話は聞こえませんでしたが、リデル様からきちんと今後のお仕事などの説明を受けることになりましたの。
「これまで『穢れ』の溜まり場となっていたところから、アーストの王太子としての仕事をしていた。しかし、穢れが『染料』と正しくなり得るのであれば……レティには、その穢れを浄化してもらいたい」
「それは……長い旅になりますの?」
「ある程度、近くまでなら……国布ほどではないが我ら一族に許された魔法布が用意されている。俺はあまり使わずに各地を回っていたが、今回からはレティも同席だ。存分に使うし、使うことで溜まる穢れの量も知りたい」
「わかりましたわ」
「姫さん。特に虹は水を好むから、湯治場へ向かうときは派手に浄化してやってくれねぇか? 結構依頼が入ってんだ」
「依頼?」
「我々イリスの用いる虹は、浄化をする魔法具だと各地では認識されていますが。実際は、土地に宿る穢れを具現化……だとも噂されています。どれが本当なのか嘘なのか、ディー様の『真偽の魔眼』でも読み取れておりません」
お兄様の眼帯の下には、魔眼と呼ばれる穢れをひとつに収束した『呪い』があるそうですの。一応、スキルらしいですが……これもわたくしのスキルで浄化してよいか伺うと。
「……考えて、なかったな」
「私もです。殿下方を優先していましたので……」
直系でなくとも、わずかに穢れを引き継ぐイリス国の貴族の方々。その穢れでスキルを持つ者、ない者もいらっしゃるようですが。まずは、リーリルお姉様の内側にあるという穢れを聖浄にて浄化していきましょう。
『貴方様の御身。その汚れた外側を、この虹の彼方へと……永久に洗い流そう』
定着させた言祝ぎにて、お姉様を優しく包み込むイメージで浄化を始めましたが。少しあとにお姉様が咳き込んでしまい、口から黒くて異臭の放つ『塊』が出てきましたの!!? 布は用意しましたのに、どうしてそちらに移らなかったのでしょうか!!?
「リル!!?」
お兄様が咳き込むお姉様の背を撫でられ、水を飲ませようと杯を渡しましたがうまくいきません。咳き込みが酷過ぎて、口の中に入っていかない様ですの。なので……ですが!!
「ひゃ!?」
わたくしが驚くのも無理ありません。目の前で、美男美女のお水を口移しで飲ませる儀式があったのですもの!!
次回はまた明日〜




